アルバムの一ページ
「うわー!中学生の頃のアルバムだぁー。」
部屋の物置棚の裏から、埃を被った大きなアルバムが出てきた。
「うへっ、埃くさーっ。けほっ!けほっ!!」
真央は、ついこの間成人式を終えたばかりの二十歳だった。
そして東京に一人暮らしをするために、部屋の片付けと荷造りをしていた。
真央は部屋が散らかってるのも気にせず、その場でアルバムを開いた。
「みんな若いなぁー。須藤君この頃から全然変わんないー!…あれっ?」
真央はアルバムにある写真の一つを取り出してじっくりと見てみる。写真の端に
見覚えの無い、髪が少し茶色がかった男の子がニッコリとこちらを見て
微笑んでいる。真央はじっくりとその写真をみて、思い出そうと必死に考えた。
茶色い髪の男の子…。
「あっ…!」
やっとのことで思い出した真央、その瞬間無意識に瞳から大粒の涙が
零れ落ちた。
「麻岡くーん!」
可愛らしい女の子がランドセルを手に持ち、前方にいる男の子を呼び止めた。
「えっ?…えっと、確か同じクラスの…。」
女の子は息を切らし胸に手を当て、はぁはぁいいながら、ニコリと笑った。
「冬月っ…!冬月 真央って言うのっ。」
その瞬間男の子は目の前の女の子に不思議な気持ちを抱いた。
なんて明るい笑顔なんだろう。まるで…まるで、太陽のようだ…−。
「ねぇ、一緒に帰ろうよ!家、近くでしょ?」
真央がニコニコしながら尋ねると、男の子は頬を少し赤らめ、うつむいた。
「…別に構わないよ。」
「ホント?!嬉しいっっ!」
真央はパァッっと明るくなり、男の子の横にピッタリ引っ付いた。
男の子が照れているのも知らずに、真央は話始めた。
「麻岡君ってさ、名前なんて言うの??」
「…誉だよ。」
「えー!なんか可愛いー。誉ちゃんって呼んでいい?」
誉は小さくえっ!と呟いたがしばらくしてから、コクンと頷いた。
「ヤタッ!ふふふっ、誉ちゃんって可愛いねっ。そだっ!私の事も真央って
呼んでネ!」
真央は鞄を後ろに持ち、スキップをしながら誉の正面にまわった。
「誉ちゃんって、教室でもいつも大人しいよねー。顔良いンだから、
もっと喋ればいいのにぃー。絶対もてると思うんだけどなぁ。」
真央は表情をクルクル変えながら話し、誉の顔を覗き込んだ。
誉はビックリして、一歩下がったが、そこから動けなくなってしまった。
「誉ちゃんって…まつげ長いねぇー…!女の子みたいー。可愛いなぁ〜。」
「なっ…!女の子…かよ…。」
「あっ、ゴメン傷ついた??」
誉は真央に対して、いや、女の子に対して、初めて笑った。
「別に気にしないよ。」
ニッコリと笑った誉はまさに美少年そのものだった。
「うわー!誉ちゃんが笑った〜!可愛い〜!!」
真央はビックリしたように口に手も当てながら、懐っこく笑った。
誉は頬を赤く染めて、縮こまった。
「…あっ、俺もうココ家だから。…じゃっ」
逃げるように、誉はそそくさと家の玄関に足を踏み入れた。
「うんっ!また明日ねっ!バイバイっっ。」
真央は手を振りながら駆けて行った。
「男って可愛いって言われても、あんまり嬉しくないんだぜ…。」
誉は、真央が通りすぎたあと、ボソッと呟いた。
それが二人の始めての出会いだった。
あれから月日は流れ、彼らは中学二年生になった。
「おはよーっ!」
真央は元気よく、教室の中に入った。すると漆黒の長い髪がサラリと揺れた。
真央はあれ以来髪を伸ばし始め、肩にもつかない短めだった髪は、
今ではゆうに肩を越し、胸のあたりまで、サラサラの髪が続いていた。
「おはよう、真央ちゃん。」
「ん、おはよう。佳絵。」
真央は三つ編みで眼鏡の女の子にあいさつを返した。
佳絵は長い三つ編みを振らせながら、真央の机まで駆けて来た。
「真央ちゃん、今日部活ある?」
「んーとねー、ある…と思う。」
「そっかぁ、私今日部活ないから、一緒に帰ろうかなぁって思ったんだけど。」
佳絵はしゅんとなっていたが、真央はニコニコ笑顔でいた。
「ごめんねっ!明日だったら、部活ないと思うから明日一緒に帰ろっか?」
真央が笑っているのをみると、佳絵も笑顔になり、勢いよく「うんっ!」
とうなずいた。
(ガラッ!)
教室のドアが開き、少年が二人入ってきた。