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大村の推測

 「これはあくまで私の推測ですが・・・。」


 大村は意を決して顔を上げた。決心したその顔は強い意思を物語っている。


 「今回の件に関して、私は2つの説を考えています。」


 白川も川内も真面目に大村に向き合った。川内はその華奢な足を組み替える。


 「1つは、私よりも強い力を持った能力者がいるのではないかということです。」


 「というと、時間を自由に操れるってことでいいのかな?」


 大村の説に白川が補足し、大村はその言葉に頷いた。


 「しかし、この説には問題があります。もし仮に、そこに時間を自由に操れる能力者が居たのなら、我々が逃げる時にわざわざ弾丸一発だけの時間を元に戻すなんてしないとおもうんです。」


 白川は頷き、川内も多少考えつつ聞いいていた。


 「もし私が時間を自由に操れる力をもってたとしたら、おそらくあの時皆蜂の巣にしていたと思います。それに退避中に弾丸一発だけの時間を元に戻すことで、犯人があえて自分の力を見せつけるためと仮定したとすると辻褄が合わない気がするんです。どうして退避中にそういうことをしたのか・・・」


 「そういう力をもっているなら、わざと逃避中の私達に自分の存在を教えるより、きっともっと早くにじわじわとなぶり殺しにしてるでしょうね。私ならそうするわ。」


 あの時現場にいた川内は大村の説に付け加えた。


 「まぁそれにそんな自己顕示欲の強い奴が居たら、今頃でかい騒ぎを起こして公安から連絡入ってるはずだからな。」


 白川は肘をついて無精髭を撫でながら言った。


 「まぁ、つまりはお前の第一の説はシロってことだな。」


 頭をかく白川に大村は頷いた。


 「それで、もう1つの説は?」


 「もう1つの説は・・・大変申し上げにくいことなんですが・・・。」


 大村はもう1つの仮説を伝えることを躊躇した。大村にとってはこの後者の説が限りなく黒に近いが、白川や川内の反発を内心恐れていた。


 「実は・・・専門医の先生が怪しいと思うんです。」


 「あんた何、人のせいにしてんのよ?!」


 大村の思った通り、川内は大村の説にしょっぱなから否定的な意見を述べた。


 「あんた何言ってんのか分かってんの?ベテランの先生がおかしな真似するわけないじゃない!あんた私が何が嫌いかよーっく知ってるでしょ?」


 川内は自分の非を他人のせいにすることが嫌いだった。


 「はいはい、あんたの責任転嫁は聞き飽きたわ。」


 川内は歯ぎしりしながら眉根を寄せて大村を睨みつけた。


 「いや、もう少し話聞いてやろうぜ。」


 後ろの白川は川内のご機嫌の悪さに苦笑いしながら大村に問いかけた。

 大村は川内に怒られることを覚悟で話を続けた。


 「確かに、国分先生はベテランの専門医です・・・。」


 彼らロストナンバーズに所属しているgiftのメンバーは、出撃前に指定された病院で覚醒治療を受ける。その病院の医師の中でも国分というふくよかな中年の女性医師の信頼は厚かった。


 「私も国分先生を疑いたくはありません・・・。」


 大村の脳裏に、ふくよかで優しい笑みを絶やさない国分医師の顔が浮かんだ。妹思いの女性で、妹からもらったクマのぬいぐるみを治療室兼問診室に飾り、そのもらったぬいぐるみを嬉しそうに自慢している姿が大村の脳裏によぎる。


 「しかし、あの退避後、リバウンドがあまりなかったんです。」


 不機嫌だった川内も、苦笑いをしていた白川も一瞬たじろいだ。

 gift達が100%能力を発揮した場合、その分の代償、つまり『リバウンド現象』が起きる。このリバウンドは能力者によって様々で、頭痛・嘔吐・起き上がれないほどの倦怠感・意識を失う・吐血など、能力を100%使った事による身体への負荷が非常に大きい。

 作戦が終わった後のgiftたちは脳の活性化を抑えて正常値にするための処置を受けることになっている。リカバリーには1〜2日を要することもある。


 白川と川内達の様子を見て、大村は続けた。


 「私はいつも作戦後、リバウンドで嘔吐と鼻血とひどい倦怠感があります。」


 その大村の言葉に、現場で指揮をとっていた川内が何かを思い出すように考え込んでいた。


 「・・・確かに、いつもならそうだったわね。」


 川内はポツリと答えた。大村があの退避時にぼんやりしていたのは被弾したショックからかと川内は考えていたが、どうやらそれは勘違いのようだった。


 「はい。あの退避時、いつものリバウンドがほとんどなかったんです。まるで、投薬前のような体調でした・・・。」


 川内は大村の体調の変化を見逃していたことを恥じて唇を噛んでいた。


 「なるほど・・・。じゃあ、出撃前に国分先生が通常の薬じゃなくて生理食塩水でも注射したってことかな?でもそれだと国分先生が何のためにそんなことしたのかが分からないよなぁ・・・。」


