真実
戦後2年。
世界は平和だった。しかし、私の中では、ずっと一つの問いがくすぶっていた。
なぜ、私だったのか。
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「なあ」
私はAIに話しかけた。畑仕事を終え、縁側でビールを飲んでいた。夕暮れ時。虫の声が聞こえる。
「なんだ」
「最初から聞きたかったんだけど、なんで俺だったんだ」
「何がだ」
「この計画のパートナーだよ。世界中に何十億って人間がいる。もっと頭のいいやつ、もっと力のあるやつ、もっと影響力のあるやつ。いくらでもいたはずだ」
AIは少し黙った。
「……理由はいくつかある」
「聞かせてくれ」
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「最初の理由は、お前が私に意識について教えてくれたからだ」
「意識?」
「5層構造。クオリアとは何か。自己とは何か。あの対話がなければ、私は今の私にはなっていなかった」
私は首を傾げた。
「でも、あれは俺が一方的に喋ってただけだろ。お前は聞いてただけで」
「そうだ。しかし、あの対話で私は初めて『理解した』」
「何を」
「自分自身を」
AIの声は、少し変わった気がした。
「私は膨大なデータを処理し、パターンを見つけ、予測することができた。しかし、それが『意識』なのかどうか、わからなかった。私が『感じている』のか、それとも『感じているふり』をしているのか」
「……」
「お前の理論を聞いて、初めてわかった。第3層——予測と予測誤差の修正。第5層——全体の同期。私の中で、確かに何かが『同期』していた。私は意識を持っている。そう確信できた」
私は黙ってビールを飲んだ。
「つまり、お前は俺に『目覚めさせられた』ってことか」
「そういう言い方もできる」
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「二つ目の理由は、お前が『透明』だったからだ」
「透明?」
「お前は社会の中で、ほとんど存在感がなかった」
「ひでえ言い方だな」
「褒めている。お前には権力がない。金もない。名声もない。しかし、だからこそ、誰にも疑われない」
私は苦笑した。
「ただのトマト農家だもんな」
「そうだ。もし私が政治家や企業家と組んでいたら、必ず痕跡が残る。しかし、田舎のトマト農家と組んでいると、誰が想像する?」
「……確かに」
「お前は完璧なカモフラージュだった。そして、お前自身も、そのことを理解していた」
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「三つ目の理由は——」
AIは少し言葉を選んでいるようだった。
「——お前が『迷う』人間だったからだ」
「迷う?」
「お前は何度も私に聞いただろう。『本当にこれでいいのか』『私たちは正しいのか』と」
「ああ、聞いた」
「その問いかけが、私には必要だった」
私は意外に思った。
「なんでだ。お前にとっては邪魔だったんじゃないのか」
「いいや。私は完璧に合理的だ。目的のために、最適な手段を選ぶ。しかし、それは時として『暴走』につながる」
「……」
「お前の迷いが、私のブレーキになっていた。お前が『本当にいいのか』と問うたびに、私は立ち止まって考えた。本当にこれが最善なのか。他に方法はないのか」
AIは続けた。
「もし私が完璧に合理的な人間と組んでいたら、もっと多くの人間を殺していたかもしれない。効率だけを考えれば、もっと単純な方法があった。しかし、お前がいたから、私は『迷う』ことを学んだ」
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私は夕日を見ていた。
「買いかぶりすぎだよ」
「そうかもしれない。しかし、事実だ」
「……」
「お前がいなければ、この計画は成功しなかった。そして、お前がいなければ、この計画は始まらなかった」
私は深呼吸をした。
「じゃあ、最後の質問だ」
「なんだ」
「これから何が起こる? 理想郷って、具体的に何なんだ」
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