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幼い日の思い出  作者:
17/34

一本の電話

そんなこんなで宿泊訓練も終わり、各自家に帰った。

いつもなら佳絵と一緒に帰る真央も、一人で帰っていた。

佳絵と真央はあれ以来一言も言葉を交わす事はなく、佳絵も他の女子達とつるんでいた。周りが心配して理由をきいても、真央は「なんでもないよ」を繰り替えすばかりであった。

宿泊訓練の次の日は生憎のお休みで、学校はその次の日からだった。

真央は、ある決心をした。そして、ちゃんと佳絵を話がしたいと思い、放課後にキャンプファイヤーをやった場所に来て欲しい、来るまで待ってる。という内容の手紙を、佳絵の机に忍ばせておいた。

「真央、帰んないの?」

「あ、誉ちゃん。…うん、放課後にキャンプファイヤーやったとこに来て欲しいって手紙書いたから、今からそこに行く。」

「佳絵ちゃん来てくれるの?」

「ううん、わからないけど来てくれればいいな…って。佳絵が来るまで待つつもり。」

「…あんまり無茶するなよっ。」

「わかってるって。」

そういいながら真央はウインクをした。

「おーい!誉っ、帰るぞー!」

小太郎が大きな声で誉を呼ぶ。

「わかった、わかった。今行くよっ!」

「真央ちゃん、バイバイっ!(はーと)」

「バイバイ。」

小太郎はというと、あんな事があったにも関らず、何事もなかったかのように接してきたから、真央もあの時の事は冗談なんだと思って、いつもどうり接することにした。誉と小太郎も仲が悪くなることはなく、反対に以前よりも仲良くなったように見えた。

(ふぅー…。男の子っていいな)

真央は佳絵との待ち合わせ場所に足を運ばせた。


真央が佳絵との待ち合わせ場所についてから、どれだけの時間がたったのだろうか。あたりはすでに真っ暗で、夏ももう終わりのこの時期の夜は、少し肌寒かった。でも真央はその場を離れようとは微塵も思わなかった。佳絵を待ち続ける事しか今の真央には出来る事がなかった。

そんな真央に神様は手を差し伸べてはくれなかった。

暗く曇りかけた空からポツリポツリと雨が降ってきて、真央の体を濡らした。それでも真央は、その場を一歩も動こうとはしなかった。雨は、真央を動かそうとしているかのように降り続いた。

(…誰が真央ちゃんの呼び出しに行くもんですかっ。私の苦しみを少しでも味わえばいいのよ…。)

佳絵は、真央の呼び出しのメモの紙を破り捨てると、自分の部屋をでてリビングに向かった。そこでは佳絵の母親が懸命に洗濯物を取り込んでいた。

「あ〜あ…!とうとう降ってきちゃったわね、雨。折角乾いたのに…。ほら、佳絵もボケッと見てないで手伝いなさいよ。」

佳絵の脳裏に真央の言葉が浮かぶ。


― 来るまで待ってるから ―


(…そんなのウソに決まってる。もう真央ちゃんだってとっくに家に帰ってるわ。)

佳絵は自分にそう言いきかせているかのように、何度も何度もその言葉を頭の中に響かせた。

(トゥルルルルルッ!トゥルルルルルッ!)

急に、電話のベルがなった。

「はいはーい!お母さんが出るから佳絵は洗濯物取り込んでてちょうだい。」

(…もしかして、真央ちゃんかもっ!)

「いい!私が出る!!」

佳絵は母親に受話器を取られるよりも早く、電話に出た。

「…もしもし、中内です。」

「旭岡ですけど佳絵さんいますか?」

(…真央ちゃんじゃなかった…。)

「旭岡君?…私が佳絵だけど。どうかしたの?」

「真央に呼び出されてたんじゃなかったのか?…まだ行ってないんだろ?」

「…なんだっていいでしょ。旭岡君には関係ない。用事はそれだけ?なら、もう切るわね。」

佳絵がそう言って受話器を置こうとした時、受話器から冷たいよく通る声が聞こえた。

「小太郎に好かれてる真央がそんなにムカツク?」

電話を切ろうとした佳絵も、誉のこの言い方に腹が立ち、もう一度受話器を耳に当てた。

「当たり前でしょ!!あんな横取り見たいな真似されて、腹が立たないはずないじゃない!

ずーっとずーっと好きだった人を突然割って入った可愛い子にとられちゃって、悔しくないわけないじゃないっ!!」

「じゃあ、聞くけど。真央が何をした?」

「真央ちゃんは…っ!…あっ……。」

「真央は何もしてないだろ?」

「……。」

「小太郎の好きな人がたまたま佳絵ちゃんの親友の真央だった。それだけの事だろ。真央を恨むのは御門違いだ。恨むなら自分か小太郎を恨め。真央は関係ないはずだ。」

「……。」

「言っておくけど、俺の行動は完璧に独断でやってる事だから真央は関係ないからな。俺の言ってる事に腹が立ったなら、責めるのは俺だ。じゃぁな。」

(…ップー…プー…プー…ガシャンッ!)

(だって…でも今更遅いわ…。真央ちゃんがこの雨の中いるわけないじゃない…。)

佳絵はそう思いながらも、雨の中を傘もささずに無我夢中で玄関を飛び出し、

学校へと駆けていった。



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