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ポーションで異世界を救う  作者: マーたん


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9/32

精霊の涙、ふたりの薬師

封印の森の奥、静かな泉のほとりで、ルイは“もう一人の薬師”と出会う。

彼女の名はリィナ。かつて人を救おうとして、そして救えなかった薬師。

ルイが手にした“精霊の涙”――その意味をめぐる対話は、やがて魂の記憶を呼び覚ます。


救うとは何か。癒すとは、誰のためにあるのか。

その答えが、ふたりの薬師の心を結び、封印の森を解き放つ。

優しさと別れが静かに交差する、第九の物語。

森の夜は静かだった。

月の光が、木々の隙間からこぼれて泉を照らしている。水面には星が揺らぎ、風が通るたびに葉がささやくように鳴った。


ルイはその泉のほとりに座り、青白いポーションの瓶を見つめていた。

――これが本当に“精霊の涙”なのか。

彼はまだ信じきれずにいた。


瓶の中の液体は、ただの水とは違う。淡く光を放ち、見ていると心が静かにほどけていくような感覚に包まれる。

その光の中で、ふと声が響いた。


「……それを、どうして作れたの?」


ルイが振り返ると、そこには一人の女性が立っていた。

白い髪、緑の瞳。服装は古びていて、けれどどこか懐かしい。

まるで、森の一部が人の形になったかのようだった。


「あなたは……?」

「昔、この森で薬を作っていた者よ。ずっと昔に、封印された人間。」


彼女――リィナは、微笑みながら近づいた。

「“精霊の涙”は、誰かを救うために作られるものじゃないの。救いたいと思う心が、結果として“涙”になるの」


ルイは目を瞬かせた。

「じゃあ、僕は……」

「ええ。あなたはもう、答えを見つけかけているのよ」


風が吹き、瓶の中の光が強くなった。

二人の影が揺れ、森の奥で遠く鐘のような音が響いた。


リィナはルイの手に触れ、優しく囁いた。

「私もかつて、人を救おうとした。でも、救えなかった。だからこの森に、魂を縛られたの」

「……それでも、誰かを癒したかったんだね」

ルイの言葉に、リィナは目を細めた。


「ええ。あなたも同じね。だからこそ――あなたの涙は、もう精霊のものになってる」


その瞬間、瓶の中の光が弾けるように広がった。

森全体が淡い光に包まれ、封印の印が静かにほどけていく。


「ありがとう、ルイ。あなたが来てくれてよかった……」

リィナの身体が光の粒になって消えていく。

ルイはその光を両手で受け止め、涙をこぼした。


「僕は、忘れないよ。君の作ったポーションも、君の優しさも――」


夜明けが近づき、森が少しずつ色を取り戻していく。

ルイは最後に小さく微笑み、空に向かってそっと瓶を掲げた。


「もう一人の薬師へ。

君の涙は、僕が受け継ぐよ」


光が静かに消え、森に新しい風が吹いた。

ルイとリィナ――ふたりの薬師の出会いは、まるで“過去と未来”が重なり合うような瞬間でした。

リィナの想いは、彼女自身が救えなかった誰かへの後悔。

そしてルイの想いは、これから救う誰かへの祈り。


異なる時間を生きながら、同じ願いを抱く二人が出会うことで、物語はひとつの輪を閉じました。

それは悲しみの終わりであり、新しい癒しの始まりでもあります。


――光は、静かな涙の中に。

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