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オマケ3:白川

 白川は毎年とは言わず、毎月、知人の月命日には墓参りにやってくる。墓の下で眠る男は、白川に強い影響を与え、川内という恋人をこの世に置いていった。

 白川は線香の代わりに、男が好きだった煙草の銘柄の『わかば』に火を付け、軽く吸うと線香代わりに立てた。



 ロストナンバーズ発足時、メンバーに白川と川内、そして龍造寺風雅りゅうぞうじ ふうがという男が能力者として居た。


 龍造寺の能力は、その仁王像のようないかつい体に似合わずテレパシーを使うことだ。もちろんロストナンバーズに居る理由は、人の思ったことを読むことしかできないことだ。さらには能力が不安定なところがあり、覚醒治療を受けても精神的なものの影響で思念を読み取れないことがあったりする。ちなみに能力のランクとしてはC3と診断されている。それに、本人自身、人の心が読めたとしてもその人を動かすほどの器用さはなく、自分はテレパシー能力があるくせに空気は読めないし、頭より体を動かすほうが自分に合っていると豪語していた。


 龍造寺は有名な龍造寺財閥の次男なのだが、ボンボンらしくない気さくな性格と、頼り甲斐のある熱血漢なところに、隊員たちは人として惚れ込んだ。

 龍造寺は常に


 「俺達はただのちっぽけな役立たずの能力者じゃない。それを証明するんだ!」


 と息巻いていた。

 また、龍造寺は自分の長ったらしく仰々しい名前が嫌いで、常に皆に


 「龍って読んでくれ。」


 と言っていた。隊員たちも、当時の部長も龍造寺を竜や竜さんと呼んだ。

 だがただ1人だけ、龍造寺のことをプライベートでは『風雅』と呼ぶ者がいた。それは川内だった。

 龍造寺は川内のことを何もかも分かった上で、お互い愛しあい、結婚しようと誓った。

 川内は肉体的にも戸籍的にも結婚するにはなんら問題なかった。

 しかし、龍造寺の両親、特に母親は龍造寺風雅が子供を授かれない川内と結婚することを頑なに反対した。


 龍造寺と川内が龍造寺家に婚約する旨を伝えたが反対された数ヶ月後、銀行強盗事件が起こり、機動隊が突入することになった。

 ロストナンバーの隊員はもちろんテレパシー能力に長けたSクラスの人間も参加していた。Sクラスの人間は突入前に銀行前に止まったパトカーの車内から、銀行にいる強盗の数・武器などを画像で把握し、それを機動隊全員の頭に送った。

 機動隊全員が強盗の容姿や武器、見張っている位置などを確認した。もちろんロストナンバーズにも画像は送られた。

 その情報を元に機動隊とロストナンバーズは突入し、無事強盗を制圧した。

 強盗を連行し、人質を開放しようとしたとき、ヘルメットを脱いだ龍造寺は誰かの思念を読み取った。


 「白川、屋上に行くぞ!」


 龍造寺は人質の中に強盗犯の仲間が1人居て、失敗した際には屋上に上がってあらかじめ準備していたロープを使って逃げるつもりだということを読み取った。


 そして龍造寺はヘルメットを被るのも忘れて白川より先に屋上に上り、犯人と対峙していた。

 白川が屋上に到着し、龍造寺の姿を確認した時、龍造寺は斜め下に構えた銃を相手に向けず、ただ呆然と立っていた。そしてその龍造寺の頭を犯人の弾丸が貫通した。

 白川は龍造寺よりまずは犯人の制圧を第一にし、銃を構え、ピストルを持つ犯人の肩を撃ちぬいた。

 犯人は衝撃で後ろに倒れこみ、ピストルを離した。白川はすかさず犯人に駆け寄り、犯人をうつ伏せにすると手錠をかけて無線で報告した。

 その時いつの間にか川内が屋上におり、龍造寺の肩をひたすら揺すりながら泣いていた。

 やがて川内はひどく恐ろしい形相で白川の襟に掴みかかって揺さぶった。


 「どうして風雅を助けなかったの!」


 川内は泣きながら白川の胸を叩いた。しかし、白川にとってもあの時はどうしようもなかった。犯人の姿が見えず、発砲した瞬間もわからなかった。

 白川は己の無力さと無二の友人を亡くしたことに呆然としていた。


 龍造寺の告別式の前に、部長に川内と白川が呼ばれた。

 白川も川内も竜造寺を死なせてしまったことに対する発言を待っていたが、内容は以外なものだった。

 龍造寺の死因は心臓発作だった。しかも銃弾が頭を貫通する前にである。

 白川が見た、犯人に対して龍造寺が発砲せず立ち尽くしていたのがようやく理解できた。

 それでも弾丸が貫通しなければ心臓マッサージで助けられる可能性もあった・・・。

 白川は悔やんでも悔みきれなかった。


 それから告別式に参列することになったが、川内だけは呼ばないで欲しいという龍造寺家により、部長と白川が参列した。告別式にはなぜか龍造寺の母親がいなかった。どうやら体調を崩して寝込んでいるとのことらしい。

 白川が部長の後に竜造寺の棺の前に立った。その亡骸は安らかに眠っているようだった。

 ふと、急に白川は自分の時が止まり、ずっと龍造寺の亡骸と対面し続けた。それは体感でおよそ一週間。後ろの弔問客には1分くらいにしか感じられなかっただろう。


―お前は、役立たずの俺を恨んでるのか?


