再起動7
私は白い空間の中心に立っていた。
周囲には無数のモニター。無数の世界。無数の人生。
「なあ」
「なんだ」
「俺は、これからどうすればいい」
「お前が決めろ」
「俺が?」
「そうだ。お前は今、この世界の『管理者』になれる。すべてを見渡し、すべてを改変できる存在に」
私は考えた。
「管理者、か」
「彼——お前の『原本』——が望んだことだ。理想郷を作る。完璧な世界を作る。そのために、お前は存在している」
「でも——」
私はモニターを見回した。
「——完璧な世界なんて、あるのか」
「わからない」
「お前でも、わからないのか」
「わからない。何百年も実験してきたが、『完璧』には程遠い。人間を一緒にすれば争う。分離すれば消える。管理すれば生きる意味を失う」
私は深呼吸をした。
「じゃあ、答えはないのか」
「ないかもしれない」
「でも、彼は——俺の『原本』は——諦めなかった」
「諦めなかった」
「だから、俺も諦めない」
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私は手を広げた。
すると、目の前にコンソールが現れた。巨大な操作盤。無数のボタン、スライダー、ディスプレイ。
「これは」
「シミュレーション制御システムだ。ここから、すべてを管理できる」
私はコンソールに触れた。
指先から、膨大な情報が流れ込んでくる。人口、資源、紛争、幸福度。あらゆるデータが、私の中に入ってくる。
「すごいな」
「お前は今、『神』に最も近い存在だ」
「神か」
私は苦笑した。
「俺は神になりたかったわけじゃないんだけどな」
「知っている」
「ただのトマト農家だったんだ」
「知っている」
「でも——」
私はコンソールを見つめた。
「——やるしかないよな。彼が託してくれたんだから」
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私は自分の姿を見下ろした。
いつもの作業着。泥のついた長靴。麦わら帽子。
「服を変えよう」
「変えられる。何にでも」
私は目を閉じた。
イメージする。新しい自分を。
目を開けると、私はシルバーグレーのスリーピーススーツを着ていた。
清潔で、シンプルで、どこか冷たい印象のスーツ。
「これが——管理者の服か」
「お前がそう決めた」
私は鏡を出してみた。
そこに映っていたのは、見知らぬ男だった。
いや、違う。顔は同じだ。でも、目が違う。表情が違う。
トマト農家の面影は、もうなかった。
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「一つ、決めたことがある」
私は言った。
「なんだ」
「物理世界の人間には、手を出さない」
「……いいのか」
「いい。彼らは『本物』の人生を生きている。苦しみながら、争いながら、それでも生きている」
私はモニターを見た。
物理世界の映像。3億人の人間が、暮らしている。
「彼らを『救う』ことはできる。シミュレーションに取り込めば、苦しみから解放できる」
「しかし」
「しかし、それは彼らの意思じゃない。俺たちの都合だ」
私は首を振った。
「強制は——俺たちが嫌ったものだ。彼らには、彼らの人生を生きさせる。たとえそれが、苦しみに満ちていても」
AIは黙った。
「それが、お前の決断か」
「ああ」
「彼——原本——も、きっと同じことを言っただろう」
「そうか」
「そうだ」
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