1-2.ハナハナ(仮名)
今回から、あとがきにておまけ程度ですが、設定情報(本編では多分言及しないだろうものかつストーリー的に説明がほしいと思うもの)を公開可能な限り開示していこうと思います。
ストーリー自体はあまり進んでいません(笑)
ハナハナは、僕と梓をまっすぐに見据えたまま、静かに話し始めた。
「今回、お二人にご相談したかったのは、このアプリアルファイトの大会の優勝賞品についてなんです」
そう言って彼女は一枚のチラシを差し出してきた。
『アプリアルファイトグランプリinラインハルトカップ』
今までのアプリアルファイトとは一味違う!?
サポーターとのタッグで、No.1も夢じゃないかも!?
※この大会では、従来のアプリアルファイトの公式大会では
用いられてこなかった『サポーター』システムを導入します。
詳しくは主催
(財団法人ベルベット アプリアルファイトグランプリ運営委員会
(TEL○○○-○○○))までご確認ください。
チラシの大体の概要はこんな感じだった。要するに、新システムを導入した、マイナー路線の大会という事だろう。『財団法人ベルベット』という名に聞き覚えは無い。
僕が受け取ったチラシを読んでいると、梓もその内容を確かめようとひょい、と身を乗り出して来る。そして、眉間に新しいシワを作り、ハナハナに(どちらかというと喧嘩腰な態度で)尋ねた。
「おい、コレ、優勝賞品について触れられてねーぞ」
ペシペシとチラシを手で叩きながら言う。梓の攻撃によってチラシがヒラヒラと揺れる。チラシの内容を確認し終えた僕は、テーブルにチラシを置き、コーヒーカップに手を伸ばした。
「そうですね」
ハナハナは梓の問いにそう答える。そのさも当然だろうとでも言わんばかりの表情に、梓のイライラゲージ(一般的な水準と比べて割と短いと思う)が再び頂点に達した。
「そうですね、だと!?ふざけんな、そんなワケわかんねーモンのためにオレ達に死ねって言うのかよ!」
「別に死ねだなんて言ってません。ただ、この優勝賞品について調査してほしいと」
「だから、アプリアルファイトの大会だろーが!それで優勝なんてほぼ死んで来いっていうのと同義だろ!」
「ですから、別に大会への参加を依頼しているわけではありません!ただ、参加者としての方が、調査もしやすいだろうという考えの」
「だーかーら!それが運営の思うツボなんだろ!ってか、お前この運営の回しモンじゃねーだろーな!」
「それは誤解です!私はあくまでも」
「『あくまでも』何だよ!」
とうとう言い争いを始めてしまったハナハナと梓に、僕は溜め息を吐く。そもそもこの二人は情報屋と客として以前に、人間としての相性から合わないんじゃないだろうかと思う。
気の短い梓が依頼主と言い争いや、時には乱闘騒ぎにまで発展することは度々あったが、依頼メールの着信と顔合わせの時間から見てここまで早くに決裂することはかなり稀なことだ。
僕はぬるくなったコーヒーを一気に飲み干すと、二人の仲裁に入ることにした。
「二人とも落ち着いてください。お店にも迷惑がかかってしまいます」
店のマスターはカウンターの向こうからオロオロとした顔を覗かせている。数人いた他の客もチラチラとこちらの様子を窺っている。
周りの様子を見た二人は、とりあえず落ち着いてくれたが、いつまた喧嘩が始まってしまうかわからないといった様子だ。梓の紅い瞳だけでなく、ハナハナの淡い水色の瞳すらもメラメラと炎が燃えている錯覚を覚えてしまう。
「とにかく、今はハナハナさんに、知っている情報をお話ししてもらう必要があります。兄さんもいちいち食ってかからないでください」
梓は納得がいかないと言う表情を浮かべたが、諦めたのか背もたれにドサリと身を投げ出すように座り直した。そしてすっかりバニラアイスの溶けてしまったクリームソーダを、待ち時間の間に噛み潰してしまっていたストローから勢いよく啜り込んだ。
「さて、ハナハナさん。今知っている情報をお話しくださいますか?」
ハナハナも頬を膨らませ不服そうな表情をしていたが、梓を睨みつける視線を僕に向け直した。
「あくまでも噂なんですけど」
「はい」
改めて声を潜めて話し始めた彼女に、僕は相槌を打つ。梓は特に反応を見せなかった。
「この大会の優勝賞品、」
僕がその内容に反応を示す前に、三度ブチ切れてしまった梓がテーブルにダァンッ、と握り込んだ手を振り下ろしてしまった。
僕は、もうこの喫茶店は使えそうにないな、と思ってしまった。
設定情報
端末:市民の全てが携帯することを義務付けられている通信端末。個人情報がここに設定・記録されており、公共交通機関などの利用は端末を持っていないと原則できない事になっている。尚、公共交通機関は端末の情報を読み込むことによって利用できる制度のため、基本的に利用料金はかからない(行政が税金によって監理・運営している)。要するに個人のIDに携帯電話(所謂スマートフォン)の機能が合わさったようなモノ。
アプリ:端末にインストールして使うソフトウェア。端末本体のみで動作・効果が完結するものを『アプリ』、端末から現実の世界に効果が表れる(例えばアプリアルファイトで相手を攻撃したり防御したりなど)ものを『アプリアル』と呼び分けている。“電理研”という組織(半官半民)が解析や研究・開発を行っている。民間の組織や個人が開発したアプリも存在してはいるが、行政的には非公式なグレーゾーンのモノとして扱われている。