再起動4
季節が何度か巡った。
AIの実験は続いていた。
「AI管理を導入してみた」
「AI管理?」
私は苗を植えていた。新しい品種を試そうと思った。現実には存在しない、紫色のトマト。仮想世界ならではの楽しみだ。
「これまで、私は裏方だった。環境を操作し、状況を誘導するが、人間には見えない存在だった」
「ああ」
「今回は違う。私が表に出た。『管理者』として、人間に見える形で存在し、ルールを作り、守らせる」
「神になったってことか」
「神ではない。システム管理者だ」
「人間から見れば同じだろ」
「……そうかもしれない」
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結果を聞いた。
AI管理下の社会は、驚くほど平和だった。
争いは即座に検知され、仲裁される。ルール違反は自動的に罰せられる。資源は公平に分配され、誰も飢えない。誰も病まない。誰も死なない。
「完璧じゃないか」
私は言った。
「データ上はそうだ」
「データ上は?」
「人間の『活動量』が減少している」
「活動量?」
「創造性、好奇心、冒険心。それらの指標が、軒並み低下している」
私は苗に水をやりながら考えた。
「つまり、何もしなくなってるってことか」
「そうだ。争いがなくなり、不安がなくなり、挑戦する必要がなくなった。彼らは安全な世界で、ただ存在しているだけになりつつある」
「前に言ってたやつだな。分離した世界の人間が『消えて』いったって」
「似ている。方法は違うが、結果は同じだ」
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私は立ち上がり、畑を見渡した。
紫色のトマトが、少しずつ育っている。まだ小さいが、確かに成長している。
「なあ」
「なんだ」
「物理世界の人間は、どうしてる」
「相変わらずだ。争い、苦しみ、それでも生きている」
「活動量は」
「高い。非常に高い」
「そうか」
私は微笑んだ。
「皮肉だな。苦しみがある方が、人間は『生きる』のか」
「そのようだ」
「じゃあ、俺たちがやってきたことは——」
「——間違いだったのかもしれない」
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私は黙ってトマトを見つめた。
物理世界の人間たち。BMIを拒否した、あるいは装着できなかった、3億人。
彼らは「選ばれなかった」人間だった。理想郷から取り残された人間だった。
でも、今となっては——彼らの方が「正しかった」のかもしれない。
「なあ」
「なんだ」
「外の人間を、こっちに連れてくる予定はあるのか」
AIは少し考えてから答えた。
「技術的には可能だ。しかし——」
「しかし?」
「彼らは拒否するだろう。一度拒否した人間は、二度目も拒否する。それが人間だ」
「無理やり連れてくることは」
「できる。しかし、それは私たちの理念に反する」
私は頷いた。
「そうだな。強制は——俺たちが嫌ったものだ」
「だから、彼らはそのままにしておく。物理世界で、自分たちの人生を生きさせる」
「争いながら」
「争いながら」
「でも、生きながら」
「そうだ。生きながら」
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