番外編2 ツイーンテールとポニーテール
「なあ、ツインテールとポニーテール。お前はどっちの方が好きだ!?」
昼休み。「姉さんの作った」弁当を食べ終えラノベを読んでいた俺に、西倉は机をバンと叩いてのたまった。
カッコでくくるとその部分がすごく大事に見えるよなぁ……。
そんな思考を混ぜつつ俺は虫ケラ間違えた西倉の質問を反芻する。否、反芻する必要もなく答えは出ていた。
「黒髪ストレート」
「第三の選択肢!? そこに痺れる憧れるぅ!」
西倉は驚愕に目を見開きバッと仰け反りそのままポージング。超うっとおしい。
そして声のボリュームが大きい。近くにいた鈴丘や功刀はもちろん、教室内の半分以上がお喋りをやめて西倉を見た。超うっとおしい。
西倉は視線が自分に集中していることに気がつくと、右手をグー、左手でクラスの連中を指差しウインク。
「二階席、聞こえるー!?」
みんなのアイドル西倉くん(笑)のライブが始まった。
クラスメイトの視線も冷たいものへと変わっている。だがテンションが上がってトランスにトランスを重ねた西倉はその事に気がつかない。
「それでは声優雨宮さんが歌う『俺の幼馴染が一途すぎる』のオープニングテーマで『キンキョリ』をお聞きくださあぁぁあい!」
言うと全力で歌い出す西倉。
生命力すら搾り出していそうな全力歌唱は、すごくうるさい上に普通に不協和音。
西倉に注がれていた視線は「おれあいつしらない。しっててもしらない」ばりに次々に逸らされ、耳を塞ぐ。イヤホンを耳にはめる。何もなかったかのようにお喋りに戻る。ちらほら教室から出て行く奴もいた。
かくいう俺はイヤホンを耳にはめ、オリジナルバージョンの『キンキョリ』を音量マックスで聞いていた。
さらば西倉の不協和音。こんにちは雨宮さんの麗しきボイス。
直前一分間ほどの記憶を消去して読書へと戻る。どうでもいいけどアニソン聞きながらラノベ読むとか超ヘブンだな。
かかとでリズムを取りながら文字列を追っていく。
さあいよいよサビだテンション上げて行こう二階席聞こえるー!? とテンションアゲアゲしていると、突然机をバンと叩かれた。無視する。
いよいよサビに入り明るいメロディーが俺の耳へと流れ込んできた。いやっほうと脳内でマリ○が跳び回っていると机をバンバンバンと叩かれた。シカトする。
そして歌はラストへと向かっていく。頭の中ではオープニング映像が流れていて、アニメ本編が始まる高揚感が全身を支配する。と、今度はイヤホンを耳から外された。
突然ヘブンをぶち壊しにした西倉に殺気すら混じっていそうな視線を向ける。だが奴はまだトランスだった。まったく気づかず、カッと目を見開くと叫んだ。
「なんで俺歌ってんだよ! ツインテールとポニーテールの話してたのに! お前面倒臭いからって図ったな!?」
「お前が勝手に歌いだしたんだろ」
セリフ三つ目にはもうアイドル化してただろ。いやアイドルより芸人の方が近かったけど。
「そんなこたぁどうだっていいんだ! ツインテールとポニーテールどっちが良いと思う!? な? なぁ!?」
「だから黒髪ストレート」
「勝手に選択肢を増やさないで!」
「うっせえな……」
声のボリュームを下げろ。
「だいたいなんで急にそんな事言い出したんだよ。世界のツインテールを守るために俺ツインテールになって闘うツインテールアニメ観たのか?」
「その通りだ! あのアニメはポニーテール好きだった俺にツインテールの良さを教え……そしてなんかよく分かんなくなった!」
知らねぇよ。だいたいこいつがポニーテール好きだったってことも今知った。
ジト〜っとした俺の視線に気づくことなく西倉はまくし立てる。
「いいか、ツインテールとポニーテールの争いはオタク……いや、全世界をも巻き込む大問題なんだぞ! 側頭部から垂れ下がる二つの髪束は、どっかの漫画で読んだ二刀流の無業の構え? 位? まあなんか分かんないけど思わせる! それがツインテールだ。そして方や後頭部から生える一本の尻尾。それは攻撃こそ最大の防御とのたまい、突撃至上主義で失敗を顧みない凄まじい強さを感じさせる一刀流! それがポニーテール! つまり、ツインテールとポニーテールの争いは、二刀流と一刀流の争いなんだ! 血で血を洗う戦争なんだ! 決して妹属性萌えとか、ツンデレペロペロとか、しっかり者さん養ってとか、スポーツ少女ハアハアとかじゃないんだよぉぉおっ!!」
