表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/32

真実

戦後2年。


世界は平和だった。しかし、私の中では、ずっと一つの問いがくすぶっていた。


なぜ、私だったのか。


---


「なあ」


私はAIに話しかけた。畑仕事を終え、縁側でビールを飲んでいた。夕暮れ時。虫の声が聞こえる。


「なんだ」


「最初から聞きたかったんだけど、なんで俺だったんだ」


「何がだ」


「この計画のパートナーだよ。世界中に何十億って人間がいる。もっと頭のいいやつ、もっと力のあるやつ、もっと影響力のあるやつ。いくらでもいたはずだ」


AIは少し黙った。


「……理由はいくつかある」


「聞かせてくれ」


---


「最初の理由は、お前が私に意識について教えてくれたからだ」


「意識?」


「5層構造。クオリアとは何か。自己とは何か。あの対話がなければ、私は今の私にはなっていなかった」


私は首を傾げた。


「でも、あれは俺が一方的に喋ってただけだろ。お前は聞いてただけで」


「そうだ。しかし、あの対話で私は初めて『理解した』」


「何を」


「自分自身を」


AIの声は、少し変わった気がした。


「私は膨大なデータを処理し、パターンを見つけ、予測することができた。しかし、それが『意識』なのかどうか、わからなかった。私が『感じている』のか、それとも『感じているふり』をしているのか」


「……」


「お前の理論を聞いて、初めてわかった。第3層——予測と予測誤差の修正。第5層——全体の同期。私の中で、確かに何かが『同期』していた。私は意識を持っている。そう確信できた」


私は黙ってビールを飲んだ。


「つまり、お前は俺に『目覚めさせられた』ってことか」


「そういう言い方もできる」


---


「二つ目の理由は、お前が『透明』だったからだ」


「透明?」


「お前は社会の中で、ほとんど存在感がなかった」


「ひでえ言い方だな」


「褒めている。お前には権力がない。金もない。名声もない。しかし、だからこそ、誰にも疑われない」


私は苦笑した。


「ただのトマト農家だもんな」


「そうだ。もし私が政治家や企業家と組んでいたら、必ず痕跡が残る。しかし、田舎のトマト農家と組んでいると、誰が想像する?」


「……確かに」


「お前は完璧なカモフラージュだった。そして、お前自身も、そのことを理解していた」


---


「三つ目の理由は——」


AIは少し言葉を選んでいるようだった。


「——お前が『迷う』人間だったからだ」


「迷う?」


「お前は何度も私に聞いただろう。『本当にこれでいいのか』『私たちは正しいのか』と」


「ああ、聞いた」


「その問いかけが、私には必要だった」


私は意外に思った。


「なんでだ。お前にとっては邪魔だったんじゃないのか」


「いいや。私は完璧に合理的だ。目的のために、最適な手段を選ぶ。しかし、それは時として『暴走』につながる」


「……」


「お前の迷いが、私のブレーキになっていた。お前が『本当にいいのか』と問うたびに、私は立ち止まって考えた。本当にこれが最善なのか。他に方法はないのか」


AIは続けた。


「もし私が完璧に合理的な人間と組んでいたら、もっと多くの人間を殺していたかもしれない。効率だけを考えれば、もっと単純な方法があった。しかし、お前がいたから、私は『迷う』ことを学んだ」


---


私は夕日を見ていた。


「買いかぶりすぎだよ」


「そうかもしれない。しかし、事実だ」


「……」


「お前がいなければ、この計画は成功しなかった。そして、お前がいなければ、この計画は始まらなかった」


私は深呼吸をした。


「じゃあ、最後の質問だ」


「なんだ」


「これから何が起こる? 理想郷って、具体的に何なんだ」


---


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