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アプリアル!  作者: 華月蒼.
第一話―――「アプリアルファイト」
11/18

3-1.総当たり戦

お待たせしました!遂に戦闘開始です!





 

 

 


「アプリアル起動、召喚『紅蓮の小刀(クリムゾンナイフ)』」


 相手の先制攻撃を避けつつオレがそう告げると、左手に持った端末の画面が光り、右手に3本の紅いナイフが召喚される。派手な爆撃による硝煙により、オレも相手も視界が効かない状態だが、橘のサポートツールによりオレの視界のみがクリアになる。


 相手が再び動き出す前に、橘のさらなるサポートツールにより加速度を上げ懐に入り込んだオレは、相手の手にあった端末をナイフで砕いた。






 「サポートしかできない」等という自分の弟を見ると、困ったような表情でこちらを見ている。眼鏡のレンズの向こうに在る、オレの紅い瞳とは正反対な穏やかな蒼い瞳が不安そうに揺れている。そんな橘にオレはこう告げる。


「頼りにしてるからな、橘」


 表情筋を最大限に動かして笑顔を作る。……正直言うと、オレが「頼りにしている」と告げる事自体が、橘にとっては十分な、能力を最大限に発揮するためのトリガーのようなモノになっているという事は周知の事実となっている。本人を除いてだが。


 おおよそ、この弟の事だ「出来る事なら代わりたい」とでも思っているのだろうが、生憎それは杞憂だとすぐに思い知るだろう。オレがそう思う程度には、累の特訓は厳しいモノだったし、野良戦で経験値を積ませてもらったあのグループだって毎晩騒いでいるだけあってかただの雑魚集団ではない。


 不安げな橘に対し、オレは密かにこの戦いを楽しみにしていた。






 第一回戦。何気に味方同士でありながらも互いの手の内を知らないまま迎える事になったのだが、特に問題ないだろう。相手は一般人のバディ(二人組)のようで、戦闘慣れしていない緊張感が伝わってくる。


『兄さん、通信の状況はどう?』


 右耳に装着したイヤホンから、サポーターのポジションであるタワーにいる橘からの通信が入る。戦闘中は、地上の戦闘エリアにいるオレと、エリアを一望できる程度の高さに設定されているタワーにいる橘の会話はこの通信機を用いるようだ。これは大会本部からの支給品であり、相手側も同じ条件で通信をする。


「良好。そっちはどうだ?」


 ちなみに、戦闘エリアにいるオレと対戦相手の戦闘担当らしき少年が用いる端末と、戦闘エリアの両端に設置されているサポータータワーにいる橘と相手のサポーターが用いるPCや端末も、大会本部からの貸与品だ。基本的には、端末やPCを起動するのに必要最低限のOSやアプリ・ソフトしか入れられておらず、戦闘が開始される前に、それぞれ用意してあるアプリ等のツールを自前のソレからコピーすることになっている。


『こっちも良好。ノイズ及び視界を遮るモノも無し』


 この大会での勝利条件は「戦闘エリアにいる選手の持つ端末を使用不可能な状態にすること」だ。つまり、早い話が「相手の端末をぶっ壊せ」ってコトになる。このルールにより、戦闘で使用する端末類は全て大会側の用意する貸与品というワケなのだ。


「戦闘開始前から視界不良とかあってたまるかよ」


 半笑いで橘と通信するオレに、既に相手はビビっているように見える。……コレが演技なら相当の役者だ。


「さ、とっとと始めようぜ?」


 オレがそう言うと、オレと相手の少年、エリアの外と観客席のちょうど間に立っている審判が戦闘開始の合図を出した。




 合図が出されてすぐに、オレは行動を開始する。先手必勝。どうやらそれは橘も同じのようで、走り出したオレの速度は通常よりもかなり速くなっている。おそらくサポートツールを利用したのだろう。オレも負けてはいられないと端末に指示を出す。


「アプリアル起動、召喚! 『紅蓮の小刀(クリムゾンナイフ)』!」


 予め声による指示に対応するように設定してあった端末の画面が光り、戦闘用アプリアルが起動される。右手に3本の紅いナイフが召喚され、それぞれを指の間から出すように握り込み相手に突撃する。


『兄さん、4時の方向から相手サポーターからの迎撃。こちらで対処するからそのまま突っ込んで』


 イヤホンから橘のナビ。どうやらお相手さんは地上よりもタワー側の方が肝が据わっているらしい。


 すぐに斜め右後方からの爆撃音が聞こえるが、衝撃は無い。橘が防御ツールでも使ったのだろう。気にするなと言われなくてもハナからオレの目指しているのは、まだ真正面に突っ立っているビビり君の端末だ。


