14 合唱祭編③
今回あれですね。ミスって挿絵二枚描いちゃいましたね。まあいいや。サービスってことで。どうでもいい? はっはっは。
なんか面倒ごとを押し付けられた。
姉さんに聞いた話だと有志合唱は、一パート四人ずつ、つまり全員で男女八人ずつ必要ということらしい。
現時点で男子が三人、女子が五人集まっているそうなので、男子五人、女子三人が必要らしい。
俺のコミュニティの狭さ的に詰んでるんだが……。行動起こす前に詰みってどういうこっちゃ。
「へぇ、大変なのね」
「うん。一週間以内になんとかしたいんだけどね」
メロンパンを口に運びながら言う功刀に、鈴丘は困ったように返す。
確かに有志である以上、クオリティも求められる。どんなに時間がかかってもそのくらいには解決していないと厳しいだろう。
「つーか、なんでお前らここで飯食ってんの……」
ジト目で見ると、二人のポカンとした顔が目に入った。ポカンとしたいのはこっちだ。
今は昼休み。
こいつらは授業が終わるやいなや弁当持って俺のところまで来て、前と隣の机を動かし俺の机とドッキング。何ツールドラゴンだよというくらいのシンクロ具合であっという間に布陣が出来上がったので、しばらく某然としていた。そしてその隙に昼食を広げられてしまったので今までツッコめなかったのだ。
「何よ。何か文句があるわけ?」
「あるな。一緒に食べてる意味が分からなすぎる」
「わ、私は鈴丘さんとここで食べてるだけで、アンタと一緒に食べてるわけじゃないわよ!」
「そうだとしてもなんでここ……」
俺は一人で静かにのんのんびよりと食べていたいんだが。
「まあまあ、一人で食べるよりもみんなで食べた方が美味しいよ?」
鈴丘が功刀のフォローに入る。
「前々から思ってたけどどういう理屈なんだよそれ。会話しながらだと料理に集中しづらいから、味の粗が目立たないってことか? 悪いが姉さんの作った弁当の味に粗などない!」
「それお姉さんが作ってるの?」
「ああ、あれだぞ。お前らとは天と地ほどの差があるぞ。ミシェラン三ツ星をも超えるぞ」
「身内贔屓すぎるよ……」
失礼な。俺は事実しか言わない。まあ三ツ星食べたことないわけですが。
その時、俺の手元に向かう視線に気がついた。おそらく卵焼きを見ている。
「功刀、あげないからな」
「べ、べつにもらおうとか思ってないわよ!? ……私のメロンパン一切れでどう?」
「お前等価交換って言葉知ってるか?」
市販のメロンパンごときで釣り合うわけないだろ。川○シェフの作った卵焼きでギリギリだ。
む、待てよ。これは交渉材料に使えるな。
「なあ功刀、さっき鈴丘に聞いたと思うが有志合唱の人が足りない。この卵焼きやるから有志合唱やってくれないか?」
「へ?」
功刀が間抜けな顔をする。そんなに食べたかったのか俺が絶対にあげないと思っていたのか。たぶん後者。
「別に卵焼きと交換じゃなくても武藤が言うならやったのに……」
「喋る時はもっと口開けて喋れ。聞こえん」
なんだボソボソと。小さい時の俺か。
言うと功刀は顔を赤くする。
「引き受けるって言ったのよ!」
「なんで怒ってんだよ……。ほら卵焼き」
「あ、ありがと」
箸で卵焼きをつまんで渡したとたんに大人しくなった。受け取った姿勢のまま卵焼きをジッと見ている。それにまだ少し頬が赤い。
なんだこいつ。
「…………」
と思ったら意を決したように咀嚼する。みるみる幸せそうな顔になった。
「な、美味いだろ?」
「うん。おいふぃい」
「ガキか……」
まあそれほどの威力が姉さんの卵焼きにはあるってことだ。姉さんは凄いんだ、大きいんだ。どこがとは言わないけど。
何にしてもこれで一人目。このくらいで人が集まるなら存外チョロいかもしれない。面倒なことには変わりないが、思ったよりも楽できそうならまだ良かった。
と、面白くなさそうな顔をしている鈴丘に気がついた。
「どうした?」
「え? なにが?」
「いや何もないんならいいんだけど」
鈴丘は割といつも微笑を讃えてる。だからあの表情は珍しい。また俺が何かしたのかと思ってしまう。
もしや卵焼きがほしいのか。
だがこいつは姉さんと知り合いだ。昨日の姉さんの口ぶりから察するに仲は良さそうだった。頼めば卵焼きの一つや二つ作ってもらえるだろう。
そんなことよりも有志合唱である。もっと人を集めねば。
他に俺の知り合いで有志合唱に入りそう、入れられそうな奴……。
***
「は? 有志合唱?」
これぞ嫌そうな顔の代名詞といった表情で甲斐は言った。
「そう、有志合唱。人が足りないらしくてな」
甲斐に話しかけたのは放課後。俺に向かってだけものっそい量の話しかけるなオーラを放出していたが、少しも意に介さずに突撃した。後悔はしていない。