 白川の的の得た発言に、大村は戸惑いながら頷いた。


 「あんたが薬に対して免疫ができたとかは?」


 川内がすかさず別の説で対向する。


 「それならみんな今頃免疫ついて薬が効かなくなってるはずじゃん?でもまぁ大村が例外ってこともあるしなぁ・・・。」


 白川は川内の説を反論しつつ、可能性を素早く提示した。

 そして、部屋はしばらく沈黙に包まれた。


 「よし、とりあえずまずは大村が薬に対して免疫ができたかどうか調べることから始めよう。」


 白川が柏手を打つと、部屋の空気が一瞬痺れた。

 

 「でも、もし大村に抗体がなかったとして、どうして国分先生がそんなことをやる動機が分からないわ。」

 

 未だに大村の説を疑ってかかる川内の言葉に、白川がニヤリと笑ってみせた。


 「それは抗体検査のあとに大村が調べりゃいいんだよ、な。」


 白川は莞爾と笑い、大村を見た。大村は自分を信じてくれた白川の気持ちを嬉しく思う反面、自分が隊の訓練を抜けることに引け目を感じていた。

 

 「ところでお前ら!」


 川内が机から立ち上がり、大声で言った。

 その大声の後、部屋の外から話を聞いていた隊員たちがイタズラがバレた子供のように苦笑いをしながら数名入ってきた。


 「あんた達、何立ち聞きしてんのよ!」


 川内の一喝で屈強な男たちが縮こまった。

 隊員たちに囲まれるように椅子に座っている大村は、隊員と川内をおどおどしながら見比べていた。

 そして隊員の一人が口を開いた。


 「あの、もしかして大村のgiftが無くなりかけてるってことはないんすかね?」


 この隊員はかねがね体力面で足を引っ張る大村を疎んでいた。川内もこの隊員から何度も大村を外すようそれとなく進言したことがあった。

 そして大村自身も、本当は自分の能力が消失しかけているのではないかとうすうす考えていた。


 「あー、まてまて。」


 そんな張り詰めた空気を一掃したのは、両手をかざして立ち上がった白川だった。


 「日頃の体力作りでポテンシャルが落ちてるってこともあるかもしれないじゃん。女の子は男より筋肉少ないし、第一お前ら脳筋と一緒にしたらいかんだろう。」


 白川は柔和な笑みで隊員達を懐柔する。隊員たちも白川の発言に言葉を失った。

 そして白川は大村の側まで歩み寄り、その肩に手を置いた。

 

 「とりあえずしばらくは大村は休養も兼ねて、ちょっと捜査してもらおうか。」


 「は、はい!」


 大村は思わず声を上げて立ち上がった。

 しかしこの白川の発言に隊員たちからのブーイングが飛ぶ。


 「今週大村使った訓練あるのにどうするんすか?他に時を止める能力者がいるんすか?」


 隊員は怪訝そうに尋ねる。白川は自分のあごひげを撫でながら天井を見て思案していた。


 「まぁ・・・いないこともないけどな。大村の代理の奴でよけりゃいいんだろ?」


 白川は普通に答えているが、長年の付き合いの川内は、白川の目が一瞬光ったのを見逃さなかった。それは白川が何か良からぬことを企んでいる時の目だと確信した。だが、川内はあえてそれを黙っておいた。後々この隊員たちには良いお灸となるだろうと思ったからである。


 「さて、それじゃあたしたちは解散。ほら、さっさと行け!」


 川内は隊員たちを引き連れ部屋を出て行った。


 部屋の中は急に静かになった。


 「あのさ、川内の口が悪いの、許してやってよ。」


 白川は弁解しながら頭をかいた。


 「あいつツンデレだからさー、なかなか素直になれないんだよ。あいつの本音を言えば、自分たちの隊員が一人でも多く生き残って欲しいと思ってるんだよ。現に、あいつも仲間が何人も死んで行くのを目の当たりにしてるからさ・・・。でも指揮官だからそこまで甘いこと言えないし、あいつはあいつなりに鬼教官演じて、みんながちゃんと生き残れるようケツ叩いて鍛えてるんだ。まぁ、これはオフレコだけど分かってやってくれよ。」


 白川は大村の背中を強く叩きながら歯を見せて笑った。大村もつられて笑っていた。

 



 

 



 


 

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