2-3.アプリアル
お待たせしました…(;´Д`)
「さて、僕が今日呼ばれた理由を話してもらいましょーか?」
食後のお茶を飲んで一服する累がそう切り出してくるのは予想済みだ。
やはり僕が昼食を作ったので、皿を洗う当番は必然的に梓となる。兄が台所に行っても、元からそう広くはない部屋なので、僕の声くらいは聞こえるだろう。何か捕捉があれば梓が戻ってからするだろうし。
そう考えた僕は、累にこれまでの経緯を簡単に説明した。
「……なるほどー、とりあえず、経緯はなんとなくわかりましたー」
カクカクシカジカで説明し終えた僕に、累は『うわぁ面倒臭そう』とでも言いたげな表情を隠しもせずにそう言った。
「でも、アプリアルファイトの大会に出るって言っても、お2人はそもそもアプリアルを利用した戦闘の経験なんてあるんですかー?」
「それをお前さんに指南してほしいんだよ」
食器を洗い終えた梓が累にそう言う。
累は今度こそあからさまに『うわぁ面倒臭い』と言う表情をして見せ、渋々といった感じで了承してくれた。
「じゃあ、とりあえずお2人の『アプリアル』の適性を調べないとなのでー、どっか広い場所に移動しましょうかー」
あぁ面倒臭い、と今度は確実に呟く累の声が聞こえたが、僕たちは累の言うとおりに、出掛ける準備を始めた。
「で、さっき『アプリアルの適性』って言ってましたけど、何ですか、それって?」
僕と梓の住まいから少しばかり歩いた先に(都合よく)ある人気のない河川敷に着いて、僕は累に尋ねた。
「……ホントに何も知らないんですねー……あんだけファイトの現場近くに住んでるくせに……」
「ソレはアイツらが勝手に家の周りで騒いでるだけだろカンケーねえし」
累の嫌味にも律儀に返してしまう梓。そんな梓に鼻で笑うように溜め息を吐くと、累は自身の端末を取り出して、同じように僕たちにも端末を取り出すように指示してきた。
言われるままに端末を出すと、累の端末から赤外線でデータが送信されてくる。それを受信するように言われ、受信して展開すると、あるアプリのWebページに飛ばされた。
「そのページのアプリをインストールして起動してくださーい」
『アプリアル適性検査ツール』という名前が表示されるソレを黙ってダウンロードする僕と梓。ここで、梓が疑問を口にした。
「おい、『アプリアル』って誰でも使えるんじゃないのかよ?」
そんな梓に再び溜め息を吐いた累は、その疑問に答えてくれた。1人の疑問はみんなの疑問、的なアレだろう。
「“電理研”では一応誰でも使えると言うように公表しているようですがー、まぁ厳密にいえばそれは一部の『アプリアル』アプリのみの話しですねー。例えばこれからアンタ達が使う戦闘用の『アプリアル』アプリは、使用者を選ぶモノがほとんどですー」
まぁ、『アプリアル適性検査ツール』なんてものをインストールさせられている時点でソレ自体は察していたが。だからこそ知りたいのが、
「もしその『アプリアル適性』ってのが無かったら、どうなるんだよ?」
梓がさらに喰い気味に言ったこれである。
『適性検査』という限りはおそらくこのアプリ自体には『アプリアル』のような現実を大きく脅かすような事象は起こさないのだろうが、気になってしまう。
「適性が無かったら、まぁ単純に戦闘に『アプリアル』を使うのは不可能でしょうねー」
「この『適性検査』事態に危険は無いんだろーな?」
「僕も一緒にこのアプリを操作しながら説明していくので、そこのとこは問題なしですー」
そう言いながら累が見せてきた端末の画面には、僕たちの端末と同じような画面ではあるが、『適性検査オペレーター用画面』という表示と、僕たちの方には表示されていないコマンドがいくつか並んでいた。
僕たちの方の端末はというと、『アプリアル適性検査ツール』と表示された後に、『招待者:累さん』と表示があり、その下に名前を入力するフォームが表示されている。
「そこの名前のところに、アプリアルファイトで使う予定のHNを入力してくださーい」
つまり偽名でいいというワケだ。もちろん累も偽名での登録だろう事は重々承知済みだ。
「名前、どーする?」
梓が僕に問いかける。つまり、情報屋としての名前をそのまま登録してしまうか、新たにアプリアルファイト用に名前を作るか、という事だろう。
「あー、名前はこっちでも確認出来るんで、お2人で考えて下さってけっこーですよー」
累が端末をヒラヒラと振りながらそう言う。僕たちは累に唇の動きを読まれないように手で隠しながら、小声でひそひそと打ち合わせることにした(累の事を信用していないわけではないが、そうするのが情報屋同士での通過儀礼のようなモノなのだ)。
結局、梓のHNは『アルミナ』、僕のHNは『黒曜石』で決定した。
入力フォームに打ち込んで、累に完了の旨を伝えると、そのまま次のページへ更新するように言われた。
「じゃあ、今から適性検査始めますけどー、どっちから先にやりますー?」
累の『オペレーター用画面』が更新され、僕と梓のHNが表示された状態になり、そう問われた。
「じゃ、オレからで」
そう言って梓が名乗り出る。どちらにせよ適性検査自体はやるのだから、順番は大してこだわりはないのだが、こういう時は決まって梓から、というのがお決まりのパターンになってきている。
「わかりましたー。じゃあ、おにーさんから端末の画面が切り替わるんでー」
累がそう言いながら端末を操作し、梓の端末の画面が切り替わった。『検査画面』という表示の下に、何か枠のようなモノが表示されている。
「端末の画面に、バイブが反応するまで指を置いてくださいー」
そう言われて梓が端末の画面に指を置いた。3秒ほどで端末のバイブが短く震えて、累が「指放していいですよー」と言う。
累がしばらく端末を操作して、しばらくすると、梓の端末の画面に通知が入った。
通知を開くと、『適性検査結果通知』というタイトルが届いていて、梓が開く。すると、
≪HN:アルミナ さん の アプリアル適性 検査結果≫
アルミナ さん の アプリアル適性は ○ でした !
アプリアル の 機能 だけでなく 作戦 や
自分の 体術 などで カバーして
効率 よく 戦闘 に 臨みましょう !
アルミナ さん に オススメ の アプリアル用 アプリ は コチラ !
この後は延々と戦闘用アプリの宣伝のようだ。
「ここに載ってるアプリも一応データに基づいたおススメではあるんで、一度インストールしておにーさんとの相性とかチェックしてみると良いと思いますー」
「お前のおススメアプリとかはねーの?」
「じゃあー、もうちょっと詳しい検査もあるんでソレやってからにしましょうかねー。とりあえず、次にヒカリくんがつっかえるんでー、先にそっちやっちゃいましょっかー」
そう言って、累が今度は僕の方の端末の画面を切り替える。さっきの梓のと同じ画面だ。梓のを見ていて要領は解っているので、特に説明なども無く、僕は端末に指を置いた。
「……あっれー?」
梓の時とは違い何の反応も示さない僕の端末に、累は疑問を持ったようだ。
「……ちょっともっかい画面切り替えるんで、待っててもらっていいですかねー」
少しだけ焦ったような表情の累はそれはそれで新鮮だが、僕の脳裏には一抹の不安が過ぎった。