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テディベア

前回のSPDOはいくつか修正したり追加しました。

報告が遅くなってすいません。

 「いい結果でよかったな。」


 白川は検査結果を読みながらにんまりと笑っている。机の定位置に腰掛ける川内は若干恥ずかしそうにしていた。


 「大村の能力は問題なしだし、薬に対する抗体もない。とりあえずgiftとしての一番重要な部分に問題がなくてよかったな。」


 大村は白川の机の前の椅子に腰掛け、SPDOで検査を受けさせて貰ったこに感謝し、2日間仕事を休んだことを詫びた。

 白川は当然のことだと笑いながら、どこか表情がやつれていた。


 「さて、それじゃ可能性は絞られたな。」


 白川は両腕を頭の後ろで組みながら背中を椅子の背もたれに預ける。背もたれが小さな悲鳴を上げた。


 「あの・・・これからどうするんですか?」


 SPDOで検査を受けている間ずっと考えていたことを大村は白川に問いかけた。

 白川はそのままの姿勢のまま、片方の眉尻を上げた。


 「それはこれからお前が捜査するんだよ。一応警察官だったんだしな。」


 その白川の言葉に一瞬大村は言葉を失う。


 「そ、捜査っていっても」


 「大丈夫、上には報告したし、公安の背広組からも協力してもらうよう取り付けたから、俺と大村と公安の背広組で国分医師の捜査を始める。異論はないな。」


 白川のその強い言葉に、大村は白川が大村のためにあれこれ手をつくしてくれたのかと感動し、目をうるませた。

 だが、側で見ていた川内は大村のその表情を見て笑いを堪えていた。


 「大村、なんか勘違いしてるかもしれないけど、こいつが疲れているのは久しぶりに訓練に参加したからよ。これだから事務方は根性ないのよ。」


 にやにやと笑う川内に内情をばらされて、白川は椅子から跳ね起き


 「そういうことはいうなよぉー。」


 と川内に泣きついた。その拍子に栄養剤の瓶が何本か机の横から転がった。


 「あ、別にあんたは責任感じて謝らなくていいから。日頃から鍛錬してないこいつが悪いのよ。」


 意地悪な笑みで川内は大村に言う。大村も川内と白川のやり取りについ微笑ましくなってクスクスとためらいがちに笑っていた。


 「ところで部長がどうして訓練に参加したんですか?」


 大村がその質問を投げかけると、川内は黙って立ち上がり、ピンヒールをツカツカと鳴らしながら部屋の扉を開けた。

 その瞬間、屈強な男たちが涙目で大村に向かって走ってきた。その中には大村を疎む隊員もいた。


 「大村ちゃーん、ごめーぇーん!俺たち大村ちゃんがいないと生きていけないよー!」


 大の大人が小柄な女性に許しを請うていた。その光景に川内は顔をそむけながら顔を真赤にして笑いを堪えていた。

 状況を把握しきれていない大村は、隊員たちの扱いぶりに戸惑っていた。


 「あ、あの私が居ない間に何があったんですが?」


 大村がそう言うと、白川はいつの間にか椅子に座ってうつろな目で黙って高そうな栄養剤を細いストローで大事そうに飲んでいた。

 ボロ雑巾のような白川の代わりに川内が楽しそうに答えた。


 「部長も大村と同じような時間の止め方ができるの。ただし、部長の場合は動ける人間は1/2の時間の負荷が掛かるっていうね・・・、要は行動が1/2スローモーションになるっていうこと。これじゃ時間止めても体力消耗するだけだからねー。フィジカル面では『昔は』良かったけど、能力的には相変わらずねぇ。」


