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ポーションで異世界を救う  作者: マーたん


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23/32

ルイのポーション ― 師の癒し ―



王都広場は、昼の陽光に包まれていた。

ポーション大会、最終戦。

観客席を埋め尽くす人々の視線が、ひとりの男へと注がれている。


――ルイ。

“癒しの塔の生還者”、そして伝説のポーション使い。

彼が挑むのは、かつての弟子・セナ。


「……まさか、師匠と戦うことになるなんて思いませんでした」

セナの声には、緊張と、少しの誇らしさが混じっていた。


「俺もだよ。けど、ここまで成長したお前を誇りに思う」

ルイは柔らかく笑った。その目には、かつて失ったすべてと、今を生きるすべてが宿っている。



司会者の声が響く。

「――最終戦、開始ッ!」


鐘が鳴ると同時に、二人は動いた。

セナは軽やかに材料を並べ、光の草を刻み始める。

ルイは静かに腰を下ろし、古びた革袋から一本の小瓶を取り出した。


それは、琥珀色のポーション。

かつて師匠から譲り受けた“未完成の癒し薬”だった。


「……これを完成させる日が、ようやく来たか」

ルイは目を閉じ、深く息を吸った。


彼の周囲に、淡い光の粒が舞い始める。

観客席からざわめきが起こる――彼が使っているのは、生体魔力融合術バイオリンク

自らの生命力を薬に繋げ、癒しの“源”とする、禁断の調合法。



セナはその気配を感じ取り、息を呑んだ。

「まさか……師匠、自分の命を使って……!」


「ポーションは、命を救うためにある。

 誰かの痛みを癒すために、自分が削れるなら――それもまた“癒し”だ。」


その言葉とともに、ルイの両手が光り出す。

瓶の中の琥珀色が、ゆっくりと金色へと変わっていく。


セナは震える手で、彼の背を見つめながら調合を進める。

――負けたくない。けど、勝ってほしくもない。

そんな矛盾した想いが、胸の奥でぶつかり合っていた。



やがて、ルイの薬が完成する。

瓶の中には、太陽のように輝く液体――

見る者すべての心を温める“黄金のゴールデン・ティア”。


ルイは小さく呟いた。

「これは……俺の師と、そして失った彼女たちへの……答えだ」


審査員が一口含む。

途端に、周囲の空気が変わった。

苦しそうにしていた観客の子どもが、息を吹き返す。

倒れていた兵士が目を覚ます。


――それは、命を“癒す”だけでなく、魂を“還す”薬。

師の遺志と、エレナの祈りと、ルイ自身の命が融合した究極のポーションだった。



セナは涙をこぼしながら、自分の薬を掲げる。

「師匠……私も、あなたを超えるために作りました」


彼女の瓶の中には、光ではなく“風”が揺れていた。

それは心を軽くする、穏やかな癒し――“そよ風のウィンド・ティア”。


審査が行われ、結果が発表される。

――勝者、ルイ。


しかし、ルイは首を横に振った。

「いいえ、優勝はセナです。

 俺の薬は、過去を癒した。

 だが、彼女の薬は――未来を癒した」


その言葉に、会場は静まり返り、そして大きな拍手が湧き起こった。



大会が終わり、夕暮れの中、ルイはひとり屋上で空を見上げた。

雲の向こうに、かつての師とエレナの面影が浮かぶ。


「……ようやく、癒せたよ。俺自身も。」


風が吹き抜け、遠くからセナの笑い声が聞こえる。

その音が、ルイにとって何よりも心地よい“癒し”だった。

… …

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