星降る夜と、眠れぬ傷跡
前回のポーションほのぼのは?
どうでしたか?
⸻
その夜、ルイは眠れなかった。
小屋の窓から見上げた空は、雲ひとつなく、星々が降るように輝いていた。けれど、胸の奥に引っかかるものがあった。昼間、森で見つけた精霊の涙のような水滴――あのひとしずくが、今も彼の机の上で淡い光を放っている。
「……これは、ただの水じゃない」
瓶に移しても、光は消えない。どこか生きているようで、瓶の内側をゆらゆらと流れていた。
ふと、戸を叩く音がした。
夜更けに訪ねてくる者など滅多にいない。ルイは警戒しつつ扉を開ける。そこに立っていたのは――昼間別れたはずの旅商人カデルだった。
「おい、ルイ。助けてくれ……!」
彼の肩には、血のついた包帯。馬車は倒れ、荷車は半壊していた。どうやら盗賊に襲われたらしい。
ルイは驚く暇もなく、すぐに手を伸ばした。
「中へ。すぐに手当てする」
ポーションを取り出し、包帯をほどく。深い裂傷――だが命に別状はない。
ルイは静かに呟きながら、精霊の涙の入った瓶を見た。
「……試すしかないか」
彼は瓶の栓を開け、光る液体をポーションに一滴垂らした。
すると――ふわりと風が吹いた。
夜の小屋に風が満ち、傷口に触れた瞬間、カデルの痛みが消えていく。血が止まり、肌が再び結ばれていくように癒えていった。
「なんだ……これは……」
「“精霊の涙”だよ。森で拾ったんだ」
ルイの声はどこか震えていた。恐れでもあり、驚きでもあった。
ポーションが、まるで命そのものを繋ぎ止めたようだった。
カデルはゆっくりと体を起こし、星空を見上げた。
「……こんな力、初めて見た。あんた、やっぱりただの薬師じゃないな」
ルイは首を振った。
「違うよ。ただ――誰かを救いたいって、それだけなんだ」
沈黙の中、外からフクロウの鳴き声が聞こえる。
夜は静かで、星はいつもより近くに感じられた。
そしてカデルは、ふと微笑んだ。
「この世界は、まだ救えるかもしれないな。あんたの“ポーション”で」
ルイは答えなかった。ただ、机の上の瓶を見つめていた。
精霊の涙が、今もやさしく光りながら、静かに未来を照らしていた。
次回も楽しみに