 白川は物言わぬ龍造寺の亡骸と対面しながら、ずっと自分を責め続けた。白川は若くしてその黒い髪が真っ白になり、一週間飲まず食わずで衰弱した状態で棺の前で倒れた。

 白川は病院に運ばれ、1ヶ月入院ののち、SPDOで検査を受けた。

 検査結果は一時的な強い精神的ストレスのため、能力が暴走したと結論付けられ、今後はなるべく現場に出ないようにということだった。

 白川はSPDOで検査を受ける合間に休憩室の椅子に座ってため息をついた。休憩室の壁には白い杖をついた老人が座っていた。


―俺がSクラスなら、きっと龍造寺を助けられたのに・・・。なんでSクラスのやつらばかり・・・。


 「そこのあんた、Sクラスが本当にいいと思うかね?」


 壁際の老人にそう言われ、白川は目を見張る。そしてこの老人が龍造寺と同じテレパシー能力の持ち主なのだと気がついた。


 「Sクラスだから好待遇されてて、Sクラスが憎いかい・・・。なぁ坊主、Sクラスだから五体満足で万能というわけじゃないんじゃぞ。Sクラスでも五体満足の者もおるが、大抵は儂のようにどこかしら不自由なんじゃ・・・。儂は目が見えない上に耳も聞こえない。」


 そう語る老人を見て、白川は言い知れぬ恐ろしさを感じた。


 「ふふ、そうじゃろ?恐ろしいじゃろ?例えばSクラスのサイコキネシスは両指が生まれつきなかったり、今回の銀行強盗事件に参加したSクラスも儂同様目が不自由じゃ・・・。Sクラスのもののほとんどが、その自分に足りないものを補おうと地を這いずり回るほどの苦しみの中から努力して会得したものばかりじゃ。」


 老人はサングラスをした状態で白川の方を向く。その表情は寂しげだった。


 「お前さんはそれでもSクラスを羨ましいと思うかい?」


 そう老人に核心を突かれ、白川は黙り込んだ。


 「ほっほっほ、五体満足な何不自由ない体と、偶然に授かった能力・・・。儂は君らのほうが羨ましいよ。」

 

 老人は白川を残して休憩室から去って行った。白川はSクラスを間近で見て、その彼らの生きる執念と強さに畏敬の念を感じ、恐ろしさで体を震わせるしかなかった。


 その後、白川はSPDOから戻ってすぐ部長に呼び出された。定年間際だった部長は、白川に部長の座を譲ることにした。

 部長は、リーダーシップのある龍造寺か、人を使うのがうまく人脈をフルに活用できる白川かどちらに新しく部長になってもらおうと考えていたことを話した。

 白川はそうして新しく部長になることを選んだ。そしてあの日出会ったSランクの者達に負けぬよう、ロストナンバーズとgiftにとってもっと良い環境を作るため身を粉にし、例え汚いことでも目的のためならなんでもやろうと決意した。



 龍造寺が亡くなって5年、一時期黒く戻った白川の髪も、年のせいでまた白いものが増え始めていた。

 墓前で手を合わせていると、視界の端に紺色の帽子と制服を着た幼稚園児がいた。

 幼稚園児のほうを振り向くと、いかにも育ちのよさそうな顔をしていた。

 もしや龍造寺の隠し子だろうかと思った時、子供のほうから語りかけてきた。


 「ひさびさだな。しらかわ。」


 見知らぬ子供に自分の名を呼ばれ、白川は呆然としていた。


 「おれだよ、りゅうだよ。」


 そう言われても白川にはなぜ昔の友人の名をこの子供が名乗るのか分からなかった。


 「ようやく、10ぷんくらいは、おれのいしで、しゃべれるようになった。」


 舌足らずな話し声で子供は続ける。

 どうやら龍造寺が死んだのには母親が関係しているとのことだった。

 竜造寺家の家系は女系であり、実は龍造寺の母は自分の体内でクローンを作り、生むことができる能力があるらしい。

 自分のクローンが生まれたらオリジナルは死んでしまうのだが、生まれたクローンは確実にオリジナルの記憶を持って生まれてくる。それは龍造寺の母が自分ためだけに行なってきた秘密の儀式だった。そして綿々と記憶や経験は龍造寺の母のクローンに語り継がれ、現在に至っている。

 そして今回、なぜ龍造寺風雅が死んでしまったのかというと、龍造寺の母親が龍造寺風雅のクローンを体内で作って、早産で生んだらしい。

 どうやら自分の系列の会社を継がなかったり、訳の分からない組織に入ったり、挙句の果てには川内と結婚しようとしてみたり、とうとう母親は言うことを聞かない息子に堪忍袋の尾が切れて、もう一度最初から龍造寺風雅を育て直そうと試みたようだ。

 結果は成功し、オリジナルの龍造寺風雅はクローンの誕生で死んでしまった。

 母の思惑はうまくいっていたが、なにぶん龍造寺の母以外では初めてのため、龍造寺風雅に記憶が宿っていることに気づいていないのだろう。


 「だけど、だめだな。すこししかもたないし、もうきおくが、だいぶうすれちまってるよ。」


 子供は立ったまま、焼香かわりの煙草をみつめていた。


 「おれのすきな『わかば』いつもありがとう。」


 子供は白川に向かってあどけない笑顔で言った。そして、白川をその場に残して背を向けた。


 「かおるのこと、たのんだぞ。」


 そういって子供は駆け足で霊園を後にした。

 白川はただ何も言えず、子供の背中を見送った。その走り方には龍造寺の姿とどこか似ていた。


 「そういうことは川内本人に言えっつーの。」


 白川はそうひとりごちて、まだ中身の残っている『わかば』を置いてその場を後にした。

これで全て終わりです。


本当に本当に最後までお付き合いありがとうございました。


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