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幼い日の思い出  作者:
30/34

兄貴

第二十九章:兄貴


「悪く思うなよ、お嬢ちゃん。」

そう言いながら小太りの強盗は真央の足と腕を縛り上げた。

「そんなこと言われても、悪くしか思えませんけどね。」

真央はしきりに眉をひそめている。

そんな真央を見て、奥でダンボール箱を運んでいた痩せた男も口を開いた。

「俺達もこんな人質をとる真似はしたくないッスけど、仕方無いッスよ。兄貴の命令ッスから。」

痩せた男は、そう言って浅く溜息きをついた。

「兄貴って私を捕まえた奴?」

「そうッス。」

話だけを聞くと、何だか『人質』と『強盗』の間柄には見えない上に、緊張感も全く見当たらない。

あまりに拍子抜けするような強盗達だった。

「ねぇ、ずっと気になってたんだけど、そのダンボール箱なに?」

「そのダンボールはだなぁ、兄貴が用意したカモフラージュなんだ。」

小太りの男は自慢気にそう言った。

「どういう意味?」

「ダンボールの底が上げ底になってるッスから、そこに盗んだ金を入れてるッス。」

「へぇ〜、すごいのね。」

真央はすっかりくつろいでいる。口調も大分砕けて、表情も緩くなっている。

「お嬢ちゃん、随分リラックスしてんなぁ。立場分かってる?人質だよ?」

「出来れば忘れたいけど。…ところで『兄貴』はどこに行ったのよ。」

「兄貴は俺達の逃げるルートを探してくれてるッス。あと、変装道具や食べ物も用意してくれてるんじゃないッスかねぇ。」

痩せた男はいくつかあったダンボールを全て運び終わったようで、タオルで汗を拭っている。

「お嬢ちゃん喉は乾かないか?水ならあるが飲むか?」

「え、えぇ。くれるんだったら飲むけど…。随分と人質に優しいのね。」

真央は改めて、面を喰らった。

「別に俺達は安全に逃げるために人質を利用するだけッスから。人質を傷つける必要はないって、兄貴も言ってたッス。」

「ヤス、テツ。傷つける必要はないが、馴れ合う必要もねーぞ。」

突然の声に驚いて振り向くと、そこには真央を捕まえた男(兄貴)が居た。

「あ、兄貴!!お帰りなさいッス!」

ヤスと呼ばれた痩せた男は、兄貴に向って頭をグッと下げた。

「兄貴、逃げられそうな道はありましたか?」

「んーまぁな、警備の甘い道はあったな。ヤス、金は全部運び終わってるな?」

「はいっ!終わってるッス。」

「そうか…。」

ふと兄貴は真央に目を止めると、つかつかと歩みよった。

「おい、嬢ちゃん。お前歳いくつだ。」

「…14。あんたは?」

兄貴は真央の目線の高さまでしゃがみこんだ。

「俺か?…いくつだったかなぁ、もう忘れちまった。」

そう言いながら兄貴はフッと笑った。

「私はどうなるの?私…、どうしてもしなきゃいけない事があるのに…っ!」

真央はそう言いながら兄貴をキッと睨んだ。

「まぁ、落ち着け。強盗の上に殺人なんて罪は犯しゃしねーよ。」

「生きて帰れるって事?」

喜びながら尋ねる真央。

兄貴は質問に答えずに、黙りこんだ。

そして何の前触れもなく、キョトンとしている真央の首に手をかけた。

「何を…っ!」

「『殺されはしない』と高をくくって好き勝手されると困るんでな。」

兄貴は親指を真央の喉にグッと押し当てた。

「…ゃ…っ、ぁ…」

「お灸のをすえる意味で、だ」

そう言った次の瞬間にはもう、真央の喉に当てられていた親指から一斉の力が抜けていた。

「…ケホッ…、コホ…っ!」

「一度お灸をすえておくとな、それが恐怖になって逆らったりする気が起きなくなるんだ」

「……っ」

真央の息は荒々しい。

しかし何も言わずに、ただ兄貴をキッと睨みつけた。

「…気の強い女は嫌いじゃないぜ。だが、今はもう少し大人しくしてもらおうか。テツ!」

「…へ、ヘイ!!」

咳き込んでいる真央の後ろから、テツは躊躇いがちに真央の口に布を当てた。

「っ……――」

辛うじて残っていた力が体から全て抜け、真央は大きな音を立ててコンクリートの床に倒れた。

「お嬢ちゃん!!大丈夫ッスか?!」

倒れる真央をヤスがしっかり受け止めてくれたため、幸い頭は打たずにすんだ。

「さすが悪役の強い味方『瞬時に睡眠、うるさい奴もイチコロ』クロロフォルム♪…一発だな、フッ。」


「おい、誉。本当にこんな所に真央ちゃんが居んのかぁ…?」

「絶対聞こえた、居るよ。長く使われていなかったはずのこの廃墟には埃が積ってるはずなんだ。でも、入り口の周りの埃が擦ったように綺麗なってた。多分ダンボールか何かをここに引き摺って運び込んだんだろうな。」

