2-4.適正なし
「どーやら、ヒカリくんには『アプリアルファイト』の適性はないみたいですねー」
あの後、散々他のツールやアプリ、診断ソフトを試した結果、累の口から告げられたのは、僕にはアプリアルで戦闘をする適性が無いという事だった。
「まぁ、今回出場する大会はサポート制度もあるみたいですし、そう落胆することはないですよー」
累は何でもない事のようにそう続ける。
元々、アプリアルファイトの適性も段階があるらしく、梓の『○』という結果も、適性のある人の中では比較的多い数値だそうで、実際のところは適性の無い人間の方が圧倒的に多いらしい。適性は『◎』『○』『△』の全部で3段階有るらしく、それ以外は実質適性なし(最も、『△』という適性も実戦でアプリアルを利用するには心もとない数値だそうで、そういった適性の選手はだいたいが体術等でカバーすることが多いらしい)、つまり僕のような結果の出方になるらしい。
「あ、終わったのか?」
診断に手こずっていた僕たちから離れた場所で、早速戦闘用の『アプリアル』を試していたらしい梓が近寄ってくる。
「まあ、一応ですねー」
「で?ヒカリの結果は?」
「一言で言うと、適性なし、ってとこですかねー」
それを聞いた梓は、意外な事に、安堵したような表情を見せた。安心したと笑いながらこう言ったのだ。
「だったら、ヒカリを戦わせずに済むってワケだな?」
累は一瞬驚いたような表情を見せた後、また普段の無表情な顔に戻り、「そうなりますかねー」とだけ梓に返す。
「一応、戦闘サポート専用のソフトなんかも有るので、後で紹介しますけどー」
「そいつは心強いな。オレもいくつか試してみたんだけど、コレとかどーよ?」
「あー、そのアプリは……確かに攻撃力はあるんですけど、バッテリー喰いますよ」
「ソレはもう身を以って体感したわ……」
何事も無かったかのように累と会話をする梓に、僕は戸惑いを隠せなかった。それに、さっきの一言が気にかかる。「僕を戦わせずに済む」という事は、つまり梓は最初から僕を戦闘に出す気は無かったという事なのだろうか。
その後、戦闘用『アプリアル』の話しで盛り上がる累と梓に蟠りを覚えながら、僕たちは帰路に着いたのだった。
「なぁなぁ、やっぱ攻撃のシメはドカンと派手なヤツぶちかましたいよな!?」
その日の夜、半ば興奮気味に端末を操作しながら梓が言う。僕はと言うと、累に紹介されたアプリアルファイトのサポート用機能を確認しているところだ。
少なくとも今回参加する『アプリアルファイト』のサポーターは、必ずしも端末の操作のみでサポートするという決まりはない。僕は累に出来るだけPCを使用する形のサポート機能の紹介を頼んでいた。もちろん、大会以外のいわゆる『野良戦』では端末でのサポートをすることもあるが、僕としては端末よりは多少使い慣れているPCでのサポートの方が適していると判断したのだ。
昼間確認した『アプリアルファイト』の『適性』の他にも、梓はアプリの『属性』の適性もチェックしていた。その結果、梓にもっとも適しているアプリ属性は『炎』系、時点で『光』『雷』のものだという事が発覚し、梓はまるで新しい玩具を手に入れた子供のようにテンションが上がっている。
一方の僕は、自分がアプリアル適性なしという事で、梓に戦闘を一任してしまう事に対しての不安から、テンションは右肩下がりだ。
「だから、派手なヤツは端末のバッテリーを消費すると累さんも言ってたでしょ……」
淡々とPCを操作し、累に紹介された機能を確認する僕は、何だか言いようのないモヤモヤとした感覚に陥っている。梓だけを戦闘の前線に行かせることに抵抗があるというのもあるが、それ以外にも何かこの感覚に原因があるような気すらしてきてしまう。だが、ここで何か言ってもただの八つ当たりになるだけだ。
「あ、アイツらまた!」
そうこうしているうちに、いつも家の近所で所謂『野良戦』と呼ばれるアプリアルファイトに興じている奴らが集まり始めたらしい。当然いつものように追い払おうと立ち上がる梓だったが、ふと何か思いついたように、ニヤリと口角を上げる。
「なぁなぁ、アイツらのも『アプリアルファイト』なんだよな?」
「え? まぁ、そうだね」
どうせロクな事を思いついたワケじゃないと梓の表情だけで察した僕は、再び目線をPCのモニターに戻す。
「参考までにさ、ちょっとだけ見学すんのってありじゃねーかと思うんだけど」
そういう梓はいつもは怒りながら身を乗り出して怒鳴るだけの窓枠に、いつの間に持ってきたのか靴を持って乗り越えようと跨っている。……どうやら身長による高低差の関係で、一気に飛び越えるだとか跨ぎ越えると言ったことは出来なかったらしい。
「は!? ちょ、兄さん!?」
「あ、ワリーんだけど、戻る時玄関の鍵開けといてくんねェ?」
それだけ言い残し、梓は野良戦に興じる若者たちのグループの元へと走って行ってしまった。
「……ていうか、兄さんまた端末忘れてるじゃん」
ふと先程まで梓が陣取っていたベッドを見ると、梓の端末が放置されている。
流石に夜中に端末も持たずに外に出るのは危ないと判断した僕は、仕方ないなとため息を吐きながら、梓の開け放った窓を閉めてから、梓の分の端末も持って部屋を出た。