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アプリアル!  作者: 華月蒼.
第一話―――「アプリアルファイト」
12/18

3-2.『戦闘屋』

 

 

 

 その後も順調に連携を高めつつ、オレ達は特に大きな負傷も無く試合を勝ち進んで行った。これまでアプリアルの大会出場経験が一切ないオレ達二人の快進撃に、一部の選手や観戦者たちが注目しているということは、やはり会場での立ち話を立ち聞きして知ったことだ。


 しかし、その日の対戦で、オレ達は初めて、予想以上の強さを誇る集団と会いまみえることとなる。


 後に、そいつらが「戦闘屋」と呼ばれる職の存在であることを、オレ達は知るのだった。

 

 

 

 試合回数が重なるにつれ、だんだんと出場選手が棄権していく。大会開始4日目になる今日では、とうとう勝者側の選手からも棄権者が出始めた。


 理由は単純。勝ち進めば勝ち進むほど、それだけ強い相手と戦わなければならなくなる。そして、一部を除いては、勝利する選手のほとんどが裏社会の人間であることが、試合回数を重ねるごとに、所謂口コミで広がっていく。オレ達のような情報屋はともかく、もっと危険な存在――表社会の人間ならば普段滅多に関わりあいになることはないであろう職業の者たち――「戦闘屋」の存在がささやかれ始めた。


 実際、オレ達が他の選手の試合を見学している時にも、妙に見知ったような顔が混じっている気はしていたのだが、オレ達も「情報屋」である以上当然「表」の人間とは言い難い。だから、例え「戦闘屋」の選手と目が合っても互いに知らぬふりをしていた。暗黙の了解、ってやつだ。


 実質総当たり戦のこの大会では、どんなに実力差がある相手とでも、最低一度は対戦する計算になる。

 棄権者のほとんどはソレを恐れた一般人参加者だろう。


 そして、とうとうオレ達も、その「戦闘屋」との試合を迎える事になる。橘は何度も棄権することを提案してきたが、事前の調査では今回の相手チームのうち「裏」の人間は片方のみ、となっている。少なくとももう片方は一般人である可能性が極めて高いことから、オレは棄権するという橘の案を棄却した。


 「戦闘屋」はその名の通り、「戦闘」を生業とする者たちの事だ。オレ達「情報屋」が情報を集めることを「請け負う」ことにより商売をするように、「戦闘屋」は「戦闘」を「請け負う」ことで利を求める。単純に言えば「傭兵」ってヤツだ。


 今回の相手は、バトル側の方が「戦闘屋」で、タワー側は一般人らしい。何を以ってしてこの組み合わせでの出場なのかは知る所ではないが、大方サポーター側が優勝目指して「戦闘屋」を雇ったんだろうと言うのがオレの予想だ。




 戦闘フィールドでオレと対峙する男は、身長175cmは越えているはずの橘よりもさらに頭1個分くらいは大きいんじゃないかってくらいの高身長。しかし体格はガチムチというワケでもない、必要最低限の筋肉がつけられた「闘うため」に練り上げられた身体。そして、髪は薄く紫がかった銀色で、暗い紫の瞳――所謂「準アルビノ」と言われる特徴。準アルビノはオレ達アルビノ程ではないがそこそこ希少種とされていて、ごく稀にそういう趣旨のコレクターやハンターにも狙われると聞いている。もしかしたらこの選手もそういった関係で己を鍛えざるを得なかったのかもしれない。身にまとった「シーナ風」と呼ばれる独特の、深くスリットの入った踝程まである丈の長い服にズボン。他にも身に着けている服装や装備、装飾品はどれもシーナ風で纏められている。風に靡く彼の腰近くまで伸ばされ頭の上半分の髪だけを結った銀髪を見ながら、未だ訪れたことのないシーナ地方に少しだけ興味が湧いた。


 タワー側で橘と対峙するサポーターはプラチナブロンドのポニーテールが眩しい女だった。気の強そうな眼差しの女に、確かにコイツなら「戦闘屋」くらい雇いそうだと思わされなくもない。まぁこちらは一般人である上に橘が相手をするのでさほど注意することはないだろう。問題はやはり目の前の準アルビノの「戦闘屋」だ。

 プラチナブロンドの女の服装も「戦闘屋」に合わせたのか、シーナ風テイストなカジュアルでまとめられていた。




 会場はアルビノと準アルビノの希少種同士の戦闘という事もあってか、普段より3割増しくらいに沸いている。事前に橘が調べた情報によると、相手の組もオレ達と同じ全戦全勝。特にフィールド側のオフェンスがメインの戦闘で、相手の武器(エモノ)はサーベルらしき長剣だという。ちなみにアプリアルの属性は不明らしい。剣での物理攻撃のみで戦ってきたのなら、確かに「戦闘屋」としての戦いとしては納得がいく。――ひとつ腑に落ちないとすれば、そんな凄腕の「戦闘屋」がいたならばオレも橘も既に情報網の中に仕入れていたはずなのに、此処に来て初めて知ったという事だろうか。




