癒しの塔 ― 弟子と元恋人 ―
前回までのポーションほのぼのは?
王都の中央にそびえる「癒しの塔」。
その最上階は、王国で最も神聖なポーション研究所――
ルイは王命により、ミレイと共にそこへ招かれていた。
だが、塔の白い石段を登りきった先に、思いがけない人物が立っていた。
「……久しいね、ルイ。」
淡い光をまとった女性――エレナ。
彼女はあの夜の姿とは異なり、いまは王都の研究顧問として復帰していた。
死の淵から蘇った“奇跡のポーション研究者”として、人々の崇拝を受けているらしい。
「エレナ……本当に、生きていたのか。」
「ええ。でも、あの日の私はもういない。」
エレナの瞳には微かな冷たさが宿っていた。
ミレイは一歩前へ出る。
「ルイ様、この方が……?」
「昔の仲間だ。」
その言葉に、ミレイの眉がかすかに揺れた。
エレナは微笑を崩さず、ミレイを見下ろすように言った。
「あなたが新しい弟子ね。ずいぶんと“近い関係”のようだけど――どこまで理解しているの?
ルイの苦しみも、彼の罪も。」
ミレイの唇が震えた。
「理解してます……少しずつでも、支えたいって思ってます!」
「支える?」
エレナの声が低く響いた。
「“救われた者”に支えられるほど、ルイは弱くない。
あなたのような子が関われば、彼はまた傷つくだけよ。」
ミレイの瞳が怒りに燃えた。
「じゃあ……あなたは? 彼を置いて、何も言わずに消えたあなたが、今さら何を言うんですか!」
空気が張りつめた。
塔の魔力が反応し、壁の瓶が小さく震える。
ルイは間に割って入った。
「やめろ、二人とも。」
その声は静かだが、確かな力があった。
「俺は……もう誰かを失いたくない。
過去も、未来も、両方救いたいんだ。」
沈黙が落ちた。
やがて、エレナはかすかに目を伏せ、
「……あなたは、やっぱり変わらないのね」と呟いた。
そして、彼女は懐から古びた巻物を差し出す。
「これが“師匠の最終研究”。
魂を癒すポーションの完全理論よ。
でも、それを扱えるのは――“真に愛を知る者”だけ。」
そう言い残して、エレナは塔の奥へと消えた。
残されたミレイは唇を噛み、
「……負けません。ルイ様を導くのは、わたしです。」
と、決意の瞳で呟いた。
その日から、二人の女の間に見えない火種が生まれた。
師を想い、愛した男を想い、
互いに譲れぬ“絆”と“痛み”を抱えたまま――。
歪みあい




