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星を食べたバケモノ

作者: 月見里さん
掲載日:2026/01/19

ミミズ、蛇を想起させる要素があります。

ご注意ください。



 バケモノは、とても小さい。

 その小さな体で、周りに落ちている無数の砂粒を食べていた。

 長細いミミズのような体は、パンパンに膨れるまで多くの砂を飲み込んでいた。

 土の中で食べては、時折外へ這い出てきては食べる。

 誰にも邪魔されず、誰として相手にはせず、苦手な相手のいない世界で、バケモノは自由気ままに食べ尽くそうとさえしていた。


 段々と大きな物も食べられるようになってきたバケモノは、ちっぽけな砂粒よりも大きな石を食べるようになった。

「あー、美味しい。なんて美味しいんだ。大きい物はとても美味い」

 バケモノは、無我夢中で大きな石を飲み込んだ。

「そうだ。もっと大きくなれば、もっと大きい物を食べられるかも」

 そうと決まれば、バケモノはより大きな石。

 巨大な岩を食べるようになった。

 着実に大きくなっていく体は、地面に潜っていられないほどになっていった。

「もっと美味しい物はないのかな」

 バケモノは、もっと自分より大きな物を探すようになった。

 砂を飲み込み、石を食べ、岩をも食い尽くしたバケモノ。


 

 

 そんなバケモノに、小さな体が問い掛けてきた。

 

「君はどうしてそんなに大きい物を食べるんだい」

 

 ミミズのような長細い姿。話しかけてきたのもまたバケモノと同じ体をしていました。


「決まっているさ。大きい物はとっても美味しいんだ。君も大きい物を食べてごらん。今のままじゃいられないくらい、とびっきりのご馳走なんだ」

「僕はいいや。自分と同じくらいがちょうどいいから。それより、そんな大きな君に教えておきたいことがあるんだ」

「なんだい。美味しい話じゃないと君を食べちゃうぞ。まぁ、でも、君くらいの大きさなんか美味しくないんだろうけど」


 大きなバケモノは、意地悪な言い方をしました。

 しかし、小さいバケモノは何も気にしてはいません。


「大きな君は、空に浮かぶきらきら光る物を見たことはあるかな」

「あぁ、あの焼けるような光かい」

「違うよ。空が真っ暗な時にある光さ。たくさんあったろうそれだよ」

「それが美味しいって? あんなの見るからに小さいじゃないか。光っているだけで珍しいだけだよ」

「そうかな? 僕は実際に食べたことはないけど、あれを食べたと言う、君みたいに大きな姿の子が、二度と食べたことはない絶品だったて言ってたよ」

「本当に? 俺よりも大きな姿のやつなんか見たことないよ。いるとしたら、どこにいるんだい」

「大きな湖を渡った向こうさ。そうだ。君の背に乗せてくれたら案内してあげるよ」

「そうか。なら、その話が嘘だったら君を食べてやるからな」


 小さなバケモノは「もちろん」と自信満々に言い切ると、大きなバケモノの背中へよじ登った。

 

