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幼い日の思い出  作者:
16/34

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あとには、小太郎だけが残された。


その頃、今あった出来事を知るよしも無い真央は、相変わらず佳絵を探していた。しかし、どこを探しても佳絵の姿はなかった。真央は校内を隙間無く探したが、それでも佳絵は見つからなかった。

「佳絵ってばどこ行っちゃったんだろう…。まさか、教室にいるのかなぁ…。」

半信半疑のまま真央が教室に行くとそこには、悲しげに一人たたずむ佳絵の姿があった。

「佳絵!よかった、ココに居たんだね。探しちゃったよーっ。」

しかし佳絵に反応はない。部屋の明かりが点いてないせいか、佳絵の表情が読み取れない。

「佳絵…?」

月明かりに照らし出された佳絵の瞳からは、大粒の涙を止め処なく零れていた。

「……!」

「…真央ちゃん、小太郎君に告白されてそんなに嬉しかった?幸せ…?よかったわね!!」

「佳絵…。」

真央は、佳絵にかける言葉が見つからない。

「黙ってればばれないって思った?私には内緒で小太郎君と付き合おうって?」

「佳絵…っ、それは違っ…。」

「…冗談じゃないわよ!」

佳絵は手に持っていた何かを真央に向かって投げつける。真央はそれに対して避けようとはしなかった。そのお陰で、佳絵の投げた何かはもろに真央に当たった。真央に投げつけられたもの。それは、去年のクリスマスにお揃いで買ったペンダントロケットだった。

「…今回だけの事じゃない!いつだってそう…。私だって頑張ってるのに、努力してるのに、スポットライトを当てられるのはいつだって真央ちゃんっ!顔が良いだけでどれだけ待遇されてるのかわかってる?わからないでしょうね。ブスの気持ちなんて可愛子ちゃんの貴方には一生わかりっこないのよ…っ。」

「そんな…っ。佳絵はブスなんかじゃないよ!」

「お世辞は結構よっ!今まで我慢してたけどもう限界…!真央ちゃんとはもう、一緒にいられないわ…。バイバイ」

佳絵はそう言い残すと、教室を飛び出して行ってしまった。

真央はその場に立ち尽くした。

月明かりを浴びた真央は、どこか切なく神秘的な雰囲気に包まれているように見えた。


                       ※


(…ちょっと、言い過ぎたかなぁ)

誉は小太郎にボロクソいった事を少し反省していた。

(…でも生半可な気持ちで迷惑かけてるのは小太郎じゃないか…っ)

誉が教室に入ると、そこには真央がいた。

「…真央?」

真央は誉の声に少し驚きつつ、ゆっくりと振り返った。と、振り返った真央は涙を流してこそいなかったが、今にも泣きそうな弱弱しい表情をしていた。

「……!」

「誉…ちゃん。」

「何かあったのか?!」

(こんな真央をみるのは初めてだ…)

真央はいつも笑顔で、明るくて。みんなのムードメーカーだった。だから、真央が泣いてるところなんて見たことはなかったし、想像も出来なかった。

なのに今は、すぐにでも泣き出しそうな顔をしている。

誉はすばやく頭を働かせた。真央がこんな風になってしまったとしたら、理由は一つしか思い浮かばなかった。

「…佳絵ちゃんと何かあったんだな?」

真央はコクンと頷いた。声を出したら、涙を堪えきれないとような気がした。

「ごめん、俺がついうっかり佳絵ちゃんの前で小太郎が真央に告白したって言っちゃったんだ。ほんと、ごめん…。」

真央は首を横に振った。そして、佳絵が真央に投げつけたペンダントロケットを誉に手渡した。誉は静かにそれを受け取ると、中を開けた。中には真央と佳絵が笑顔で写っている写真と、もう片方には小太郎の写真が収まっていた。

「…それ、佳絵が私に投げてよこしたの。去年のクリスマスにね、二人でお揃いで買った物なんだけど…。肌身離さず持っててくれてたんだなぁ。でも、鎖が切れてるでしょ…。引きちぎったのね。」

「佳絵ちゃんは、真央の事が好きだったからこそ、許せない物があったんだろうね。…真央は涙を堪えてるの?なんで我慢するの?泣きたい時は泣いた方がいいんじゃないの?」

「…私だって泣きたい時はある。でも泣かない、泣いちゃいけない。」

「どうして?」

「約束したから。もう絶対に泣かないって。私はもう、今まで泣きすぎたから。」

「…よくわからないけど、聞かれたくない話?」

「…ちょっとね。時期がきたら話すかもしれないけど。今はまだ…早いから。」

誉は、真央は大丈夫だと思った。真央のために自分が何をしてあげられるかはわからないし、何て言ってあげればいいかだってわからない。でも、きっと真央は自分で解決する。真央は一人でも平気だ。何故かそう思った。でも本当に一人じゃ何も出来ないから、真央にとっては支えてくれる人よりも、守ってあげなければいけない人の方が、今は必要なんだと思う。真央が守ってあげなきゃいけない人は佳絵ちゃんなんだ。だから誉は、真央に協力しないことに決めた。ただ、励ましの言葉ぐらいは掛けておこう。

「真央は、きっと一人で解決する。協力なんて必要としてないと思う。だから俺は何もしない。だけど…、元気のない真央だけは見たくないから、はやく明るく元気ないつもの真央に戻れよ。じゃあな。」

誉はそう言って、早々と教室を出て行こうとした。

(これが俺に出来る精一杯の優しさだから…)

真央はそんな背中に「ありがとう」の言葉を投げ掛けたが、それが誉の耳に届いたかはわからなかった。


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