表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ポーションで異世界を救う  作者: マーたん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/32

王都の塔と、眠れる姫の病

王都で王女を救ったルイは、一夜にして“奇跡の薬師”として名を知られるようになった。

だが、その噂が広がるほどに、望まぬ者たちの耳にも届いていく。

――精霊の涙を再現できる力。

それを奪おうとする影が、静かに動き出す。


そしてルイは、再び森へと向かう。

かつて封印された古の森、そこには“もう一人の薬師”が眠っていた。

優しさと孤独が交錯する、第七の物語。



 王都ロセリア――。

 ルイがその城門をくぐったとき、胸いっぱいに香るのは薬草ではなく、石畳の熱と人々の喧噪だった。

 高くそびえる白亜の塔。街の中心に光の矢のように立つその塔こそ、王国学術院。

 薬師としての彼の新たな旅が、ここから始まる。


 案内人に導かれて塔の中に入ると、空気はひんやりと澄んでいた。

 壁には無数の瓶と魔導具が並び、淡い光がゆらめいている。

 ルイの目の前に現れたのは、銀髪の女性――学術院の代表、セリア=ル=アルメリア。

 青い瞳は理知的で、どこか冷たくもあった。


 「あなたが……ルイ殿ね。森の薬師。ようこそ王都へ」

 「お招きありがとうございます。けれど……なぜ、僕なんかを?」

 セリアは静かに頷いた。

 「私たちは“癒しのポーション”を研究してきた。だが――どれほど純度を高めても、ある病には効かない」


 そのとき、重い扉が開いた。

 中から現れたのは金糸の髪を持つ少女。いや、正確には――白い寝衣に包まれたまま、魔法の台座に横たわる姿だった。

 「彼女は王女アメリア。

  三年前から原因不明の病で眠り続けている。

  どんな魔法も薬も、目を覚まさせることはできなかった」


 ルイは近づき、静かに王女の顔を見た。

 穏やかで、苦しんでいるようには見えない。けれど、その瞼の下には確かな“痛み”が感じられた。

 「……魂が、疲れているんだ」

 「何ですって?」

 セリアが眉をひそめる。ルイは小さく息を吸った。


 「これは、身体の病じゃない。心と魔力が擦り切れた状態……精霊の涙なら、癒せるかもしれません」

 「精霊の……涙?」

 セリアの目がわずかに揺れた。

 「そんなものは、伝承の中だけの存在よ」

 ルイは答えず、小瓶を取り出した。森で拾った、あの淡い光の水。


 その一滴を、ポーションに落とす。

 瓶が淡く輝き、部屋の空気が澄み渡っていく。

 ルイは慎重に王女の唇に一口、そっと注いだ。


 ――静寂。

 時間が止まったように誰もが息を潜める。

 すると、王女の指がかすかに動いた。

 まぶたが震え、薄く開く。


 「……あたたかい……風……?」


 その声に、セリアが凍りついた。

 涙が、頬を伝う。

 「アメリア様……! 本当に……!」


 王都の塔に、静かな歓声が満ちた。

 だがルイは、ただそっと瓶を見つめていた。

 光はもう消え、精霊の涙は完全に使い果たされていた。

 「……これで、もうあの力は使えない」


 セリアが近づき、静かに言った。

 「あなたはこの国を救った。だが、なぜかその顔には悲しみがあるのね」

 ルイは微笑んだ。

 「癒すことは、奪うことでもあります。

  力の代償が何か――それを確かめるまでは、僕は笑えません」


 夜、王都の塔の上。

 星が瞬く空の下、ルイはそっと祈った。

 ――どうか、あの精霊の涙が、二度と誰かを悲しませませんように…

今回は、ルイの“癒し”に対する哲学が大きく揺らぐ章になります。

彼が信じてきた「救うことの意味」を、もう一人の薬師との出会いを通して問い直していく――。

優しい世界の中に、ほんの少しの闇と痛みを滲ませたいと思います。

静かな森の中で交わる二つの魂、その結末を見届けてください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