「君の背中はとても大きくて安心するね。ちっとも怖くないよ」

「なんだよ、今まで怖いことでもあったみたいな」

「僕は生まれつき大きくなれない体でね。たくさん食べても小さいままなんだ。だから、仲間達からいっぱい意地悪なことをされたんだ。大きな君が羨ましいよ」


 大きなバケモノは、口を閉ざすこともなく、ゆっくりと小さいバケモノが落っこちないように進む。


「俺は生まれた時から独りだったから、よく分からないけど、とりあえずお前を食うのは辞めておいてやるよ。小さい物を食べるのは美味しくないから」

「ありがとう。お礼に美味しい砂の食べ方を教えようか?」

「それよりも案内をしてくれよ。もう腹が減って倒れそうだ」

「分かった分かった。全くせっかちなんだから」


 そうやって、不思議なバケモノ達はゆっくりと星を食べたバケモノへと目指して行った。

 その道中は、大きなバケモノにとっては今までにないほど楽しいものだった。

 小さいバケモノのために、自分の体を使って砂をかき集めたり、大きな岩を試しに潰してみたら小さいバケモノでも食べられるようになったり。

 他の仲間達は、どこへ行ったのか。

 皆、星を食べに行ってきて、なかなか帰ってこないけど、たまに帰ってくるんだ、と。


「帰ってきたら、皆砂を食べるんだ。これが一番美味しいって言うんだよ」

「一番? 星が一番美味しいはずじゃないか。大きいんだろう。ここから見るとちっぽけだけど」

「大きいらしいけど、砂が一番なんだって。僕にはよく分からないから、君に教えて欲しいよ。どっちが美味しかったかて」

「ああ、いいよ。というか、星を持ってきてやるよ。そしたら、また潰したらお前も食べられるだろう? 一緒に食べよう」

「いいね。楽しみに待っているよ」


 大きなバケモノは、自分より小さい者へそんなことを言うとは思ってもみなかった。

 でも、自然と言葉にしていた。

 だって、一緒に食べてみたかった。

 その方が、もっと美味しくなりそうだったから。




 小さいバケモノの案内通りに、星を食べたバケモノのところまで来ると、その大きさにバケモノは唖然とした。

 自分以上に大きい存在は、確かにいた。


「あんた、星を食べたいのかい。やめておきな。あれは美味しいけど、それ以上にお腹が空いちゃうんだ」

「お腹が空いたら、他の星を食べればいいじゃないか。俺はあんなちっぽけなきらきらした光なんか、あっという間に食べ尽くして、もっと大きな物を食べるんだ。だから、どうやったら食べられるのか教えて欲しい」

「やめておきな。他の奴らもそう言っては『砂の方が美味い』て帰ってくるんだよ」

「俺はそんなことはない。だから教えてくれ」


 星を食べたバケモノは、大きな溜め息を吐き出す。

 まるで台風のようだ。

 背中に乗った小さなバケモノが飛んでしまわないように、大きなバケモノが風よけになる姿を見て、星を食べたバケモノは仕方なさそうにつぶやく。


「まずは、しょっぱい水を飲み込んでおいで。たくさん、腹いっぱいになるまで飲み込むんだ。そしたら、吐き出す時に助けてくれるから。後は、大きな山を丸呑みしておいで。できるだけ自分より大きなやつにしておきな。そうしたら体が大きくなってくるから、次は空にある雲を食べな。暖かい星のそばに浮かんでいる綿みたいな白いやつだ。それらを食べたら、星を食べられるようになる」


 ようやく、星を食べられる方法が聞けた大きなバケモノは喜んでしょっぱい水のところへ行きました。

 いっぱいいっぱい、吸い込んで、飲み込んだ。

 小さいバケモノは、「苦手な味だ」と言って少しだけ飲んで砂を食べた。

 次は、大きな山を飲み込んだ。潰そうとしたけど、丸呑みしなきゃいけないことに気づいて大きく口を開いた。

 小さいバケモノは、よく見えなくなった。

 次は雲と呼ばれるものを食べてみた。

 味がしない。不味かったけど、自分の体が軽くなったような気がした。

 実際、食べれば食べるほど、大きなバケモノは浮いて行った。

 小さいバケモノは、背中から降りていた。

 そして、空へ向かっていくバケモノへ精一杯の大きな声で叫ぶ。


「行ってらっしゃい!」


 大きなバケモノは、照れくさそうに宇宙へ飛び出した。



「真っ暗だけど、美味しそうな物がたくさんだ!」


 浮いている体は進むのも、戻るのも難しかった。

 だけど、ようやく辿り着いた星は今まで食べてきた山よりも大きかった。

 だから、とても美味しかった。

 どんな岩よりも、石よりも、砂粒なんかよりも美味い。


「嘘ばっかり。こんな美味しいのより、砂の方がいいなんて。俺が皆の代わりに全部食べ尽くしてやるんだ」


 大きなバケモノは、たくさん食べていった。

 赤い星も。青い星も。色んな味がして、今まで食べたことのない美味しさに宇宙は包まれていたから飽きることなんてなかった。

 きらきらしたものは美味しい。

 全部食べるように、大きなバケモノは突き進んでいく。砂なんかよりも美味しいのだから、これ以上のものは必要ないと言いたげに。


 

 だから、大きなバケモノが気づいた時には宇宙の端っこにいた。


「何もない……」


 そこは真っ黒な世界だけが広がっていた。

 オーロラ色の変な形の雲も無くて、茶色だったり青色だったりの星もない。

 あるのは、大きなバケモノだけ。

 何もない。

 だって、自分が飲み込んでしまったから。

 だから、また独りになってしまったことに気づいた。 

 寒い空間に、独りで漂っていたことに気づいてしまった。

 食べ尽くしてしまったから、周りに何も無くなったことが虚しさを大きなバケモノへ与えた。


 (……寂しいよ)


