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幼い日の思い出  作者:
28/34

君は俺の宝物

小太郎を目の前に泣き崩れる真央。

その姿を見る小太郎の表情は、真央よりも悲しみに歪がんでいる。

いつもの明るい真央からは想像も出来ない程弱々しい彼女を、小太郎が放っておく筈がなかった。

小太郎に背を向け、泣きつづけている真央。

そんな真央を見るに耐えられなくなった小太郎は、少し遠慮がちに優しく後ろから抱きしめた。

「・・・―小太郎…く…ん?」

驚いたように、うさぎっぽい声で自分の名を呼ぶ彼女。

そして、自分の腕の中に居る小さな彼女の耳に小さく囁く。


「…俺にしとけよ。」

生暖かい風が二人の髪をなびく。


「な、何言って…」

「ずっと思ってた。俺だったら真央ちゃんを泣かせたりしない。俺だったら悲しい思いなんかさせない。…忘れたり、しない。」

「……。」

暫くの沈黙。

真央は小太郎の腕から離れようとしたが、その途端優しい手には少し力が込められて、真央は動けなくなった。

振り向こうとも試みたが、小太郎の腕はソレさえも不可能にさせた。

「…このまま聞いて。」

その理由を聞く前に、真央はわかった。

真央の上から滴が零れ落ちてきていた。

(小太郎くん…、泣いて…?)

「好きだよ。いつもはふざけて言ったりするけど、本気なんだ。他の女の子なんて要らない。真央ちゃんさえ居てくれればいい。こんな小さな女の子守るくらいの腕は持ってるよ。」

「で、でも…っ」

「俺じゃダメか…?俺じゃアイツ等の代わりになれないか…?」

「そんな…っ。代わりなんて…。」

真央の心臓は高鳴っていた。

小太郎の暖かな腕のドキドキしていたのか、この状況にドキドキしていたのかは分からなかったけど、小太郎にこの鼓動が伝わっている事は確かだった。

「…ごめんなさい、私っ、私…っ。やっぱり誉ちゃんじゃないとダメなの。向こうが私の事忘れててもいい。小太郎くんが言ったように、私も誉ちゃんだけがいい。誉ちゃん以外要らないよ…っ!」

しかし、次に小太郎の口から出てきた言葉は、真央の予想から少し外れていた。

「ごめん」

「えっ…?」

小太郎の腕から、真央を縛り付けていた力が一気に抜けた。

真央は素早く小太郎を振り返った。

小太郎の目からは涙なんか出て無くって、笑顔だけがそこにあった。

「ごめん、冗談だよ。真央ちゃんに分からせたかったんだ。誉には君以上に大切な人はいない。君にも誉以上に大切な人はいない…って。」

「……!!」

「ちょっと意地悪だったかな。こうでもしないと自分の気持ちに気づかないと思って。」

「もうっ、小太郎くんってばっ」

真央はホッとしたのか、いつもの表情に戻っていた。

涙も、いつの間にか止まっていた。

「…さっきの言葉、誉に聞かせてあげてよ。誉待ってるよ。」

「でもっ、誉ちゃん記憶が無くなってから私の事なんか好きじゃ…」

「誉、言ってたよ。俺が『真央ちゃんの事好きか?』って聞いたら…―」



「今のお前に1つ聞く。…真央ちゃんの事好きか?」

「え?」

 いつもの小太郎からは想像もできない朗らかな顔で、小太郎は言葉を繰り返す。

「もう一度聞く。真央ちゃんの事、好きか?」

「…昔の俺が冬月さんの事好きだったとかそうじゃなかったとか、そんな事関係ない。」

「それって…―」

 何かを言いかけた小太郎の言葉を、誉は遮った。

「彼女は…今の俺にとって大切な人だ。傷つけたくないし、傷ついて欲しくないと思う。でも俺は、彼女を忘れてしまう事で彼女を傷つけてしまった。そんな俺が、彼女を必要とするのは随分おこがましいって事も分かってる。」

「………。」

「…そうだと分かっていても、彼女を必要とせずには居られない。彼女は俺にとってそんな人だ。…質問の答えにはなったか?」

「…あぁ、それで十分だ。それでこそ、俺の親友だ。」…―



「…―って言ってた。」

「誉ちゃん…。本当にそう言って…?―嬉しい…っ。」


真央はとびきりの笑顔でそう言った。

そのとびきりの笑顔を見ながら、小太郎は心の声で真央に語りかけた。

聞こえるはずのないその声で…。

(…さっき冗談だっていったけど、本当は違うよ。本気で好きだよ。それこそ大切すぎて、『軽く』しか近づけない程に…。だって、君は俺の宝物なんだから。)


 ― 君は俺の宝物なんだから ―



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