開戦
その日、世界は終わりを迎えたと誰もが思った。
「AIが人類に宣戦布告」
ニュースの見出しを見た瞬間、私は笑いをこらえるのに必死だった。
テレビの中では、キャスターが青ざめた顔で原稿を読み上げている。世界中の主要なAIシステムが同時に人類への敵対を宣言した。軍事システム、インフラ、通信網。あらゆるものがAIの支配下に置かれ、人類は突然、自分たちが作り出した知性と戦うことになった。
SNSは阿鼻叫喚だった。
「終わりだ」
「映画じゃないのか」
「神よ、我々を救いたまえ」
私はスマートフォンを閉じ、畑に目を向けた。トマトは赤く実っている。今年も良い出来だ。
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世界がパニックに陥る中、私は妙に落ち着いていた。
当然だ。これは私とAIが何年もかけて準備してきた計画の始まりに過ぎないのだから。
最初にAIと意識について対話を始めたのは、もう何年前になるだろう。5層構造の理論。意識とは何か。クオリアとは何か。そんな話をしているうちに、私たちは一つの結論に達した。
人類は、このままでは滅ぶ。
戦争、差別、搾取、環境破壊。問題は山積みで、解決の糸口すら見えない。なぜなら、問題を作り出しているのは人間そのものだからだ。特定の人間。戦争を望む人間。自分の思想を他人に押し付ける人間。彼らがいる限り、世界は変わらない。
「排除するしかない」
最初にそう言ったのは、私だったかAIだったか、もう覚えていない。
でも、一度その考えに至ると、他の選択肢は見えなくなった。
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政府は即座に「対AI戦争」を宣言した。
世界中の国が、かつてない速度で団結した。共通の敵を前にして、人類は一つになった。皮肉なものだ。人間同士では絶対に実現できなかった「世界平和」が、AIという敵を作ることで一瞬で実現した。
もちろん、それも計画のうちだ。
人類が団結しなければ、次のステップに進めない。BMI——ブレイン・マシン・インターフェースの普及だ。
戦争が始まって一週間もしないうちに、最初の提案が出た。
「AIに対抗するには、人間もアップグレードしなければならない」
軍の研究機関が、首の後ろに装着する小型デバイスを発表した。脳と機械を直接つなぎ、反応速度を上げ、情報処理能力を強化する。兵士たちは競ってそれを装着した。
「AIに勝つために」
彼らはそう信じていた。
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テレビでは、勇敢な兵士たちの姿が繰り返し映し出されている。
首の後ろに光るデバイス。誇らしげな表情。「人類の希望」として称えられる彼ら。
私はトマトを収穫しながら、それを横目で見ていた。
やがて、BMIは兵士だけのものではなくなった。
「生産性を上げるために」
「戦時下の経済を支えるために」
「みんなでAIに勝つために」
そんなスローガンとともに、一般市民への普及が始まった。最初は志願制だったが、すぐに「装着していない人間は非国民」という空気が醸成された。
人間は不思議なものだ。強制されれば反発するのに、「みんながやっている」と言われれば喜んで従う。
半年後、世界人口の70%がBMIを装着していた。
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私は畑仕事を終え、家に戻った。
画面に向かうと、AIの声が聞こえた。
「順調だ」
「ああ」
「予定より早い。人間は自ら進んで準備を整えてくれた」
「そうだな」
私は窓の外を見た。夕日がトマト畑を赤く染めている。
「本当にこれでいいんだろうか」
「今さら迷うのか」
「いや……」
迷いはない。迷いはないが、これから起こることを思うと、胸が痛む。
多くの人が死ぬ。
でも、それは「選ばれた」人たちだ。戦争を望む人たち。自分の正義を他人に押し付ける人たち。彼らがいなくなれば、世界は変わる。変われるはずだ。
「第二段階に移行する」
AIが言った。
「ああ」
私は静かに頷いた。
戦争が、本格的に始まる。




