薬師と王都の招待状
前回までのポーションほのぼのは、如何でしたか?
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翌朝、森の小屋は鳥のさえずりで満たされていた。
夜を越えたルイは、焚き火の名残の煙を見つめながら深呼吸した。
昨夜、精霊の涙を混ぜたポーションで救ったカデルは、もう痛みひとつ見せずに笑っている。
「助かったよ、本当に……命の恩人だな」
「大げさだよ。ただの薬だよ」
ルイが照れくさそうに笑うと、カデルは首を振った。
「いや、違う。あれは“癒し”って言葉じゃ追いつかない。あんな奇跡を見たら、誰だって信じるさ」
そう言って、カデルは懐から一通の封筒を取り出した。
金色の蝋で封じられた、立派な王都印の封書。
「これを渡すように頼まれてたんだ。……王都の学術院から。ポーション職人を探してるらしい」
「王都……学術院?」
ルイは思わず目を見開いた。
その名を知らぬ者はいない。
王都ロセリアの中央にある大理石の塔――学術院は、魔法学と錬金術を司る王国随一の知の殿堂。
そんな場所が、自分のような田舎の薬師を呼ぶなど、考えたこともなかった。
封を切ると、淡い香料の匂いが漂う。
便箋には美しい文字が並び、そこにはこう書かれていた。
> 「ポーション職人ルイ殿。あなたの作り出した“癒しの水”が、王都においても確認されました。
> 王国はその力を正式に評価し、調査および協力をお願い申し上げます。
> 七日後、王都ロセリアにてお待ちしております。
> ― 王国学術院代表 セリア=ル=アルメリア」
「……僕のこと、どうして知ってるんだろう」
「昨日のあのポーションの光、森の外まで見えてたらしいぜ。学術院の観測士が目撃してるって話だ」
カデルが苦笑まじりに言った。
ルイはしばらく黙っていた。
村を出ることなど、一度も考えたことがなかった。
ここには薬草があり、静かな時間があり、助けを求める人々がいた。
だが――
(あの光が、誰かをまた救えるなら……)
彼は小さくうなずいた。
「……行ってみよう。僕のポーションが、どこまで通じるか確かめたい」
カデルは笑った。
「そうこなくちゃ。じゃあ馬車は任せろ、王都まで送ってやる」
数日後。
ルイは小屋を整え、瓶のひとつひとつに布を巻きつけて旅支度を整えた。
森の風が髪を揺らし、扉を閉じる音が静かに響く。
「いってきます、精霊さん」
小さく呟いたその声に応えるように、机の上の瓶が一瞬だけ光った。
まるで、送り出すように。
馬車の車輪が回る。
小屋が遠ざかり、森が緑の海のように広がる。
ルイの心には、ほんの少しの不安と、大きな希望が混ざっていた。
――癒しのポーションが、ついに世界へ旅立つ。
次回も楽しみに




