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ポーションで異世界を救う  作者: マーたん


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ほのぼのポーション日和 ― ルイ、再出発 ―

戦いや絶望の続いたルイ編に、少し休息を。

今回は「ほのぼのポーション日和」と題して、癒しと笑顔の一幕を描きました。

戦うだけが救いじゃない、というルイの新たな価値観を示しています。



「恋のポーション」とは、ただ恋を叶える薬ではなく、

“想いを伝える勇気”をくれるもの。

ルイの優しさと、かつての傷が重なる一話です。


王都の喧騒から少し離れた丘の上。

小さな石造りの家の前で、ルイはのんびりと湯気を立てるカップを手にしていた。


「ふぅ……やっぱり、朝のハーブティーは最高だな」


研究も戦いもない、久々の穏やかな朝。

鳥のさえずりと、風に揺れる薬草の香り。

かつて“世界を救った男”とは思えないほど、ルイはすっかり“田舎のお兄さん”の顔になっていた。


軒先では、弟子だった少女・ミナが小さな壺を磨いている。

「ルイ先生〜! このポーション、また泡立ってますよ!」

「おお、発酵がうまくいってるな。失敗じゃない、成功だぞ」

「えっ!? 泡立つ方が成功なんですか!?」


ルイは笑って頷きながら、ミナの頭をくしゃっと撫でた。

「そうさ。見た目が派手なほど、効果も優しいんだ」


棚の上には、色とりどりのポーションが並んでいた。

赤いのは「体力回復」、青は「魔力回復」、緑は「胃腸に優しい」、そして……ピンクの瓶には「恋のきっかけポーション」と手書きでラベルが貼られている。


「……これ、ほんとに効くんですか?」

ミナがじっとピンクの瓶を見つめる。

ルイは少し頬をかきながら苦笑した。

「効くよ。ただし“気持ちを素直にする”だけだ。相手を好きになる魔法じゃない」

「そ、そういうのは……使いませんからね!」

「はは、そう言う子ほど、こっそり作りたがるもんだ」


そんな軽口を交わしながら、ルイは再び調合台に向かう。

小さな瓶に光を込めながら、彼は思う。


――戦うためのポーションじゃなくていい。

――誰かを笑顔にできるものを、もう一度作りたい。


陽だまりの中で、ルイは微笑んだ。

遠い過去の痛みが、ようやく癒えていくのを感じながら。


午後になると、村の子どもたちが集まってきて、ルイの小屋は小さな薬草教室に早変わりした。

「これ、かんそうしてお茶にしてもいいんだよ!」

「え〜! 苦い〜!」

「苦いほど効くんだぞ」


笑い声が絶えない。

その光景に、ルイはふと空を見上げた。


――リシェル、俺はようやく笑えるようになったよ。


空はやさしく澄み渡り、どこまでも青かった。





消えた恋のポーション


ルイの小屋には、今日も穏やかな風が流れていた。

薬草を干す香り、焙煎した豆の香ばしさ、そして弟子ミナの小さな鼻歌。


「先生〜! 昨日作ってた“恋のきっかけポーション”、棚に置いてたやつが――」


ルイは調合机から顔を上げた。

「……まさか、消えたのか?」

「うん……ひとつだけ、なくなってます!」


棚を確認すると、確かにあの淡いピンクの瓶だけが跡形もない。

代わりに、ラベルの切れ端がひらりと落ちていた。


『ありがとう、勇気をくれる薬師さんへ』


――誰かが、こっそり持っていった。

それも、ただの悪戯ではない。

ルイにはすぐに分かった。

この文面には、“切実な想い”が滲んでいる。


「……ミナ、村の子たちは?」

「さっき全員帰りました。でも、旅の人が一人、昨日から宿に泊まってたみたいです」

「旅の人、ね……」


ルイは外套を羽織り、静かに小屋を出た。

陽は傾きかけ、丘の下の小道には、金色の光が差し込んでいた。

その道の先に、小さな影がひとつ――

髪を風に揺らす若い女性が、瓶を胸に抱いて立っていた。


「……やっぱり、君か」

ルイが声をかけると、女性は驚いたように振り向いた。


「すみません……! でも、どうしても必要だったんです!」

「誰かに想いを伝えたいのか?」

「違います。……夫に、です。もう、言葉も届かない人に」


ルイの胸が少し痛んだ。

――まるで、かつての自分だ。

彼女の手の中のポーションは、淡く光りながらも揺らめいていた。

“想い”が強すぎると、効力が不安定になる。


「……君の気持ちは、よく分かる。けどその薬は、相手を変えるものじゃない」

「ええ、分かってます。だからこそ……せめて、最後に“ありがとう”って伝えたいんです」


ルイは一歩近づいて、そっと瓶に触れた。

その瞬間、瓶の中の光がふっとやさしく広がった。


「……いいだろう。けれど、使う時は心を穏やかに」

「はい……ありがとう、ルイさん」


女性は涙を浮かべながら微笑み、瓶を胸に抱いて丘を降りていった。


残されたルイは、しばらくその場に立ち尽くした。

やさしい風が、彼の頬を撫でていく。


「……恋のポーションか。誰かを癒すために作ったものが、

 こうして“別れの勇気”になるとはな」


家に戻ると、ミナが心配そうに出迎えた。

「先生、どうでした?」

「……うまくいったさ。恋のポーションは、ちゃんと“誰かの想い”を支えてくれた」

「そっか……じゃあ、きっと喜んでますね」


ルイは笑って頷く。

そして、机の上に新しい瓶を置いた。

ラベルにはこう書かれている。


『恋のきっかけポーション ― 第二配合:別れを癒す薬』


小さな瓶が、やわらかい光を灯した。

それはまるで、心の痛みを包み込むように――。

ルイの穏やかな日常が続くかに見えますが、次回「消えた恋のポーション」で、

この平和な日々に“ほんの少しの波風”が立ちます。

優しさとユーモアのあいだに、彼の過去が再び顔をのぞかせます。




この回では、“癒すこと”の意味を少しだけ変えて描きました。

それは命を救うことでも、戦いに勝つことでもない。

――人の心に寄り添うこと。

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