繋いだ手
「えー、今から貴方達には真白葵中の裏山を登ってもらいます。
しおりにも書いてありますが、裏山には宝箱が隠してあります。
それぞれ地図に書いてある目的地に行き、宝箱を採ってきてもらいます。
宝箱の中にはビンゴカードが人数分入っています。宝箱によってカードは
違いますから、それも運。ビンゴカードは今日の夜に使いますから、
班長が保管していてください。わかりましたか?」
『はーい』
「あっ。言い忘れてましたが、宝箱は一つの目的地に一つしかないのは
わかりますね?つまり、行こうと思っていた所が既に採られていた、
という事にならないとは言い切れません。遅いところはいつまでも
歩き通さなければ行けない、というわけです。」
「一見ただの宝探し。でも実はサバイバルゲーム、つーことネ。」
小太郎の声が静かになった体育館に響いた。
「そーゆーことです。出発の間隔は十分。順番は班長によるくじ引きで
決定したいと思います。班長は前へ。」
先生がそういうと、班長達が続々と前に集まった。
真央も前のほうに行こうと歩き出したが、先生に呼び止められた。
「冬月さん?貴方達の班は強制的に一番最後にさせて頂きますから。」
「…!何でですか?」
「理由は一つしかないでしょう?予定が三十分以上もずれ込んで
しまったのでね。」
真央はそれを聞くと、静かにもとの場所に座った。
「どうかしたの?真央ちゃん。ほら、班長は前に…って。」
「遅刻したから、一番最後なんだってさ。三十分もずれ込んだってもう、
カンカンよ。」
真央は仕方がないといった様子だったが小太郎は少し、切れていた。
「何だよそれ?おかしくねー?ちょっと遅れただけじゃんか。なぁ?」
小太郎は誉にそう尋ねたが返事は返って来なかった。すると小太郎は
急に立ち上がり、職員の集まっている所に向かって歩き出した。
「ちょっと、小太郎君ってばどこに行くつもり?!」
真央は小太郎を引きとめようと手を伸ばしたが、わずか届かなかった。
と、横から誉がすっと立ち上がり、小太郎の手をつかんだ。
「小太郎、やめろよ。そんな事したって無駄なだけだ。遅れた俺達が
悪かったんだからしょうがないだろ?」
「でもよー、誉ッ…!」
誉は小太郎を掴んでいた手に力を込めた。
「…!分ったよ。あー!ちくしょー!!誉には敵わないぜッ。」
小太郎は機嫌が悪そうにドカッとその場に座り込んだ。
「では、順番どおりに出発したいと思います。待っている間は
トイレに行ったりして、静かに待っていなさい。」
小太郎は退屈そうに欠伸をしながら小石を蹴った。
「あ〜あ、一番最後なんてついてねーなぁ。まっいっか。
真央ちゃんとならいつまでも…」
(ドカッ)
「ほんっとに、お調子者なんだからっ!そんな事言ってたら、
他の女の子達が泣くわよ。」
「俺は真央ちゃん一筋だよー。」
小太郎は懲りもせず、真央の肩に手を回そうとしている。
(バシッ)
「一回死にな。」
小太郎の手を叩いたのは真央ではなく誉だった。
「…い、嫌だぁー。誉ちゃんってばこわぁい。」
小太郎は予想外の結果に少しビックリしていた。誉は小太郎を
精一杯睨んでいる。
「…そんなに見つめちゃやっ(はーと)なんちゃって。」
(ゴンッ!)