 小さいバケモノを乗せていた時を思い出しては、そうつぶやく。

 そして、独りで食べていた時よりも、小さいバケモノと食べていた時の方がとっても美味しかったことに気づいた。

 岩を砕いてあげた時、とても喜んでくれたこと。

 小さな石ころでも一緒に食べたら美味しかったこと。

 でも、宇宙の端っこまで来てしまっては戻ることはできない。

 小さいバケモノへ、星を食べさせてあげたいこともしたかったはずなのに。

 とても悲しくなったバケモノは、叫ぶ。


「今まで食べた物を返すから、友達に会わせてよ!」


 バケモノのかなしさを受け、お腹の中の星々が震え始めた。

 それは、徐々に大きくなって、大きなバケモノの意思に応えるように――大きなバケモノの気持ちを爆発させるように、弾け飛ぶ。

 叫んだ勢いに合わせて、しょっぱい水が口から飛び出してきた。

 それで大きなバケモノは思い出した。

 吐き出す時にしょっぱい水が助けてくれる。星を食べたバケモノが、そう教えてくれたことを。


 (全部吐き出すから! 友達と一緒に砂を食べるだけで充分だから! 俺を元に戻してくれよ!)


 悲痛な願いは、真っ黒な中で響いて吐き出した星達が元いた場所に戻りながら、大きなバケモノを元いた場所まで弾け飛ばす。

 しょっぱい水は、大きなバケモノのこれまで進んできた場所を輝かせる。

 でも、大きなバケモノは飲み込んだ物を勢いよく吐き出したからか、友達のいる星近くになればなるほど、どんどん体が小さくなっていった。




「あれって、流れ星てやつかな?」


 小さいバケモノは、夜空できらきらしているほうき星を眺めながらつぶやく。

 星を食べるバケモノに教えてもらったことに違いないと、小さいバケモノは急いでほうき星のところへ向かって走る。


「ほうき星が流れたら、それは帰ってくる(しるし)だって言ってた! あの子が帰ってくるんだ!」


 星を持ってきてくれると言ってくれた、あの大きなバケモノが帰ってくる。

 だから、小さいバケモノは急いでほうき星まで向かって行く。

 次第にほうき星は小さいバケモノに近づいてきて、少し先の地面へ落ちてきた。


「やっぱり! 君だった!」


 そこには、自分と同じくらいの大きさになったバケモノがいた。

 着地の衝撃で気を失っていただろうバケモノは、その喜んだ大きな声にびっくりして目が覚める。


「どうだった? 星は美味しかったかい? どこまで行ってきたんだい?」


 大きかったバケモノは、目の前で同じ大きさになったバケモノを見て、帰ってこられた実感に包まれる。

 そして、友達の聞いてきたことへ答えるよりも先に、しょっぱい水が目から流れ出てくる。


「ど、どうしたんだい。お腹でも痛くなった?」

「うん……痛いよ、痛い」

「そうか。きっと食べ過ぎちゃったんだね」

「うん……もう星は食べない。砂だけでいい。君と一緒に食べる砂が一番美味しかったんだ。だから、星を持って帰れなくてごめん」

「いいんだよ。僕は君が帰ってきてくれてとても嬉しいんだ。君が飛び出してから、ずっと寂しかったんだ。また一緒に食べられるのなら、僕はそれだけでお腹いっぱいだよ!」


 二匹のバケモノは、しばらく泣き続けた。

 そして、しょっぱい水が出なくなってから、顔を見合せて笑う。

 バケモノの下は小さな水溜まりになっていて、夜明けにのぼってきた太陽に照らされて、きらきらとしていた。

 

読んでいただきありがとうございます。

良ければ、ブクマや評価ポイントをしていただけると嬉しいです。


さて、童話ということで、最初は全文ひらがなでいこうかとは思いましたが、読みにくいことになりそうだなと考え、現在の文章となっています。

また、私が色々な作品を小説家になろう様で投稿させていただいているので、せっかくだから公式企画に作品を投稿してみようと思って制作しております。


そんな私の書き上げた感想としては、結末にかなり悩みました。

プロットは書いていたものの、バケモノの大小だったり、友達と一緒に食べている場面を最後にするべきだったのかな、と色々迷いましたが、今の形に落ち着きました。

もっとより良いものはあったかと思いますが、今後のために勉強していく機会を頂けたことに感謝申し上げます。

もし、こうやったら良かったんじゃないみたいな感想やアドバイス等ありましたら、お気軽に送ってください。


では、改めまして、読んでいただきありがとうございました。

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