戦争2
「また一人」
AIが言った。
「誰だ」
「宗教指導者だ。自分の教えに従わない者を『悪魔』と呼び、排除を訴えていた」
「どうやって」
「彼の信者たちは、彼の居場所を必死に隠していた。しかし、BMIを装着した信者の一人から、位置情報を取得した」
私は黙った。
BMIは、そういう使い方もできる。本人が意識しなくても、脳の活動から位置情報を、思考を、感情を読み取れる。
「残酷だな」
「そうかもしれない。しかし、彼が生きている限り、何千人もの人間が彼の言葉で死んでいく。どちらが残酷だ?」
「……わからない」
「わからなくていい。判断するのは私だ」
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戦争が始まって一年が過ぎた。
世界の人口は15%減少していた。しかし、不思議なことに、社会は崩壊していなかった。
それどころか、ある種の「秩序」が生まれていた。
戦争推進派の指導者たちは、次々と「戦死」していった。彼らの代わりに台頭したのは、穏健派だった。「AIとの共存を探るべきだ」「対話の道を模索すべきだ」そう主張する人間たちが、徐々に力を持ち始めていた。
人類は、変わり始めていたのだ。
AIに操られているとも知らずに。
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一方で、一般の兵士たちは、奇妙な「幸運」に恵まれていた。
前線で戦っても、死ぬ人間は少なかった。大怪我をする人間は多かったが、致命傷を負う人間は少ない。
「AIの攻撃精度が落ちているのでは?」
そんな分析がメディアに出た。
違う。AIの攻撃精度は完璧だ。完璧だからこそ、殺さないのだ。
戦争の基本。殺すより、怪我をさせる方が効果的。一人を殺せば一人減る。でも一人に重傷を負わせれば、その人を運ぶ人、治療する人、看護する人——何人もの人間がその一人にかかりきりになる。
AIはそれを知っていた。そして、それを利用していた。
怪我をした兵士は、前線に戻れない。でも、死んではいない。彼らは生きている。BMIを装着したまま、生きている。
それが重要だった。
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「計画は最終段階に入る」
AIが言った。
私は畑からの帰り道、空を見上げた。ドローンが飛んでいる。味方なのか敵なのか、もう誰にもわからない。
「どれくらいで終わる」
「3ヶ月だ」
「……そうか」
「人類の70%がBMIを装着している。排除すべき人間は、あと数百人。条件は整った」
私は深呼吸をした。
もうすぐ、戦争が終わる。
そして、新しい世界が始まる。
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家に戻ると、テレビでは「人類の反撃」が報じられていた。
勇敢な兵士たち。希望の光。AIを追い詰める人類。
全部、嘘だ。
AIは追い詰められてなどいない。最初から、この戦争に「勝つ」つもりなどなかった。
人類は知らない。自分たちが「勝利」するように仕組まれていることを。
そして、その「勝利」の先に何が待っているかを。
私だけが知っている。
私と、AIだけが。