 オレは普段愛用し、もはや定番となっているナイフでの攻撃は今回は避けることにし、銃での遠距離戦を狙う作戦だ。彼の間合いに入らないに越したことはない。


 オレ達は、初の対「戦闘屋」戦に向けて綿密に作戦を練り、この試合に臨んだ。




 オレと準アルビノの「戦闘屋」の間に立った審判が、いつもの様に試合開始の合図を出すと、オレは普段なら真っ先に詰める相手との距離を開けるため、後ろに下がった。これは会場は予想外だったようで、にわかにざわついているのが聞こえてくる。続いて右手に召喚するのは火属性アプリアル・『紅蓮の銃(クリムゾン・ガン)』。普段なら3本の『紅蓮の小刀(クリムゾンナイフ)』を召喚しているところだが、今回は相手が相手だ。……むしろ、これからはナイフよりも銃の方が多く使うようになるのかもしれない。


 オレの今大会初の戦法変更に沸き立つ会場オーディエンスだが、相手の方は予想済みだったらしい。確かに、彼に向って近接戦闘を挑もうなどと考える選手はこれまでいなかったのだろう。一瞬で取ったはずの間合いがすぐに詰められる。ココで来る体格差からの歩幅差がマジで痛い。


 オレが距離をとりアプリを起動している間に、相手も同じことをしていたらしい。いつの間にか彼の右手に握られていた紫暗の柳葉のような長剣を振りかぶりながら、オレからすれば巨体と言っても差し支えない身体での高速移動。もしかしたら、相手側のサポーターも一応はある程度のサポートをしているのかもしれない。


 振り下ろされた剣を横っ飛びで躱すと、左斜め後ろからの爆発。恐らく相手サポーターからの攻撃。橘の防御ツールが無ければかなり危なかった程度の威力のそれは、相手サポーターが一般人としてはかなりの戦力になることも示している。


 オレは相手の左手に握られている端末に銃を撃つが、なんと剣で銃弾を斬られてしまった。


 オレの銃弾はアプリアルでの召喚物のため、当然普通の銃弾ではなく各属性固有の効果が出る。例えばナイフなら熱の刃により全てを切り刻み、銃ならば弾の代わりに焔の固まりを弾丸のように打ち出すため実体らしき実体はない。しかし、現に今オレの「銃弾」は相手の剣に斬り弾かれた。どういうことだ?


『兄さん、相手のアプリの特性が分かった』


 相手の剣撃をバック転を4回ほどして躱しながら後退していると、橘からの通信が入った。いつもなら相手の属性を伝えてくるはずなのに、今回はいつもと違う。


「特性? 属性じゃなくてか?」

『相手の剣はただの物理召喚。属性を付与しているのはサポーターからの支援のようです。さっきの銃弾もサポートなしではできないはず……僕はサポーターの攻撃をやり過ごしながら属性を確認するから、兄さんは』

「避けんので精いっぱい!」

『……がんば』


 橘と話しながらでは、相手からの攻撃を避けることに集中できない。というか、そもそも大会始まって以来、初めて「受け身」の状態になっていることに気づいた。相手の剣は迷いなくオレの左手の端末に向けてきていることから、無駄な殺生はしない主義のようだが(「戦闘屋」の中には、所謂「狂戦士(バーサーカー)」的な性質を持った者も少なからずいる)、攻撃の正確性と速度が油断ならない。現にオレは最初の1発の後、銃を撃つことすらも儘ならない状態だ。


 その上、相手サポーターの攻撃である。「戦闘屋」が完全物理型であるのに対して、こちらは属性系アプリ攻撃メインでの「攻め」のサポートだ。実際、この「戦闘屋」の実力なら、後手に回るという事自体起こらなかったのかも知れない。一方、橘のサポートは基本的に「守り」の面が強い。性格的な部分もあるとは思うのだが、基本的に橘の方からフィールドに攻撃すると言う事は今までに無かった。


 正直言って、一般人サポーターだからと、少々相手を見くびり過ぎていたのかもしれない。




 オレ達はそれぞれ刃を交わしながら、PC端末のキーボードを叩きながら、大会開始以来の窮地に立たされている事をじわじわと感じ取っていた。

 

 

 

 

 


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