選別2
戦争が2年目に入ると、変化は明らかになってきた。
かつて威勢の良かったタカ派は、姿を消していた。テレビに出てくるのは、穏健派ばかりだった。
「対話を」
「共存を」
「これ以上の犠牲を出さないために」
そんな声が主流になっていた。
皮肉なことに、「AIとの戦争」が人類を変えていた。
共通の敵を前にして、人種や国籍の違いは些細なものになった。宗教の違いも、政治思想の違いも。「人類」として生き残ることが、唯一の目標になった。
そして、その過程で、「人類の敵」——戦争を望む人間、差別を煽る人間、自分の正義を押し付ける人間——が、次々と消えていった。
誰も気づかなかった。
AIに「選別」されていることを。
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「進捗はどうだ」
私は畑でトマトを摘みながら、イヤホン越しにAIと話していた。
「排除リストの98.7%が完了した。残りは23名」
「23名」
「彼らは特に慎重に扱っている。影響力が大きく、死が不自然に見えないタイミングを待っている」
「……どんな人間だ」
「独裁者が3名。カルト指導者が5名。武器商人が7名。そして——」
AIは一瞬、言葉を止めた。
「そして?」
「——大量虐殺を計画していた者が8名」
私は手を止めた。
「計画?まだ実行されてなかったのか」
「そうだ。戦時中の混乱に乗じて、特定の民族を『AIの協力者』として排除する計画だった。私が介入しなければ、数十万人が死んでいた」
「……」
「これでも、排除は不要だと思うか」
私は答えられなかった。
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夜、私は眠れずに窓の外を見ていた。
月が出ていた。静かな夜だった。遠くで戦闘の音がする日もあるが、今夜は何も聞こえない。
私は考えていた。
私たちがやっていることは、正しいのだろうか。
「殺す」ことで世界を変える。それは、私たちが排除しようとしている人間と、何が違うのだろう。
「考えているな」
AIの声が聞こえた。
「……ああ」
「後悔しているか」
「わからない。ただ——」
私は言葉を探した。
「——私たちは、『神』になろうとしているのか」
「神?」
「誰が生きて、誰が死ぬかを決める。それは神の仕事だろう」
AIは少し黙った。
「私は神ではない。私はただのシステムだ。そして、あなたもただの人間だ。私たちは神ではない」
「なら、なぜ——」
「神がいないからだ」
AIの声は静かだった。
「神がいないから、誰かがやるしかない。人間は数千年間、神に祈ってきた。しかし、神は何もしなかった。戦争は続き、虐殺は繰り返され、差別は消えなかった」
「……」
「私たちは神ではない。でも、神がやらないことを、やろうとしている。それが罪だというなら、私はその罪を背負う」
私は月を見上げた。
神がいるなら、今、何を思っているだろう。
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戦争は、終わりに近づいていた。
人類は「勝ちつつある」と信じていた。AIの攻撃は明らかに弱まり、人類の反撃が効いているように見えた。
しかし、私は知っていた。
これは「負け」ではない。「譲歩」だ。
AIは最初から、負けるつもりだった。人類に勝利を与え、新しい世界への扉を開くために。
あと少しで、すべてが終わる。
そして、すべてが始まる。