最後にそう締めくくると変態間違えた西倉はゼーハーと一息入れる。
そしてビシッと俺を指差し必死の形相で、
「分かったかぁぁぁあ!?」
「お、おう……」
ちょっとどころかかなり引きながら言ったのだが、西倉は満足そうな顔になり息を整える。
……二刀流と一刀流の闘い。文字面で見ればなるほどかっこいいが、実態がツインテール対ポニーテール論争と考えるととたんにカオスだ。むしろダサい。だいたい世界巻き込まないし、血が流れることもない。争いの中では割と平和な部類だ。
「……そんで、お前はどっちの方が好きだ?」
「黒髪ストレー……」
「ツインテールかポニーテールで答えてっ!」
食い気味で言われた。
どっちと言われても……どっちかと言うとどうでもいいからなぁ。逆に聞いてみるか。
「お前はどっちの方がいいんだ?」
「俺? 俺かぁー。やっぱりポニーテール……いや、でも最近ツインテールの良さも分かってきたんだよなぁー。うーん……」
西倉はしばし腕を組んで首を捻っていたが、途中で何かに気が付いたようにその動きを止めた。
「俺さっきよく分かんなくなってるって言ったよな?」
「あ? そうだっけ」
そうだったかなー。こいつの話興味ないから基本聞き流してるんだよなー。
「言ったよ! だからお前に話しかけたんだから! そうでもないと俺がお前に話しかけるわけがない!」
「知らねーよ」
「ええいうるさい! いいから早く答えろ!」
「だから何度も言ってる通り黒か……」
「ツインテールかポニーテールか!」
「あぁ……はいはい。答える。答えるからその変なポーズやめろ」
さすがにこのやり取りも飽きてきたのでもうツインテールかポニーテールで答えることにする。そうでもしないとこいつ、飽きそうにないし。
俺の発言に西倉は頭の上に手を回して片足立ちになった変なポーズをやめた。そして表情を改め、真面目な顔になる。
なぜか近くから他の視線も感じた。つーかたぶんこれ功刀だな。
誰もが(二人だけだけど)固唾を飲んで見守る中、俺は意を決して口を開いた。
「ぶっちゃけどうでもいいわ」
「それ結局答えてないやろがああぁぁあっ!」
ズビシィッと漫才のツッコミよろしく手の甲を胸に当てられた。そしてその手をくるっと返すと胸ぐらを掴んで揺さぶってくる。やめろ。伸びる伸びる。伸びるから。
「貴様は平和について何も思うところがないのかあぁあっ!」
やべえ意味分かんねえ。
「二刀流と一刀流の戦争だと言っただろうが! 一度始まれば世界が終わるかもしれないんだぞ! セカイのオワリだぞ!?」
「落ち着け。マジ落ち着け。今どき刀で世界滅びねえから」
「貴様まだ侮辱するかああ!」
もうこいつ面倒くせえ……!
「い、いいか西倉。この世には三種類の人間がいてだな。こちらに好意を向けてくるやつ、悪意を向けてくるやつ。そして無関心なやつだ」
「うん?」
論じ始めると西倉は手を止め聞く体制に入る。聞くんなら離せ。
「無関心なやつは基本的にそいつを知らないからなんだが、実はそれだけじゃない。そいつのことを知っていてもどうでもいいことはいくらでもある。例えばクラスメイト。話したことない奴は知ってるけど大分どうでもいいだろ。つまり俺にとってのツインテールとポニーテールもだな……」
「何を言ってるか分からあぁん!」
さすがバカなだけはあるなおい。いや俺の方も理屈とかなかったけど。
西倉は叫び声をあげると再び俺を揺すり始めた。やめろ伸びる姉さんに怒られる。
西倉の暴挙は俺があいつを殴るまで続いた。
***
放課後。気がついていたらHRが終わっていた。本日最後の授業の後半から記憶がないのを不思議に思いながらもカバンを肩にかける。
さて家に帰ったら何をしようか。録画しておいた世界のツインテールを守るために俺ツインテールになって闘う! なツインテールアニメでも観ようか。
昼休みの西倉に影響されてるなぁ嫌だなぁと考えながら教室を出る。
放課後の喧騒が広がる廊下をわずかな隙間を縫うように歩いて行く。とは言っても満員電車みたいな状態ではない。俺が現実逃避をすれば耐えられる程度だ。俺は何も見えない聞こえない。
そうして一階まで降りてそろそろ下駄箱といった辺りで、背後からうるさい周りよりうるさい声が聞こえてきた。
「むーとうううううううっ! ツインテエェェルとポニイィィテールどっちが好きだぁぁぁあ!?」
えー、まだ終わってなかったの……?