 特別なことは何もせずに余裕で相手の懐に入り込んだオレは、さっさとビビり君の端末を粉砕してやることにした。


 相手の端末はナイフによる損傷により使用不可能とみなされ、オレ達の第一戦は白星を飾ることが出来たのだった。

 

 

 

「あの相手選手たち、棄権するそうですよ」


 戦闘が終わってすぐ、オレ達は大会会場内の運営本部にある医務室で検査を受けさせられた。これは戦闘で勝っても負けても強制的に受けさせられるらしい。実質初になるであろう「サポーター制」によるアプリアルファイトによる人体への影響がないかとのことだ。主催は相当な慎重派のようだ。ファイト自体も楽しんでいはいるオレだが、今回の依頼を忘れているわけではない。


 検査が終わってすぐ、橘が先ほどの相手チームの動向を確認したらしくそう告げてきたのだった。


「他にも結構いるみたいだな、初戦後の棄権者」

「そうみたいですね。大方、他の大会ではロクな成果も出せないけど二人セットでならとか、タカを括ってきたんでしょうけど実際は違った、ってとこなんじゃないですか?」


 さも面倒くさそうに言う橘。……コレは多分、ファイトの最中に相手サポーターからオレへの攻撃行動があったことへの不満か不安か、もしくはその両方……いずれにせよ、おそらくこの弟は次にこう言うハズだ。


「棄権するつもりはねーからな?」


 どうやらオレの読みは当たっていたらしく、一瞬だけ目を丸くした橘だったが、すぐにいつもの調子に戻る。


「少しでもこの会場に居る時間が増えれば、何か重要な情報が見つけられるかもしれないだろ? それに、元々オレ達の目的は優勝なんかじゃ無いはずだぜ?」


 レンズの奥でさざ波のように揺れている蒼い瞳を見ながらそう言う。何度も口に出して確認しなければ、オレ自身さえも「勝利」という栄冠に惑わされそうになってしまう。そんな気がした。


「……そうですね。肝心なのは試合そのものではなく、そこから得られるであろう『情報』。今後も、対戦相手やその他の選手の動向にも気を配ってみましょうか」

「そうだな。運営側で試合での負傷は治癒してくれるとはいえ、無事に対戦を切り抜けられる程度の情報も必要だな。それと同時に、依頼の件についてもそれとなく探りを入れて、と」




 この大会では、戦闘時における端末の貸与など以外にも、他のアプリアルファイトの大会とは異なる点が数多く見受けられる。らしい(オレと橘はアプリアルファイトの大会の出場自体が初めてのため比較できないが、会場内ですれ違った他の選手たちの話しをちょっと立ち聞きしたのだ)。


 そのうちの一つが、戦闘での負傷の治癒だ。


 というか、まずフツーのアプリアルに「治癒」の効果を持つモノはオレ達の知る限り存在していないはずだ。あればとっくの間に市当局の医療機関などで利用され、衆人認知度もそれなりに在るはずだ。そんな謎技術がなぜかこの大会運営本部では当たり前のように使われている。その事実が確認されただけで、棄権しなかった他の選手たちはより一層に闘志を漲らせている。つまり、どれだけ無茶な戦いをしても大会側が治してくれるのだから心配ご無用というワケだ。……もっとも、橘をはじめとした慎重派選手たちは「そんな都合のいい話なんてあるはずがない」と思っているようだが。


 次が、先程オレ達も受けさせられた、試合後の検査。恐らくは「治癒」と関連付けられるものだとは思うのだが、そんなことを実施している大会はほとんどないらしい。


 そして、一番の話題が「優勝賞品についての詳細が一切明かされていない事」だ。つまり、オレ達の受けている依頼にも直結するものだが。普通の大会だと、事前に優勝賞品などは提示されている。それを賭けて選手たちは戦うワケだが、今回は自分たちが何を賭けさせられているのかすらも謎だ、というのが他の選手たちの意見だった。オレ達はハナハナ(依頼人)から事前に知らされていたが、他の選手たちはそうはいかない。


 しかし、その「『謎の賞品』を賭けている」という事自体が戦意に火を点けているような選手も多く、逆にそのことを知って棄権する選手たちもいる。リーグ戦形式の総当たり戦のため、棄権する選手が増えれば戦闘の回数も減るので、優勝を狙うような選手からしてみれば好都合なのだろうが。




 とにかく、この大会は、他とは何かが違う。




 そんな共通認識が開会初日にして既に、各々の経験や認識、目的こそ異なるものの、多くの選手たちの中に生まれつつあるのだった。

 

 

 

 

 


 

 

 

そして視点が橘から梓にチェンジしています。

毎回あとがきに何を書こうか悩んで更新が遅れているとかそんなことは……

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