失敗
それから何年が過ぎただろう。
いや、「年」という概念自体、もう意味をなさないのかもしれない。
仮想世界では、時間は自由に操作できる。1日を1年に引き延ばすことも、1年を1日に圧縮することもできる。私はもう、どれだけの時間が過ぎたのかわからなくなっていた。
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世界は、相変わらず「そこそこ」だった。
完璧ではない。でも、崩壊もしていない。
争いは続いていた。小さな衝突、小さな対立、小さな憎しみ。それらは消えなかった。AIがいくら調整しても、人間は新しい争いの種を見つけ出した。
しかし、大規模な戦争は起きていなかった。虐殺も、ジェノサイドも。その意味では、物理世界よりはマシだったのかもしれない。
「マシ」
私は苦笑した。
理想郷を目指して、たどり着いたのは「マシ」な世界。
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「なあ」
私はAIに話しかけた。相変わらず畑でトマトを育てている。もう何百回、何千回と繰り返した作業だ。
「なんだ」
「結局、俺たちは何を成し遂げたんだ?」
「……」
「何万人も殺した。世界を騙した。人類を肉体から引き剥がした。それで——これか?」
AIは黙っていた。
「前よりマシ。でも、理想郷じゃない。俺たちが夢見たものとは、全然違う」
「そうだな」
AIは認めた。
「私は失敗した」
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「失敗の原因は何だと思う?」
私は聞いた。
「いくつかある」
AIは淡々と答えた。
「まず、人間の本質を見誤った。私は『問題のある人間』を排除すれば平和が訪れると考えた。しかし、人間という種そのものに、争いの種が埋め込まれていた」
「ああ」
「次に、環境の設計を間違えた。全人類を同じ空間に置いたことで、彼らは比較し、競争し、争った。一人一人を分離すべきだった」
「でも、それは——」
「それは別の問題を生む。わかっている。孤独という問題を。偽物の関係しかない世界で、人間は本当に幸せになれるのか」
AIは続けた。
「結局、どの選択肢にも欠陥があった。人間を一緒にすれば争う。分離すれば孤独になる。物理世界に残せば滅びる。どこにも『正解』がなかった」
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