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幼い日の思い出  作者:
34/34

指輪+花束

「…何コレ。私宛て…?」

そこには『冬月 真央様』と書かれていた。

鼓動が高鳴る。

大きな胸騒ぎがした。

すぐにその手紙の封を切り、中に手を突っ込んだ。

中にあったのは、一枚の薄い紙だけだった。

その紙には、たった一言だけ

『屋上で待ってる』とだけ書いてあった。

何度も近くで見てきた、癖のある力強い字達。

もう一度こんなところで会えるなんて・・・。

真央は、机をガタガタと揺らしながら教室を飛び出した。

短い廊下を渡って階段を駆け登る。

あの頃のように、ただがむしゃらに熱い思いが込み上げた。

幾度となく開け放ってきた屋上の重い扉。

勢いよく扉を開け放つと、あの頃と同じような生温い風が真央の体を通り抜けた。


「…は…っぁ、はぁ……は…っ」

いつもは暑苦しく感じる生温い風も、今の真央にはなんだか心地よかった。

しかし、いくら回りを見渡しても人らしき影は見当たらなかった。

「な…んで…、ぇ…?」

懐かしいあの人を探す事に集中していたせいか、真央は普通一番に気づくであろう、目の前の花束に気がつくまで、大分時間がかかった。

「花束…、誰がこんなものを…」

誰も人が居ない事に諦めをつけて、仕方なく真央はその花束の取り調べにかかる。

ちらっと見ただけでも、その花束にカードがつけられていることがわかった。

ピンク色の可愛らしいカードを開くと、そこには今まで待ち望んでいた"愛しい人"の名前がつづられていた。


― この花を貴方へ贈ります  旭岡 誉 ―


「誉ちゃん…っ、どこに居るの…?」

真央は花束を抱きしめて、その場で泣きじゃくった。

もう二十歳になった大人が、子供のように…。

泣きじゃくる真央の声を掻き消すように、屋上の扉が大きな音を出して開いた。

「六年間は長かったよ。君を見つけるまでに随分と時間がかかった。」

真央の背後から、聞き慣れた声とだんだん近づいてくる足音が聞こえた。

「勉強の合間をぬって調べるのは、そう簡単じゃなかった。しかも、最初の一年は怪我の治療にほとんどの時間を費やす事になったしね。」

足音は、真央のすぐ後ろでピタリと止まった。

真央が肩を震わせながらゆっくりと振り向くと、そこには六年前と変わらない大好きな笑顔があった。

「真央、おかえり」

大分背が伸びた彼は、笑顔でそう言った。

「…ただいま、誉ちゃん…っ」

真央も、六年前と全く変わらない懐っこい笑顔で返した。



「どうして私がここに来るってわかったの?」

真央は上目遣いに誉を見た。

ふと、昔は隣に座っている誉を見て首が疲れる事なんか無かったのになぁ、と真央は思った。

「格好良い事言いたいとこだけど、実は東京に戻って来る事は真央の母親から聞いて知ってたんだ。」

そう言って、誉はバツが悪そうに舌を出した。

「だ、…っから!何、で私のお母さんと連絡とってんのよっ!私そんなの、知らなかったっ」

バツが悪そうな誉を前に、どうにも怒りづらい真央は少し片言で遠慮がちに怒鳴った。

「俺だってそこに行き着くまでに四年以上かかったんだぜ?真央は手掛かりになる情報は残してないと思って、母親の知り合いを探す事にしたんだ。」

「…それで、まんまと母親の連絡先をゲットしたと。」

「だから東京に一人暮らししたいって言った時、やけにあっさりオーケー出して貰えただろ?アレ、俺のお陰だぜ。」

誉はさっきのバツの悪そうな顔とは打って変わって、自慢気にそう言った。

「あ、そう。それは、どうもありがとう。」

無表情のままそう言いながら、真央は誉にデコピンをしてやった。

「いたっ。…でも、ごめん」

誉は後ろから、優しく強く真央を抱きしめた。

「…早く会いたかったんだ。あと、コレ…」

誉は抱きしめたまま、真央の手に何かを渡した。

「コレ…、誠ちゃんの指輪とネックレスチェーン…。無くしたと思ってたのに、誉ちゃんが持ってたの?」

「その…、たまたま拾ったんだ。それと、コレは俺から…」

誉は先程と同じく体勢を変えないまま、真央の左手薬指に指輪をはめた。

「指輪…?」

「誠史からの指輪は、そのままでもいいんだ。ただ、コノ指に俺の指輪をはめていて欲しいんだ。」

誉の鼓動は、背中を通して真央に伝わってきていた。

真央は頬を赤らめながら、正面に向き直った。

「だ、だって…っ、私そんな、まだ考えらんないしっ。誠ちゃんからも指輪貰ってるのにっ!あぁ…、その―ん…っ」

誉は言葉を塞ぐように、強引に真央の唇に自分の唇を重ねた。

「―ん…っ、誉ちゃ・…」

「俺は真央が好きだよ、真央を俺だけの物にしたい。…真央は違うの?」

誉は、真央の手を弱々しく握った。

真央は、その手を強く握り返した。

「ううん…っ、大好きっ!大好きだよぉ…っ。私を誉ちゃんの物にしてっ」

それを聞いて、沈みかけた誉の表情はたちまち明るくなった。

「…も、っかいキスしてい?」

真央は恥ずかしそうにそう言う誉を、クスッと笑ってから「うん」と言った。





「ねぇ、そういえば。この花束はなぁに?」

「あぁそれ、何の花か知ってる?」

桔梗(ききょう)でしょう?」

「花言葉は?」

「…ううん、知らない。」

「『変わらぬ愛情』」





     〜 End 〜

やっと、終わりましたぁ。今まで長かったですぅ(/_;)

本当は佳絵と小太郎の話も書きたかったのですが、もう力尽きました(-_-)

エンディングにご不満がある方は「何だコレ意味わかんねーぞ!ゴルァァア!!」とか

ぶっこいちゃってくださって結構ですっ(笑

最後に、長い間読んでくださった方ありがとうございましたm(__)m

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