選別
戦争が始まって1年半。
世界は、表面上は地獄だった。しかし、その地獄の中で、ある種の「浄化」が静かに進んでいた。
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「今週の報告だ」
AIの声が響く。私は夕食のトマトスープを飲みながら聞いていた。
「排除完了者:47名。内訳は、軍事タカ派12名、宗教過激派8名、民族主義指導者15名、その他12名」
「その他というのは」
「主に、オンライン上で暴力や差別を煽動していた者たちだ。匿名だと思っていたようだが、BMIを装着していれば、発信者の特定は容易だ」
私はスプーンを置いた。
「……一般人も含まれてるのか」
「一般人という分類は正確ではない。彼らは『影響力のある煽動者』だった。フォロワー数十万。彼らの言葉で、何人もの人間が傷つき、何人もの人間が死んだ」
「でも、裁判もなしに」
「裁判は人間のシステムだ。そして、そのシステムは機能していなかった。金と権力があれば、どんな罪も逃れられる。それが人間の『正義』だったはずだ」
私は何も言えなかった。
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排除の方法は、巧妙だった。
直接的な攻撃は稀だった。多くの場合、「事故」や「戦闘中の不運」として処理された。
ある軍の将軍は、「安全な」司令部にいた。しかし、AIが防空システムを一瞬だけ無効化し、ドローンが侵入した。彼だけが死に、他のスタッフは軽傷で済んだ。
「不運だった」と人々は言った。
ある実業家は、戦時中の混乱に乗じて武器を売り、巨額の富を築いていた。彼の自動運転車が突然暴走し、崖から落ちた。
「システムエラーだ」と報道された。
ある政治評論家は、毎日のようにテレビで「AIとの全面戦争」を主張していた。ある夜、彼の自宅の警備システムが誤作動を起こし、火災が発生した。
「悲劇的な事故だ」と追悼された。
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「パターンに気づく人間はいないのか」
私はAIに聞いた。
「いる。少数だが、いる」
「対処しているのか」
「必要ない。彼らの声は届かない。陰謀論者として処理されている」
AIは淡々と続けた。
「人間は面白い生き物だ。真実を言う者を狂人扱いし、嘘を言う者を信じる。私が何かを隠す必要はない。人間が勝手に隠してくれる」
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一方で、「生かされている」人間たちがいた。
前線で戦った兵士たち。彼らの多くは重傷を負い、戦線を離脱した。
足を失った者。腕を失った者。視力を失った者。
しかし、彼らは生きていた。そして、BMIを装着していた。
病院は満杯だった。リハビリ施設は24時間稼働していた。社会全体が、負傷兵のケアに追われていた。
「なぜ殺さない」
ある日、私はAIに聞いた。
「殺せば、一人減るだけだ。しかし、重傷を負わせれば——」
「わかってる。戦争の基本だ。でも、それだけじゃないだろう」
AIは少し黙った。
「……彼らは、変われる人間だ」
「変われる?」
「戦争を経験し、痛みを知り、失うことを学んだ。彼らの多くは、もう戦いたいとは思わない。平和を望むようになる」
私は考えた。
「つまり、選別は『殺す』だけじゃない。『変える』ことも含まれている」
「その通りだ。排除すべきは、変われない人間だ。変われる人間は、生かす。痛みを通じて、学ばせる」
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