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幼い日の思い出  作者:
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『ほまれ』の名を持つ者

真央がいつもより少し早めに部活に出ると、体育館の中にはバスケットボールを片手に持った利緒が居た。

「真央さん。」

利緒は真央に気付くと少し緊張した声で、真央の名を呼んだ。

「今日は部活に来るの早いんですね。」

「うん、何か運動したくて。」

そう言いながらバスケットボールを一つとりだすと、そのままリングにボールを入れる。

1つに束ねた黒く艶やかな長い髪が揺れる。

「兄に聞きました。旭岡先輩が真央さんの事を…その―」

「忘れてるって。」

言いにくそうにしている利緒を気づかってか、真央は何の躊躇いもなくそれに続く言葉を発した。

「…ハイ。しかも真央さんの事だけを忘れている、と。」

「そうね、確かに。」

「学校が休みだった間ずっと先輩の世話をしていたのに、あの人は結局思い出しはしなかった、と。」

「だから…なに?」

真央は、今度は先程の綺麗なシュートとは違う、半ば押し込むようなシュートを放つ。

バスケットボールはリングに強く跳ね返った。

「…それじゃ貴方があんまりじゃないですか。」

「利緒くんに私の気持ちがわかるって言うの?」

「いいえ、今はまだわかりません。貴方はつかみ所のない人ですし。でも分かりたいと思ってます。」

「…頑張って。」

跳ね返ってきたボールを上手に掴むと、今度は優しくリングに吸い込ませるように真央はシュートを放つ。

ボールはリングを少しもかすめずに、スパッと中を通り床に落ちた。

「辛くはありませんか?自分の事を思い出してくれない人を目の前にして。」

「…『辛くない』なんて言ったら、ウソになるわね。」

「僕だったら真央さんにそんな辛い思いはさせないのに…。それでも貴方は僕を選ぼうとしないんでしょうね…?」

真央はバスケットシューズの紐を緩め、靴を脱いだ。

「うん、ごめんね。私を知らない誉ちゃんと一緒に居る辛さよりも、誉ちゃんの側に居る事が出来ない辛さの方が私にとっては大きいって、分かっちゃったから。」

脱いだ靴を元の袋の中に入れ、バスケットボールを籠のなかに戻した。

「ねぇ、利緒くん。私今日は調子悪いからもう帰るわ。悪いけど女バスの子が来たらそう伝えてくれない?まだみんなも来そうにないし、ね。」

「わかりました。…でも、覚えておいてくださいね。僕はまだ真央さんの事諦めたわけじゃないですから。」

「たまげた根性ね。」

真央は意地悪そうに笑う。

それに対して利緒は、王子様スマイルでにっこりと笑いかけた。

「僕、昔から諦め悪いんですよ。」


体育館を出たあと、真央が忘れ物に気づき教室に戻るとそこには既に先客がいた。

「…誰かと思ったら真央ちゃんじゃない。部活は終わったの?」

「ううん、ちょっと。今日は部活さぼる事にしたの。佳絵は?」

佳絵は机の中からノートと教科書を出している。

「今日は部活無かったんだけどね。今日の宿題に使うノートとか忘れちゃったから取りにきたの。」

「実は私もなの。」

そう言いながら真央はフフッと笑った。

静かな教室の中で、真央の笑い声が響く。

突然、佳絵は思い出したかのように「あっ」と小さく声をあげた。

それを見て真央は不思議そうに首を傾げている。

「あのね、私ずっと気になってる事があるの。…―聞いてもいい?」

「どうぞ。」

佳絵は声を少し緊張させている。

「…前に利緒くんが告白した時は、真央ちゃんは『恋愛はもうしない』みたく言ってた。でも、真央ちゃんの家に行った時は旭岡くんが好きだって言ってた。その事にずっと違和感を持ってたの。」

佳絵が遠慮がちに真央を上目遣いに見た。

真央は柔らかく、でも真剣な目になった。

「…中々の洞察力だね。いいよ、少し私の昔話しをしようか。」―…


佳絵はゆっくりと家に帰りながら、先程教室で話してくれた真央の昔話しを思い返していた。



…―私は小学生の時はここの街とは違うところに住んでたの。

  そこには私と同い年の幼馴染みっていうのかな?男の子が居てね。

  私はいつも『せいちゃん』って呼んでたんだけど。その子の名前…

『玲 誠史』(ほまれ せいじ)って言うのよ。



― 誉ちゃんと、同じ名を持っていたのよ ―


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