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幼い日の思い出  作者:
23/34

「まお。」

 

  ― 彼はもう…私を『まお』とは呼ばない ―


小鳥の可愛らしいさえずりが響く朝

「おはよう」

「…おはよぅ、ございます…」

誉が目を開けると、そこにはすでに真央が居た。

「冬月さん。まだ、朝早いのに…。学校は?」

「昨日『明日は朝から来るね』って言ったでしょ?」

「そりゃ…そうだけど。」

真央はせわしなく誉のベットまわりをパタパタと歩いていた。

よく見るとベットの横のテーブルの花瓶には花が挿してあったり、昨日は袋にグシャグシャに詰め込まれていた服達は、綺麗に畳まれていた。

「学校はね、今日はサボリ。でも明日と明後日は土曜と日曜でお休みでしょ。」

「月曜日からはどうすんの?」

「そうね、私もどうしようかなって思ってたんだけど、実は月曜日から金曜日は大祭りがあるから休みなのよねぇ。」

真央はそう言いながら服が収めてある袋から着替えをだした。

「もう夏だし汗かいたんじゃない?着替え、いるでしょ。」

「…あ、あぁ」

誉は躊躇いがちに真央の差し出す着替えに手を伸ばしたが、真央は手を放さなかった。

「ちょ…何やって…っ」

「着替え、手伝おうか?」

「手伝わんでいいっ―――!!」

顔を真っ赤に染めながら無理矢理真央から服を奪い取る誉を、真央はクスッと笑った。

「な、何がおかしいんだよ…っ」

「ううん…『おかしい』んじゃなくて、『嬉しい』の…っ」

(???)

そう言ってクスクスと笑う真央を誉は不思議そうに見ていたが、その目付きはなんだか優しかった。

「さっ、誉ちゃん早く着替えてね。パジャマも洗濯しておくから。」

「う、うん」

真央はカーテンを閉めたが、暫くして誉は隙間から顔をヒョイと出した。

「どうかした?」

「……覗くなよ」

「なっ、覗くわけないでしょっ、もうっ!さっさと着替えてよっ」

「ハハッ、冗談だよっ」

そう言いながら誉は笑っていたが、どこかいつもと笑い方が違ったように真央は感じた。


 ― 笑い方も、話し方も、私を呼ぶ名も…すべてが以前の彼とは違う ―


(でも…そう。悲しいんじゃなくて嬉しい。本当に嬉しかったんだよ。…記憶がないなんて感じさせないぐらいに普通に話せた事が…)



「何でそんな顔するの?」

いつのまに着替えを終えた誉が、カーテンを少し開けて真央の顔を見てそう言った。

「えっ…。」

「君は俺の何だった?どうして君は平気でいられる?…わからない・・・」

誉の真剣な眼差しが真央の中の記憶を呼び起こした。



 「…俺のせいだ。真央は俺の下敷きになっちゃたから…。だから…―!」

      「ごめん。助けられなくて…」

       「傷、手当てするよ」

    「…あぁ、そうだな。真央、ありがとう。」



 「どうして私と踊る気になったのかなぁって。」

    「…きっと真央だからだよ。」



 「真央は、きっと一人で解決する。協力なんて必要としてないと思う。だから俺は何もしない。だ  けど…、元気のない真央だけは見たくないから、はやく明るく元気ないつもの真央に戻れよ。   じゃあな。」



  「…君、誰?」

    「えっ?!何で泣いてんだよ…っ。おい…っ。」



  ― 『まお』 ―




「ね、約束してくれる?」

「何を?」

真央は今まで見たことのない最上級の笑顔で言った。

「この日の事、絶対に忘れないって。」



 ― この日の事、絶対に忘れないって ―




いつの間にか、真央の瞳からは大粒の涙が無防備に零れていた。

「…忘れないって約束したじゃない…〜っ。どうして?!どうして…私だけ忘れてるの…。あの日何て言おうとしてたの?……やっと自分の気持ちに素直になれると思ったのに…っ。今までの思い出は何だったの…?!」

「……―。」

誉は、泣き崩れる少女を目の前にして、何をすればいいのか。何て言ったらいいのか何てわからなかった。

「…ぁ。泣かないで…」

誉は涙を覆うように真央をギュッと抱きしめた。

「……っ!?」

「泣かないで…。わからない、わからないけど。貴方が泣いてると心が痛むんだ。悲しくなる。」

「誉ちゃん…」

「だから泣かないで…。泣かせてるのは俺だけど、でも。こんな気持ちは耐えられない」

「ごめんなさい…。今の貴方を責めるべきじゃなかったわ…。でも、今はもっとこうしていたい。ダメかしら…?」

「貴方が望むなら…」

二人は静かにかたく抱き合っていた。

恋愛感情なんてそんな事を考えてるわけじゃなかった。


(何故こんなにも貴方を愛おしく思うのだろう?何故こんなにも懐かしく感じるのだろう?何故こんなにも心が温かくなるのだろう…)


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