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ポーションで異世界を救う  作者: マーたん


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16/32

癒えぬ傷 ― 師と亡き妻の記憶 ―

助けられなかった…

焚き火の灯がゆらめく夜。

 リシェルが眠りについたあと、師――アランは一人、炎の前に座っていた。

 風に混じる草の匂いと、焦げた木の匂いが胸を締めつける。

 あの夜の匂いと、同じだった。


 「……君も、救えなかったんだ」

 彼は呟いた。

 誰に言うでもなく、ただ火に向かって。


 十年前、アランには妻がいた。

 名はセリア。ポーション学の研究者であり、彼にとって唯一無二の伴侶。

 二人で貧しい村を巡り、傷病者を癒し、子どもたちに薬草の知識を教えた。

 だが――戦が始まった。


 王国の命令で、彼らの研究成果は軍用へと転用された。

 「人を癒すための薬を、人を殺すために使う」

 それに抵抗したセリアは、王の命で捕らえられ、毒を試され、命を落とした。


 アランはその時、何もできなかった。

 師としても、夫としても。


 ――“何も救えなかった”という言葉の重みを、彼はずっと背負っていた。


 炎の中に、幻のようにセリアの笑顔が浮かぶ。

 「アラン、あなたはそれでも癒しの人でいて」

 最後に彼女が残した言葉。


 だがその言葉が、今も彼を縛り続けている。

 誰かを癒すたび、誰かを救うたび、彼は思い出してしまう。

 「どうして、君を救えなかったのか」と。


 その夜、焚き火の横で眠るリシェルが、うなされるように言葉を漏らした。

 「……師匠……行かないで……」


 アランはそっと立ち上がり、毛布をかけ直した。

 その手は、少しだけ震えていた。

 「行かないよ。今度こそ、誰も置いていかない」


 火の粉が宙に舞い、夜空へと消えていく。

 過去の痛みも、彼の心も、まだ癒えてはいない。

 それでも――その傷を抱えたまま、彼は進む。


 “癒せぬ傷を抱える者にしか、癒しはできない”

 アランの胸に刻まれたその言葉が、再び彼を立ち上がらせるのだった。

アランの“癒し”の力の根源には、深い喪失があった。

救えなかった妻セリアの記憶が、彼を苦しめながらも突き動かしている。

次話では、リシェルがその過去を知り、彼女自身が「誰かを救いたい」と願う瞬間が描かれます――。

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