「…いつのまに、そんなとこ見てんだな。まぁ、この建物に誰かが入ったのは確実にしてもさ、真央ちゃんとは限らない…―ムグッ」

声を遮るように誉は小太郎の口に手を当てた。

「シッ…、黙って。話し声が聞こえる…」

二人の周りには妙な緊張感が漂いはじめる。

息を殺して、耳をそばだてる。

(―…ヤス、金は全部……終わっ……な?)

(―…はいっ………ってるッス…)

「上だ、二階から聞こえてる。行くぞ、小太郎。」

「お、おう…っ!」

二人の声も自然と、小さく囁くような声になった。

足下に十分注意して階段の中段ほどまで行くと、なんだか分からない声も大分ハッキリ聞こえるようになった。

今度は耳をそばだてる必要もなく、自然と声は耳に入って来た。

そして、その声達の中に聞き覚えのある声を見つけてハッとした。

「私はどうなるの?私…、どうしてもしなきゃいけない事があるのに…っ!」

その声は表情を見なくてもわかる程に、震え怯えきっていた。

(冬月さんだ…!!)

(マジかよ、本当に居た…。)

立て続けに、低くハスキーな声が聞こえてきた。

「まぁ、落ち着け。強盗の上に殺人なんて罪は犯しゃしねーよ。」

この言葉を聞いて、二人は顔を見合わせて頷いた。

《 今朝話してた銀行強盗だ!!!! 》

「何を…っ!」

(な、何だ?!真央ちゃんに何か…っ)

(分からない…っ、この位置だと様子までは見れない…!)

「『殺されはしない』と高をくくって好き勝手されると困るんでな。」

「…ゃ…っ、ぁ…」

(おいっ!誉!!真央ちゃん…っ)

小太郎は真央の搾り出すような呻き声を聞き、居てもたっても居られなくなり、その場に飛び出そうとした。

だが、小太郎の体は誉の腕によってガッチリと掴まれた。

(何する…っ、離せ!)

(今お前が行ったって何の役にも立たないっ、今は…ひたすら我慢するしか…っ)

(クソッ…!)

小太郎は苛立たし気に誉の腕を振り払った。

「お灸のをすえる意味で、だ」

「…ケホッ…、コホ…っ!」

(…多分首を絞められたんだ…っ。もちろん本気じゃない)

(脅しか…っ)

真央の荒々しい息遣いと、激しく咳き込む声がコンクリートに響いている。

(…いいか、小太郎。俺は見張りとしてここに残る、お前は外に出て警察を呼べ)

(でも、それじゃお前が危険じゃないか!)

(今は俺の事よりも冬月さんの事を考えろ。わかった、な?)

小太郎は渋々頷くと、足音を立てないように注意しながら階段を下りて廃墟を出て行った。

誉はまた、響き渡る声に集中した。

「…気の強い女は嫌いじゃないぜ。だが、今はもう少し大人しくしてもらおうか。テツ!」

「…へ、ヘイ!!」

(な、何をする気だ…?)

布が擦れるような音がした。

そう思うと同時に、声にならない悲鳴と人の倒れる音がした。

「さすが悪役の強い味方『瞬時に睡眠、うるさい奴もイチコロ』クロロフォルム♪…一発だな、フッ。」

長い髪がコンクリートをシャァッと撫でる音。

そして微かに、軽い金属がコンクリートを跳ねる音。

(畜生…っ!冬月さん…、どうか無事でいて……)

コツコツと階段を上がる音がした。

(屋上か…?)

階段を上る音が大分小さくなった頃、誉は勇気を振り絞って二階の部屋を覗いてみた。

そこには、もう誰も居なかった。

広々としたその部屋の隅に、誉はキラリと光る物を見た。

近づいて拾って見ると、それは指輪が通ったネックレスだった。

「冬月さんのか…?」

誉はネックレスを固く握りしめた。

「絶対に…守る!!」



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