 そう説明する川内は珍しく機嫌がよかったが、白川は机にへばりつきそうになりながら川内を睨みつけた。


 「まぁ大村の居ない時の訓練は俺に任せろ!って部長が大見得きったんですものね。」


 川内は楽しそうに白川をいびる。

 大村はSPDOで検査した後に電話の後ろでスローモーションの叫び声が聞こえたのはこれのせいだったのかと納得がいった。


 その時、白川のスマートフォンが鳴った。白川は電話の内容を聞いて思わず椅子から勢いよく立ち上がった。


 「国分医師が逃げた。大村、お前の言った通り真っ黒だ。背広組は国分医師を追ってる。俺達は国分医師の病院に行こう。」


 その言葉を聞いて隊員たちも川内も顔色が真っ青になった。

 白川は先程の疲れた様子とは打って変わって強い眼差しで大村の側まで駆け寄ると、大村の腕を強く握って国分医師の病院まで急いだ。


 やがて白川と大村は国分医師が専属している京帝大学病院へ到着した。

 受付に警察手帳と事情を話し、国分医師の問診室兼治療室へやってきた。

 ここで大村は覚醒治療・鎮静治療・身体ケアの他に精神的なケアも受けていた。というより世間話がほとんどだった。

 清潔感があり、消毒薬の匂いが鼻につく。窓が開いているのか、白いカーテンがたなびいている。

 大村と白川は捜査のために手袋をはめた。いずれは事情聴取の間鑑識がここを調べるのだが、まず国分医師の変化に気づいた大村に現場を見てもらおうと白川は大村を連れてきた。

 まずは大村は俯瞰で部屋を見渡す。部屋の左側に普通の問診室と同じように机がある。

 ふとその時大村は違和感を感じた。そしてその瞬間、頭の中に国分医師との話が蘇る。


 「部長!」

 「どうした?」

 「クマのぬいぐるみがありません!」

 「クマのぬいぐるみ?」


 大村の突然の言葉に白川は不思議そうに目を丸くした。


 「あ、あの、国分先生は妹さんからもらったクマのぬいぐるみもらってすごく嬉しそうにここに飾っていたんです。」

 「なんでクマのぬいぐるみがないんだ・・・?」

 「わかりません・・・。なんでなんでしょう・・・。」


 大村と白川はクマのぬいぐるみがないことを不思議がりながら、今度は国分医師の持ち物を探った。

 すると机から個人のノートブックPCが出てきた。

 大村はそれを机の上に置き、PCを開いた。電源を入れ起動させる。幸いパスワードはかかってないようだった。

 何か手がかりはないかと国分医師のメーラーを開いた途端、画面がピンク一色になった。そして、テディベアの絵が左手を振りながら何か分からない言葉を書いている。

 大村は反射的に時間を止め、側にあったペンと紙を素早く取り、PCに書かれた文字をメモした。

 やがて時間は流れ、PCの絵もピンクの背景もゆっくりと消えていった。

 覚醒治療を受けていない状態の大村の止められる時間は30秒で、自分しか動けない。

 白川にとっては何もできずにあっという間に時間が過ぎてしまった。そしてPCはブラックアウトした。


 「え?ちょ、今の何?」


 白川が慌てている時、白川のスマートフォンに公安の背広組から連絡が入る。

 その内容は、なんとか国分医師の居場所を突き止め任意同行しようと近づこうとした時、国分医師はテディベアを左手に抱きかかえながら、震える右手で拳銃を頭にあてがうと


 「し、死にたくない!」


 と叫びながら引き金を引いて即死したというものだった。そしてその時刻は誰かによってPCが操作された時間と同じだった。


 白川は電話の後、その場にしゃがみ頭を抱えてうずくまった。


 「だめだ・・・。全部後手後手になっちまった・・・。すまない・・・。」


 そう言ってため息をついた。

 うずくまる白川をよそに、大村は先程書いたメモを見た。おそらくロシア語だろうが意味はわからなかった。


 やがて白川は立ち直り、サイバー犯罪課や所轄と連絡を撮り始めた。


 ひとり取り残されたような大村は、何が書いてあるか分からないメモを何度も見る。


 『Увидимся』


 

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