「あ、もうそろそろ俺達も出発じゃないか?」
真央達は先生のいる出発地へと向かった。
「いってー…」
小太郎もタンコブを撫でながら、後を追った。
「2年4組3班、この班で最後ですね?はい、出発してください。」
真央は先生から地図を受け取り、簡単な荷物を背負うと出発した。
「えーと、どこの目的地を目指すのー?」
パッと地図を見ると一番近い所はあと500mほど歩いた所にあるようだった。
「やっぱ、一番近いとこじゃないの?」
「ばっかだなー。そんな近いとことっくに捕られてるに決まってんじゃん。」
誉が呆れ、馬鹿にしたような言い方をしても小太郎は笑って、
「そんなの行ってみなきゃ分かんねーじゃん。」と言って真央から地図を横取ると
一人でずんずん歩いていってしまった。
「あ、ちょっと待ってよー。その地図なきゃ私達道分かんないんだからぁッ!」
三人は急いで小太郎の後を追った。
しばらく四人が山道を歩いていると、すぐに目的地についた。地図によると、宝箱が置いてある場所は浅い崖に面した所にあるようだったが、いくら周辺を探しても宝箱は見つからなかった。ふと、佳絵があっ…と声を出した。
佳絵の声を聞きつけて、三人が佳絵のもとに駆け寄った。
「ほら、ほら、あそこにあるよっ。」
「……ある、というか。落ちてると、いうか。」
宝箱は崖の少し下に生えた二本の木の枝の間に見事に引っかかっていた。
幸い崖は急な坂と言ってもいい程で、崖と言うには浅いので取り損なっても
大した怪我はしなくて済みそうだが、下手して怪我をするよりも
もっと遠い目的地を目指した方が、利口だと言えるだろう。しかし合点、
小太郎は決して利口では無かった。
「あれぐらいだったら取れるじゃん。思わぬところでラッキーだったな、俺達!」
「…馬鹿じゃない?絶対危ないしね。少なくともラッキーではないしね。」
「いや、いや真央ちゃん。ボクの愛のパワーであんなのちょちょいのちょいさ。」
(誰がボクだよ。何が愛のパワーだよ。…この馬鹿どうにかしてくれ…)
小太郎は軽くそう言うと崖の近くの木に手を掛けた。
しかし宝箱を覗いた瞬間小太郎の体は固まった。
「…う、うわぁぁあー!」
「何?!どうしたの小太郎君!」
「か…か…」
「か?」
三人は生唾をゴクリを飲み込んだ。
「カエル…」
(…………。)
『はぁ?!』
誉と真央は小太郎の頭(後頭部)を思いっきり叩いてやった。佳絵はと言うと、
呆れかえっているようで、物も言えない様子だった。
「叩くこたぁねーだろぉッ。俺、カエルだけは苦手なんだよ〜…。」
(なんて情けない!これじゃぁ、佳絵も幻滅しちゃうわね…。)
「仕方無いわねぇ、いいわ。私が行って来るから小太郎君はそこで待ってて
ちょーだい。」
「おい、おい。何も真央が行く事ないだろ。俺が行くよ。」
真央が行こうとするのを、誉は止めたが真央は誉を振り切った。
「いいわよ、別に。誉ちゃんじゃ、身長が低いから届かないかも
しれないでしょ。」
真央は冗談っぽくケラケラ笑った。
「なんだよ、それ!真央だって大して俺と身長変わんないだろっ。
人が折角心配してやったのによ!」
誉はふてくされるようにそう言うと、腕を組んでそっぽを向いた。
「あらら…。」
真央は悪戯っぽく、くすっと笑った。
「だーいじょーぶ!ご心配どうもありがとうっ。」
そういった真央の笑顔は先程の悪戯っぽい笑顔ではなく満面の微笑みだった。
真央は木に手を掛けて、もう片方の手を宝箱に伸ばした。
しかし、あと少しという所までしか届かず、真央は木の先端の太い枝を
掴み直し、もう一度宝箱に手を伸ばした。
(バキッ!)
鈍い音と共に、真央の体は宙に浮かぼうとしていた。
「真央!!」
真央を助けようと、誉は手を伸ばした。
「誉ちゃん…っ!」
(ガシッ!)
互いの手は確かに繋ぐ事は出来たが、誉の体もまた、宙に浮いていた。
『わぁぁあー!』
(―…ドスンッ!)
「うっ…!」
二人はそのまま気を失ってしまった。