思えばあの土曜の一件の後、特に甲斐からは何も言われてない。一生恨むとかお前を許さないとか言われるかもしれないと思っていただけに、少し意外だ。
ともあれ、今は合唱祭のことだ。
「お前自身がやってもいいし、お前の知り合いとかにでも頼んでくれると助かるんだが。ほら、お前ってコミュニティ広そうだし」
なんたってこいつは、学校では、爽やかイケメンキラキラボーイの甲斐だ。リア充の法則から言っても友達は多いはずである。
「有志合唱なんて俺はやりたくてもやれねぇよ。一応部長だしな。とりあえず知り合いには声かけといてやるから、さっさとどっか行け」
シッシと追い払うような仕草をされる。
「おう、頼むわ。つーか今学校にいるのに口調そんなんでいいのか?」
「もうお前相手に取り繕う必要ねえからな」
「ほう。じゃあ、そもそもなんで今みたいなポジションになったんだよ」
取り繕う必要のなくなった相手にはわざわざ取り繕わない。それは取り繕うのが嫌だということではないのか。
その問いかけに甲斐は眉間のシワをもう一本増やした。
「知らねえよ。気がついたらこうなってただけだっつの」
「ふむ、今のポジションにどうしてもいたいってわけじゃなければ、土曜日のこと公開されても良さそうなもんだけどな」
「うるせえ。なんか進路とかに悪影響あったらどうしてくれる」
「いやそれって自業自得……」
俺にやり返ししようとした時といい、やけに進路にこだわるなこいつ。そんなにこだわるならそもそもあんな頭の悪そうな奴とつるむなと言いたい。
「ていうかホントいつまでいんだよ。さっさと行けよほら」
かなり邪険に扱われた。やはり嫌われている、もしくは関わりたくないと思われているようだ。
……気がついたらなってたね。まあ、学校内での立ち位置なんて基本的にそんなものだしな。気がついたらぼっちになってたり下駄箱にゴミがはいっていたり、学校行事を通して急に変わったりする。
とにかく今はその学校行事に集中しよう。
甲斐が何人か集めてくれるだろうから希望が見えてきた。
それにしてもあいつは俺のことが嫌いなはずなのに、どうして有志合唱のことを引き受けたのだろうか。
例のビデオを公開されるとでも思っているのか。
確かに必要とあらば切らなければならないカードではあるが、こんなところで使いたいとは思っていない。
俺が切り札を使うのはもっと重要で大変なときだ。
***
この学校での残りの知り合い。それは思い出そうと思えばタイムラグなしに思い出せる。
というか知り合いがいなさすぎて覚えたくなくても覚えるレベルだから仕方ない。なんなら現時点で残りの知り合いが一人で自分のコミュニティの狭さが神級。僕は友達が少ない。
というわけで西倉である。
ラノベを読み終えて、ストックしてあるラノベもなくて、本当にすることがなくなって、さらに暇を持て余して始めて話しかける相手。つまり暇つぶしの最終手段である。
……なんだろう、俺の中の西倉のカーストがゴキブリの次くらいに低い。完全に物扱いだ。
そんなことは置いておいて。
甲斐と話した直後、人がまばらになってきた教室でそいつは今だに椅子に腰掛けていた。そして突っ伏していた。
要するに、寝ていた。
俺の記憶が確かだと七時間目からずっとだった気がする。教室内で俺の次くらいに浮いていた。俺は寝てなかったんだけどな……。
突っ伏しているせいで寝顔は見えないものの、良い夢を見ていることだけは伝わってくる。それほど綺麗に寝付いている西倉をはちょっとやそっとじゃ起きなさそうだ。さてどうやって叩き起こすか。
チョップ……は芸がなさすぎる。
かかと落とし……は確かにやりやすそうな位置に頭があるが、骨折させるかもしれないし、下手をすればデッドすらあり得る。この歳で刑事罰とか裁判は避けたい。面倒だし。
なんかもう考えるのも面倒だな。普通に起こすのが手っ取り早い。
そこまで考えてはたと思いつく。
俺はポケットからスマホを取り出すと、有名な某動画サイトアプリを起動。『俺の幼馴染が一途すぎる』で検索をかけて目的の動画を発見する。西倉の耳元にスマホ、スタンバイオーケー。飛雄馬、いっきまーすのノリで再生ボタンをタップ。
直後、声優雨宮さんの演技ボイス、つまるところ作品のヒロインの声が流れる。
『かーけるっ! おっはよー!』
「はい奏ちゃんおはようぅっっ!!」
「うおぅっ」
光の速度で跳ね起き大音量で画面の向こうに返事をする西倉。その姿はまさに次元を超える者……。流れ出るオーラが違う。そう、近くにいた男子が飛び退き戦慄の眼差しを向け、わずかに教室に残っていた生徒が怪奇の視線を投げかけるほどに。
