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アプリアル!  作者: 華月蒼.
第一話―――「アプリアルファイト」
16/18

3-6. 「ルイトモ」

 

 

 

 結局、オレは野次馬が集まる前に、鏡弥を引き連れ、橘と遥を回収して近くにあったファストフードショップに入ることにしたのだった。


「で、結局何だったのよ、アレは」


 そう尋ねると、オレの前に並んで座る橘と遥は、居心地が悪そうに顔をしかめる。……さっきまではオレと鏡弥がその居心地の悪さを味わってたんだけどな。


「まぁ、遥も橘も頑固なところがある、というところだろうな」


 オレの隣に座っている鏡弥がズズッとストローから炭酸飲料を飲み、そう言う。

 いや、遥はともかく、橘が意外と頑固者だってのは俺が一番身に染みてわかってるけどな?


「まぁ、当事者同士でゆっくり話し合う方が、解決も早かろうよ」


 相変わらずのストライキ系表情筋だ。というか、多分もう鏡弥は諦めてるんじゃないだろうか。頼むから、お前だけはオレの味方でいてくれよ……!


「ですから、僕としては遥さんの危険を承知であんなことをしたわけですから、やはり何かお詫びをしなくてはと」

「だから、こっちこそ、ハナから危険なんて承知だったと言っているだろう!?」


 あ、また始まっちゃったよ……。鏡弥に至っては、飲み干したと言う炭酸飲料を買い足しに行ってしまった。……逃げやがったアイツ!

 だんだんとボリュームの上がっていく、橘と遥の言い争いに、店中の視線が徐々に集まり出した。

 鏡弥は炭酸が気に入ったのか、ストローから口を離さない。


 あー、コレ、どうすればいいんだろう……。


 というか、普段は橘がここまでヒートアップすることはまず無い。するとしたらオレの方だ。というか、橘の場合はヒートアップする前にブチ切れて「いた」ってコトの方が多いから、こんな「熱くなってます」な状態はなかなか無いわけで。

 つまるところ、オレにはこの場の解決法が見いだせない。

 頼みの綱の鏡弥はさっきから飲み物ばっか飲んでいる。……そもそも縋り付く相手を間違えた感が半端ない。


 そろそろ店側から出禁にされるんじゃないだろうかと思い始めたころ、周りに客が寄り付かなくなった俺達の席に近づいてきたヤツがいた。


「あのー、うっさいんですけどー。そろそろ静かにしてもらえませんかねー」


 オレ達が陣取る席の前に現れたのは、まさかの累だった。手にはフライドポテトとサラダとドリンクの乗ったトレイを持っている。……草食系か!


「あ、累さん」


 累の登場でようやく平常心を取り戻したのか、橘がようやく遥の方向以外に視線を向けた。


 もしかしたら……累なら上手いこと橘を遥を言いくるめてくれるかもしれない……!! オレは新たな縋るための「藁」に期待を寄せる……が。


「いやー、何か? 昨日の試合でムダにデカい爆発起こした選手がいたとかで? 今日は大会が開けないー、とか? 風の噂で聞いちゃったりしたりして? コレは見に行かないとなーと思って会場行ってみたら? 何でも『黒髪のイケメンが金髪のオンナに土下座してた』とか聞いて? ぜひ現場を見たかったナーとか思ってたら? まさかのご本人様方ですかねー?」


 普段は鏡弥といい勝負な表情筋の動きしかさせないクセに、今日はやたらとニヤついている。

 どうやら累は野次馬の方だったようだ。それも、アクティブでダイレクトな方の。最悪だ。


 そのまま累は他の開いているテーブルから椅子を勝手に引きずってきて、勝手に「お誕生日席」を作り上げ、持っていたトレイのモノを食べ始めた。キング・オブ・マイペース!! せめてこの状況を何とかしてから食事を始めてほしい。というか、よりカオス感が増したような……。


 進展しない堂々巡りの不毛な言い争いを続ける橘と遥。ひたすら炭酸飲料を啜っている鏡弥。新たに加わった、ひたすら草ばっか食べている累。そしてオレ。……どう見たってカオスだ。


 オレはテーブルに突っ伏してひたすら「逃げたら負けだ逃げたら負けだ」と呟いていたのだが、その間にも累と鏡弥は何度か飲み物や食べ物を買い足しに席を立っていた。

 そして、累が席に戻ってきて六回目ごろかという時だった。


「で、お二人はいつまでイチャついてんですー?」


 累爆弾、橘と遥に投下。というか、何をどうしたらコレが「イチャついてる」に見えるんだろうか。累の瞳に何か特殊なフィルターでも付いているのだろうか?


「い、イチャついてなんか!!」


 その言葉に真っ赤になりながらも反撃する遥は、かなりの高強度メンタルかもしれない。何せ、その隣に座っている橘は、「イ……イチャ……!?」と呟いてから、耳まで真っ赤にしてテーブルに伏せてしまったのだから。


「いやー、だってもう夫婦めおと漫才は飽きましたしー?」


 何皿目になるのかわからない(途中から数えてなかった)サラダを咀嚼しながらそう言う累。……そろそろウチの弟が溶けそうなのでそこまでにしてやってほしいような、このまま続けてほしいような、微妙な感じだ。


「だっ、誰が、めっ、……夫婦など……!?」

「えー、自覚ナシとかー。マジないですー」


 ぼりぼりと野菜を齧りながら、累は続ける。


「大体ねー。不毛なんですよ二人ともー。グルグルグルグルおんなじこと続けやがって、こっちはお腹いっぱいですよー」


 お腹いっぱいとか言いながら、さらに野菜を口に詰め込む累。


「おとーとクンがしつこいってのは、十分わかったデショー? だったら、答えを『保留』にしちゃえばイイんですよー。少なくとも、頭ごなしに否定ばっかするよりは、遥かに建設的な答えだと思うんですけどねー。あ、別に漫才を続けたいってんなら僕は全っ然構わないんでどーぞお続けくださいー」


 最後にガブガブとドリンク(なんかスゴイ色してた)を一気に飲み干すと、累はトレイを持って立ち上がった。


「じゃ、僕そろそろ行くんでー。()()()()()もあるしー」

「……気ィ付けろよ」

「……その、感謝、しておく……」


 黙りこくった橘と遥の代わりに、オレと鏡弥が累を見送る。


 累がいなくなってから、静まり返ったテーブルで、オレが口を開く。


「で? 結局どーすんの、お前ら?」


 結局橘と遥の言い争いは、不本意ながらも累のテキトーなアイディアを採用する、という事で決着が付いたのだった。






 そして、次の日。


 試合が再開された「ラインハルトカップ」の試合会場でオレ達の前に立っていたのは――




 ――累だった。




2015.07.06 あらすじ変更しました。プロローグ追加されているのでご注意ください。

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