ポーション大会 ― 癒しの王を決める戦い ―
癒しの塔の戦いから季節が過ぎ、王都に再び光が戻っていた。
傷ついた人々の心を癒すために、ルイは新たな学院を建て、
“癒し”という言葉を再び信じられる場所を作ろうとしていた。
そして訪れる、初めての大舞台――ポーション大会。
それはただの技術競争ではなく、「誰が最も心を癒せるか」を問う祭典だった。
師ルイ、弟子セナ。
それぞれの思いを胸に、癒しの光が交錯する。
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王都に静かな風が吹いた。
「癒しの塔」の崩壊から数ヶ月。
ルイはその後、旅を終えて再び王都に戻り、師の遺志を継ぐようにして“ポーションの学院”を再建していた。
その学院が今、王国最大の祭典――**《第一回ポーション大会》**を迎えていた。
「師匠!出場者がもうすぐそろいます!」
セナが明るい声で駆け寄ってくる。
あの塔の戦いを見届けて以来、彼女はすっかりたくましくなっていた。
「ありがとう、セナ。……いいか、これはただの競技じゃない。癒しを求める人々の希望の祭だ」
「はいっ! でも、優勝はいただきますからね!」
セナは笑って宣言した。その目には、かつてのルイの面影が宿っていた。
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大会の広場には、各国から集まった調合師や薬師たちがずらりと並んでいた。
透明なガラス瓶に光る薬液、蒸留釜の白い煙、香草の香り――
空気全体がまるで癒しの魔法に包まれたようだった。
司会者が声を張り上げる。
「栄えある第一回ポーション大会――開幕です!」
観客の歓声が広場を包んだ。
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第一戦、セナの相手は東方連邦の青年・リュシアン。
彼は“戦場の錬金師”の異名を持ち、即効性のある回復薬で名を馳せていた。
「ポーションとは、速さと精度。心を込める必要なんてない」
リュシアンは淡々と言い放つ。
だがセナは微笑み、瓶を両手で包んだ。
「いえ、癒しは“祈り”でもあるんです」
調合が始まる。
ルイは観覧席から、静かに見守っていた。
セナの指先が草を裂き、光の粒子が舞う。
彼女が混ぜたのは、かつてルイがエレナを癒そうとして失敗した“涙草”。
だが今回は違った。
セナはその涙草を笑顔で包み、祈るように薬液へ落とした。
瓶の中に、小さな光の花が咲く。
「完成……“陽だまりの雫”!」
リュシアンの薬は速効性で勝っていた。
だが審査員たちは、セナのポーションを一口飲み、驚きに目を見開いた。
「……これは、心が……温かくなる……?」
観客席に小さなざわめきが広がった。
リュシアンは信じられないという表情で呟いた。
「そんな……ただの回復薬じゃない……」
セナは答える。
「“癒す”って、命をつなぐことだけじゃない。生きたいと思える力を与えることなんです」
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戦いの末、セナは見事に初戦を突破した。
ルイは観覧席から拍手を送りながら、静かに呟いた。
「……もう、俺なんかよりずっと強いな」
空を見上げると、癒しの塔があった場所に、光が降りていた。
まるで、そこから師とエレナが彼らを見守っているかのように…
癒しとは、薬の力ではなく“想い”の強さ。
セナはそのことを、自らの手で証明し始めた。
ルイもまた、かつて失った信念を取り戻しつつある。
だが――大会の裏では、新たな陰謀が動き始めていた。
師と弟子の絆が試される、真の“癒しの戦い”が近づいている。




