0-1.依頼前夜
「あー、もううるせーな!」
そう言って兄の梓はカラカラと窓を開く。さっきから響いていた激しい衝突音がさらに大きく聞こえる。
「どっか余所いってやれや、クソガキ!」
外で騒いでいる奴らに梓は怒鳴る。そんな兄に、“アプリアルファイト”に励んでいた連中は笑いながら言い返す。
「あぁ~ん?お子ちゃまはもうおねんねの時間でちたか~?」
「ねむれないでちゅ~、ってか?」
そう言いながらまたぎゃあぎゃあとわめきたてている。
元々この手の輩に、自他ともに認める童顔(もっとも梓自身はしぶしぶ、だが)な梓が出向いたところでバカにされるのがオチ、良くて挑発・悪ければ………これ以上は考えたくもない。
「誰が『女顔雪虫級のどチビ』じゃ!?」
誰もそこまで言っていない。
ちなみに兄への揶揄に「雪虫」だなんて儚げなモノが入っているのは、兄さんがアルビノという珍しい色の肌や髪、瞳の色を持つ体質だからだろう。珍しい体質ではあるのだが、ちらほらといないわけでもないらしく、悪い人に連れ去られたり、というような事件に至ったことはない(梓が自力で犯人をとっ捕まえたことなら数回あるが)し、捕まえたところで口の悪さや手癖の悪さにへきえきしてしまうに違いない。
まだ外に向かって何やら喚き散らしている梓に、そっと“端末”を手渡した。梓の端末の画面には就寝時間を示す表示が出ており、スピーカーからはこの場には似つかわしくない、穏やかな音楽が流れている。
「とにかく、ファイトなら余所行けよお前ら!」
そう言って梓がぴしゃりと窓を閉めると、外からはだんだん遠ざかる足音と話し声が聞こえた。
「兄さんがそうムキになって構うから、アイツらも毎晩毎晩来るんじゃない?」
「だってムカつくだろ!ヒトよりちょっと背高くて顔も大人びてるからって、いい気になりやがってアイツら~」
「成人男性があんなもんまともに取り合わないでください。そんなことより、明日も早いんだからもう寝るよ?」
橘はいいよなぁ、身長も高くて、顔もこう、しゅっとしててさー…なんてひとりごちる兄を見ながらそういうと、僕は端末を操作して部屋の明りを消した。
こちらでは初投稿です!
まだまだ勝手がわかっていませんが、
どうぞよしなに!