思惑
翌日、いけっちは釈放された。
いけっちがオンラインゲームで知り合ったと言う、犯人のゲームIDは消えていた。
ボッサンが過去に検挙した者の中で、爆発物に関係している人物を、ホヘトがピックアップしている。
爆発物は鑑識が調査中。
捜査1課の部屋
ボッサンはイライラしながら部屋の中を歩き回っていた。
「くそ~!どこのどいつだ!」
ユオが聞いた。
「心当たりはないの?」
「有りすぎて分からん」
ラッキーデカ長が聞いた。
「だけどボッサン、あの箱が爆発するってよくわかったな」
「箱のヒモを解いた時に、中で金属音がしたんスよ。それが手榴弾のピンが弾ける音にそっくりだった」
「手榴弾投げた事あんの?」
「むかしな」
「どこで?」
「それは言えない」
「なんだそれ」
モリモリが緊張しながら言った。
「あの箱が僕宛てだったら、僕、死んでますよ」
「その心配は要らないと思う。」
そこへホヘトが入って来た。
「は~い、お待たせ~。えっと、ボッサンがいままで爆弾事件で検挙した者は7人。
内5人は服役中、1人は死亡、そして、先月出所した奴がいる!」
「なに?」
ボッサンの顔色が変わった!
「しかも!コイツが何を仕出かして捕まったかと言うと、そう!小包爆弾!」
「何だって!」
「しかも!しかもですよ!爆弾に使われたのが‥」
「M67破片手榴弾だ。」
鑑識のボス、バンがホヘトの後ろから現れて言った。
「え~、なんでその決めゼリフ言っちゃうんすか~?」
バンは構わず続けた。
「今回使われたのはM67。前にボッサンがパクッた奴が使ったのもM67」
ホヘトが指を鳴らして叫ぶ!
「ビンゴ!犯人はコイツしかいない!」
「このM67破片手榴弾は、内部に硬質鉄線が入っていて、殺傷能力を向上させてある。
その形状と梨地仕上げの本体の印象から「アップル・グレネード」とも呼ばれておる。
ピンを抜いてレバーを飛ばし、信管に点火後約5秒で爆発する。
爆発時5メートル範囲以内の人間は致命傷を受け、15メートル範囲に殺傷能力のある破片が飛散する。
つまり、手に持ったまま爆発したら、間違いなく死ぬって事だ」
モリモリが聞いた。
「どうやって箱の中の手榴弾を爆発させたんスか?」
バンが答える。
「安全ピンを抜いた状態のM67にひもを一周巻いて蝶結びでレバーを固定して、それから本体を箱に固定する。
フタをして、フタに穴を開けてヒモを外に出して、箱にリボンをかけて蝶結びして、
解くヒモに、外に出したヒモを結べば、リボンを解いた時に中のヒモも解けて、ドカン」
「なるほど~!」
「ただな、ちょっと引っかかる事があってな」
「俺もある。」
バンとボッサンは難しい顔をしていた。
「今回使われたM67、手を加えてあった。点火してから爆発するまでの時間を遅くしてあった。まるで死んでほしくないような‥」
「やっぱりか。本当なら5秒で爆発するのに、12、3秒掛かったからな」
「ま~、でも一番コイツが怪しい」
とホヘト。
ラッキーデカ長はみんなに言った。
「とりあえずボッサンとユオ、コイツの裏と、ホヘト、モリモリで手榴弾の入手ルートを洗って来てくれ」
ボッサンが腑に落ちない表情で言った。
「な~んか簡単過ぎるんだよな~」
ボッサン、ユオ、ホヘト、モリモリは部屋を出て行った。
その男は、イヤホンを耳から外す。
「クックックッ。思惑通りだ」
男は車のエンジンをかける。
ボッサンたちが、パトカー2台で署から出て行く。
その男の運転する清掃会社の車は、しずかに警察署に入って行った‥