4-1.リスタート
累との試合が終わった後、タワーから落ちた為医務室に運ばれた橘の様子を見に、応援席にいた鏡弥と遥を引き連れてオレは医務室に向かった。
幸い、橘はタワーが崩落したにもかかわらず軽症のようで、意識もしっかりしていると、大会側の看護師から告げられた。
相変わらず簡易的な作りの病室に着くと、橘のベッドの横には既に先客が座っていた。
「累……!?」
ベッドの横の丸椅子に腰かける累と、その後ろに控えるように立っている黒髪の男。先程も試合会場で目にした二人だ。
「おにーさん、遅かったですねー」
「今更どんなツラ下げてのこのこ来やがったテメェ」
「兄さん、落ち着いて。まずは状況を整理しよう」
既にベッドから起き上がっている橘が、眼鏡のズレを調整しながらそう言う。
累もその傍らの男も冷静そのもので、たかだか試合に負けたと言う事で目くじらを立てていた自分が少し恥ずかしく思う。オレの後ろにいる鏡弥が特に警戒していないという事は、黒髪の男も今のところは無害な人間なのだろう。
「まず、僕達は累さんに負けました」
初っ端からイタいところを突いてくる橘。まぁ、それは昔からなのだが。
「問題は、『累さんに負けたこと』ではなく、僕達が当初の目的を見失いかけていたことです」
「うん、まぁ……って、累がお前の何かあのツールをパクったのはどういう事なんだよ!?」
「あー、それはもう当事者間で解決したんで、おにーさんは後からおとーとくんにでも詳細を聞いていただければー」
累からそう言われ、橘も頷いて見せたので、オレは仕方なく口を閉じた。橘のベッドの足元に座り直すと、また橘が話し始める。
「兄さん、思い出してください。僕たちが累さんに教えてもらってまで、この試合に出場した理由を。この大会の優勝賞品が何なのかを。そして、それを知っているのは誰なのかを」
「それは……オレとお前が、あの女から依頼を受けて……、優勝賞品は確か」
「『異世界に渡る力』ですー」
さらっと累が割り込んでくる。というか、なんでコイツ優勝賞品知ってんだ!?
「そう。そして、ソレを求めて、遥さんは自ら参戦しています。――情報源については一旦置いとくとして」
「……アイツは……オレ達に」
「情報を集めるためとして、大会に出場するように仕向けていました」
「つまり……」
「最悪、僕達が優勝していたら、『異世界に渡る力』を僕達から奪うつもりだったのかもしれませんね」
「しかもー、実際カノジョ、ココの運営に何かしらカンケーしてたワケじゃないですかぁー。もうソレ確定じゃないですー?」
いけしゃあしゃあと割り込んでくる累だったが、その意見は的確なモノだ。
「それに、ソレ、あながち僕も無関係ではないかもですしー……」
呟くように付け足したその一言だけは、いまいち意味が解らなかったが。
「僕達がこの後取れる行動としては、二択です。まずはこのまま大会に出場し続けながら、彼女の動向を探るか。もう一つは、すぐにでも彼女を糾弾して、『異世界に渡る力』との関連性等を問いただすか」
「ま、大会の出場を控えて彼女を監視するってのも、一つのテではあると思いますけどー」
それだけ言い残すと、累は腰かけていた丸椅子から立ち上がり、病室を後にしようとする。黒髪の男も累に続いて去ろうとした。
「そういえば、なんでオレ達に黙って大会に出場してたんだよ?」
去ろうとする累の背にそう問う。が。
「……ソレは企業秘密ってコトでー」
とはぐらかされてしまった。
「僕達もそろそろ帰ろうか、兄さん」
弟もコチラで、さっさとベッドから降りて、帰り支度を始めている始末だ。
眩暈がしそうだと頭を抱えるオレに、鏡弥が憐みの視線を向けてくるのがわかった。
「とりあえず、彼女のことは、安全かつ確実な手で、情報を集めるべきですね」
淡々とそう言う橘に、今日一日で色々と起こりすぎて処理が追いつかないオレは、今度こそ立ちくらみを起こした。
お兄ちゃん的にはいろいろ起こったけれど、
小説的にはほとんど何も進んでいない、残念な回。
どんまい、お兄ちゃん。どんまい、作者!←