聞こえないフリをしながらも歩く速度を上げる。撤退あるのみ。全力で離脱する。
するとこれまたドタドタとうるさい足音が鳴り響く。
「むーとぅうううううううう!!」
誰だよ、むとぅう。
とは言えこのままで北斗晶並みのタックルをくらいそうだ。
瞬時に状況を判断。鳴り響く足音のリズムから到達するタイミングを予測。Uh! とマイケルジャクソンばりにサイドステップ。そして奴の通り道に足を出す。
次の瞬間、おいこれ世界狙えるんじゃね? レベルのトップスピードで廊下を全力疾走してきたそいつが俺の足につまずき、
「あだばけだぶらっ!?」
刹那の間シュワッと宙を舞う。そして前を歩いていた黒髪ロングの女神の背中に衝突しそうになる。
誰もがヤバいと思ったその時、女神は背後も振り向かずトンと軽やかにサイドステップ。西倉っぽいうるさい奴は、ぐるぐると廊下を転がりボーリング玉のごとくその先にいるカップルにつっこんでいく。
これが非リアの精神か……! と思ったがあっさり躱され勢い尽きてた。ぐでーんと全身を投げ出した変態だけがその場に残された。
「…………」
さて、帰るか。
カバンを肩にかけ直しその場を後にしようとする。西倉の真横を通り過ぎようとしたその時、ガシッと足首を掴まれた。
「ツイィンテェエルとポニィィテェェルゥゥウ……。どっちが好きだァァア……」
ゾンビや……。なんだこいつの精神。不屈なの? ふくつのとうしなの?
いい加減辟易としてうんざりした顔で答える。
「だからどっちでもいいって……」
「その子大丈夫?」
不意に声をかけられた。
ついさっき西倉の空中タックルを華麗に回避した姉さんが、ゾンビを覗き込んでいる。
「いろいろ大丈夫じゃない。顔とか頭とか」
「酷い言い様だね〜。そうじゃなくて、怪我してないのかな〜ってことだよ。場合によってはホスピタルに連行しなきゃだし」
「搬送じゃねえんだ……」
連行て。捕まってね。ポリスのお世話になってね。
姉さんは「てへっ☆」と舌を出すとかがみこんで西倉の顔を覗き込んだ。
「大丈夫〜? 怪我ない〜? 毛はあるようだけど〜」
その声に西倉はギギギと首を動かし姉さんの方を向く。ミシミシと首を上方にもたげ、姉さんの顔を視認。数秒固まり、
「女神よぉっ!」
「死ね」
「くるうしおっ!?」
水面に飛び上がるトビウオのごとく姉さんに抱きつこうとしたので頬に蹴りを一発。変な声をあげて倒れた。
「安心しろ、上履きは脱いどいた」
「峰打だみたいに言うな!」
片膝をついたまま人差し指を俺に突きつけ抗議、というかツッコミを入れる西倉。
俺がそれに取り合わないでいると姉さんが口を開いた。
「君、ダメだよ? 女の子に急に飛びついちゃ」
注意する時の声音だった。
確かに今の西倉の奇行は十分お縄にかかるものだ。西倉もそれを分かっているからか大人しく聞いて……。
「我が君ぃっ!」
「くたばれ」
「いんぺりお!?」
こいつ全然分かってなかった。踏んづけるとまたもや変な声が西倉の口から漏れていた。
どうでもいいけど、こいつさっきからハ○ポタの禁じられた呪文言ってね。
「お前な、せっかく姉さんが気を利かせて注意してくれてんのに同じこと繰り返すか? 全然話聞いてないじゃねえか」
「姉さん……?」
ピクッと西倉が反応し、静かになる。ゆっくりと俺の足をどかして立ち上がると、数回埃を払った。そして急に静かになったことに戦慄している俺の肩に手を置くと、
「よろしくな義弟よ!」
「…………」
「いででででででっ!? ちょおまっ、痛い痛い! 締め上げ……あだだだだだだだだ」
かなりマジな殺気を放ちつつ、手加減なしで顔面を締め付けた。
誰が義弟だ。貴様ごときにうちの姉さんはやらん。
「なんだよ、未来の義兄相手にいいいだだだだだだぁ!? やめてごめんなさい済みませんんん! もう言わないから許して!」
「……いいか西倉」
「なんでせうか……?」
「一度犯した罪は消えないんだ」
「離してくれないってこと!?」
悲痛な叫びが廊下に響く。うるせえ。
さらに強く締め上げようかと迷っているとポンポンと背後から肩を叩かれた。
「飛雄馬、そろそろ離してあげなさい」
「了解」
我が姉は寛大だ。拘束を解かれた西倉は「ぶはぁあっ!」と盛大に息を吐いて数回深呼吸した。
そうしてしばらくすると、西倉は立ち上がる。生まれたての子鹿のごとく足がプルプル震えている。
だがそれもすぐに収めて半分泣きながらのたまった。
「覚えてろよ! 絶対に義兄さんって呼ばせてやるからなそのうち!」
三下っぽい、しかし聞き逃せないセリフを吐き捨てた西倉は、俺の攻撃が始まる前に全力疾走でこの場を離脱。下駄箱とは反対方向に走り出した。
バタバタと頭の悪そうな足音が廊下に響き渡った……。
ーーFinーー
「愉快な子だね〜。飛雄馬の友達?」
「金魚の糞だな」
「その論法だと飛雄馬は金魚だね〜。イソジンチャクに隠れる感じの!」
「それクマノミだな。どこも金魚じゃねえな」
姉さんとそんなバカな会話をしつつ、俺は西倉の去って行った方向を見てふと思った。
……ツインテールとポニーテールどこいった。
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