命がけの接待部隊
警察には特殊襲撃部隊SATや機動隊の他に、極秘の特殊部隊があった。
秘密であるが故に名前が存在していない。
この名前のない特殊部隊を任された部長は勝手に自らの部隊を「ロストナンバーズ」と呼んだ。
この警察の秘密組織の目的はそれほど見栄えのいいものではない。
警察の主要幹部達の中では密かに「接待部隊」と呼ばれている。
そう言われる所以は、SATや機動隊に将来有望な人材が居る場合や幹部の息子などが所属している場合、何としてでも殺されないよう警護するのがロストナンバーズの仕事だからだ。
それ以外にも、ロストナンバーズに所属する特殊能力者を使って、接待ゴルフでもてなす相手のスコアが一位になるよう工作するのも彼らの仕事の一部である。
つまり特殊部隊でありながら『なんでも屋』であり、『命がけの接待部隊』というなんとも泥臭い日陰の部隊なのだ。
「いやさぁ・・・、本当にさぁ、もっと待遇よくてもいいんじゃね?って俺思うのよ。」
部長の白川剛は自分の机に足を乗せながら、警部補であり分隊をまとめている川内にぼやいた。
「だってさー、超能力者がいるのに予算少ないし、機動隊の傘下ってドイヒーじゃん?俺もっとこうあの昔あった超法的な機動隊のアニメみたいに」
川内薫は白川のぼやきを聞き流しながら艶めく黒髪を撫で、白川に背を向けて机に腰掛けていた。女性警官の制服の腰のくびれは見事で、その腰掛けているスカートの部分も柔らかく豊穣な色気を放っている。
白川と川内は、超能力者・別名『gift(白川命名)』の大村良子を待っていた。
二人は大村から、『時間を止めたはずなのに、なぜか時間が止まってなかった。』と聞かされた。そして、大村のメンテナンス後、詳しく事情を聞くことになった。
やがてドアが開き、一人の女性が入ってきた。丸くあどけない顔にはカーゼが貼られている。昨日の襲撃の際負傷した部分だった。
「お、お待たせしました。」
大村良子は何かに怯えるように縮こまっていた。
この大村は周囲を1分だけ止める能力を持っている。そして彼女の背後1m以内は時間が止まる事なく行動できる。時間制限の短い能力でありながら、能力者以外の人物達も動けるというのはさらに珍しいことであり、一分一秒で命のやり取りをする機動隊には大変ありがたいものではある。
ただし、彼女の機動隊員としての体力を除けばの話である。
もともと大村は普通の警察官であったが特殊能力を買われてこの部隊に編入してきたため、体力が他の機動隊員に比べるとかなり難のあるほうだった。そのため、日々大村は川内に体力作りの為にしごかれている。内部の機動隊員に大村の体力無さをあまり好ましく思っていない連中も居るため、川内にとって大村は頭痛の種だった。
川内の切れ長の厳しい目つきに大村の全身がこわばる。
「まぁまぁ、とりあえず落ち着けよ、な。」
そう言って、白川は座り直し、大村に椅子に座るよう促した。ちなみに大村をスカウトしたのは白川だ。
「率直に言うけど、今回酷い負傷者がでなかったからいいものの、どうして時間を止められなかったの?」
白川が切り出す前に、川内が腕を組みながら厳しい口調で問いただした。組んだ腕の中の胸はなだらかな2つの丘を形成している。
大村は肩を反射的に一瞬痙攣させて涙目になっていた。
「川内ぃ、そんなきつく言うなよ。」
40前半という年にも関わらずかなりの白髪まじりの頭を掻きながら白川が言った。
「誰でもさ、ポテンシャル発揮できない時だってあるじゃん。特に女の子とかさ」
白川がそう言った途端、川内は鬼の形相で白川を睨みつけた。白川は川内の地雷を踏んでしまったことを内心後悔した。
そしてまた椅子に座って縮こまる大村をきつく睨んだ。
「生理ぐらいピルで止められるでしょ?それより、能力のポテンシャルは常に100%調整されてるはずでしょ?それなのになんであんなことが起きるわけ?」
川内がそう言うのも、彼らgiftは予め指定の病院で能力のリミッターを解除する特殊な薬品を投与される。そのため戦闘時には常に100%の特殊能力を発揮できるようにしている。
しかし、今回はその準備をしたにも関わらず大村はわずかだが時間を止める事ができなかった。
大村は何も言えずうなだれていた。
「なぁ、そんなに攻めなくてもいいじゃん?」
白川がそう言うのも構わず、川内はさらに大村に言う。
「本当に困るのよ・・・。実際その能力で体力補ってるようなものなのに、その能力すら使えなくなったらどうするの?それに実践で急に能力消失して負傷者や死人出したらどうするわけ?」
川内の口調は強い。大村は椅子に座り、ただ縮こまっていた。
大村にも川内の言いたいことはよく分かっている。大村自身、自分が隊の中で肝心の体力面で足を引っ張っていることも、隊の仲間達からも疎まれていることを知っている。
皆が命を張る現場で足を引っ張っている上に能力劣化は致命的なのは大村自身が一番よく分かっていた。
だが、大村には今回の件で納得出来ないことがあった。
いつもの大村ならば除隊願いを出すところだが、大村の中に何か引っかかるところがあったのだ。そのために、あえて鬼教官の川内と白川に報告に来たのだった。
大村は怯えながら、それでも元刑事としての自分の勘を信じ、どう二人に伝えるか改めて頭の中で整理していた。
大村は自分の婦人警官服のスカートを強く握った。