やっておいてなんだが、ちょっと恥ずかしい。
「うん? 奏ちゃんに起こされたと思ったらすごい見られてる。俺ってみんなのアイドル!?」
「ものっそいポジティブシンキングだな、お前……」
あと人気者というより、遅刻して授業中に教室に入った、という方が近い。
「かと思ったらどんどん目を逸らされていく! これはあれか。目を背けたくなるほど俺が眩しいってことなのか!!」
「ごめん、ちょっと殴っていいか」
「なんでっ!?」
ちょっと変わった起こし方しただけでこんなに面倒臭くてウザい奴初めて見た。殴って気絶させてもう一度起こすところからやり直したい。世界よ、俺に力を。
まあそれは置いといて。本題に入ろう。
「西倉、お前有志合唱やろうとは思わないか?」
まずは軽いジャブで相手の出方を見る。ある程度予想はついているが念のためだ。
「は? 有志合唱ってなに」
「え、そこから……?」
予想の斜め上どころか前後左右上下が逆だった。逆撫みたい。
「つーか字面で判断しろよ。本当に文字通り有志による合唱だぞ」
「ふーん。え、なんでそんなもんがあんの?」
「もうすぐ合唱祭だから人集めてるんだよ」
「え、合唱祭?」
「…………」
マジかこいつ。
小首傾げんな。鈴丘とかならともかくお前がやっても可愛くねえから。むしろちょっとウザいから。
「……とりあえず、合唱祭がなんだかは分かるんだよな?」
「はっはっは。バカにすんなよそのくらい分かってるって。歌うんだろ?」
「……そうだよ」
なんか微妙だけど一応合ってる。手を合わせるとか言わないだけマシとしておこう。
「で、それと有志合唱? になんの関わりがあんの?」
「お前マジで一回殴ってもいいか……?」
本日で一番疲れるやり取りだ。どういうレベルのバカなんだこいつ。
「合唱祭はクラスごとに歌うわけだけど、それの他に有志合唱っていう有志からなる集団も歌うんだよ。それの人数が足りてないからお前やる気あるかって聞いてんだ」
「あー、うんうんなるほどね。分かった分かった。あ、いや知ってたよ?」
「そんだけ目泳がして何言ってんだ」
オリンピックに出てそのまま金色のメダル的サムシングをもらってきそうな勢いなんだが。
「で、入るのか入らないか?」
「いや、やっぱ入らないわ。ほら、漫画とかラノベでも合唱祭ってネタになんねぇし。モチベーションが上がらないどころかマイナスイオンでちょっとしたパワースポット」
「あー、それは分かるな。文化祭と修学旅行と体育祭は普通にネタになるのになんで合唱祭だけ影薄いんだろうな」
確かに合唱祭も行事としてはただ歌うだけだが、それを言ってしまえば文化祭だって働く真似事するだけだし、体育祭だって運動するだけ。修学旅行も旅行するだけだ。
まあ、合唱祭に思い入れなんてないからネタ化されなくても文句なんてないのだが。
「まあそんなことはどうでもいいや。お前、誰か有志合唱に参加しそうな奴とか友達とかいないか? いたら声かけてついでに説得とかしてくれると助かるんだが」
「ん? そんなのお前がやりゃーいいじゃん。なんでまた?」
「知り合いでもない俺が声かけるよりも知り合いの奴が声かけた方がいいに決まってんだろ」
もっとも目の前のこいつは割とみんなからウザがられていそうではあるが、それでも俺が声をかけるよりはいいだろう。
「うーん、どうしよっかなー! 声かけておいてあげようかなー!」
すると西倉はわざとらしく、それでいて楽しそうに言い始めた。
いつかの通りでまったく進歩が見られない。
「声かけるだけなんだから別にいいだろ、それくらい」
「それくらい、なのかどうかは俺が判断することですー。さてどうしよっかなー!」
ウザい……。
「いいから頼む」
「えーどうしよっかなー。いやいやー。うーん!」
「いい加減にしないと殴るぞ」
もう面倒なので脅して終わらせることにしようと拳を握ってみせる。すると、
「だぁーっ! 分かったって!怖いなもうお前ホント!」
やはり有効だったようで西倉は快く引き受けてくれた。
「そうか、じゃあ頼む」
「おう任せとけっ!」
言って西倉は己の胸板をドンと叩く。中々頼りがいがある。だが次には「ただちょっと一つだけ問題があってなー」と声の調子を下げた。自然、俺もそれを聞く態勢になる。
珍しく空気が真剣味を帯びる。西倉も普段とは違い、表情にはシリアスを含めていた。
「で、問題ってなんだよ」
「あぁ、実は……」
言って西倉は急に満面の笑みを浮かべる。
そして右手をサムズアップし、
「俺、ぼっちだから知り合いいないっ!」
俺は荒ぶる拳を抑えきれなかった。
ちなみにタイトルを一週間後に変えようと思っています。
『最近の俺はコンサルタント』になる予定です。




