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ポーションで異世界を救う  作者: マーたん


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追跡 ― 王国令嬢を追う影

師として迎え入れた王国令嬢。しかし彼女は、ある夜、何の前触れもなく姿を消した。

追うのは師としての責務か、それとも――心の衝動か。

夜明け前、ポーションの香りを残して走る影を追い、物語はふたたび動き出す。

王都の空が赤く染まり始めたころ、ルイは違和感を覚えていた。

薬草庫の裏で、わずかな気配が揺れる。

それは風でも、虫でもない。人の気配――しかも複数。


「……誰か、見てるな」


ミレイが戸口の向こうで、調合の道具を片付けていた。

その横顔は真剣で、昨日までの貴族の面影はもうなかった。

だが、その背に忍び寄る影は確かにあった。


「ミレイ、手を止めて。外に出るな」

「えっ、ルイ様?」


ルイが窓を開け、外を覗く。

そこには、黒い外套をまとった三人の男たちが立っていた。

紋章のない鎧。王国の騎士ではない――つまり、追っ手だ。


「やはり来たか……」


ルイは静かに腰の小瓶を取り出す。

師匠マリアンヌから受け継いだ、蒸発型ポーション――煙幕のように使う緊急用だ。


その瞬間、扉が破られた。

「そこまでだ、ルイ薬師!」

「ミレイ・アルヴァン令嬢をお渡しいただこう。これは王命である!」


「王命……? 嘘だな」

ルイは低く呟き、瓶を床に叩きつけた。

轟、と淡い白煙が辺りを包み、視界がかすむ。


「ミレイ、走れ!」

「は、はいっ!」


二人は裏口から飛び出し、城下町の裏路地へと駆け込んだ。

人々の夕餉の香り、灯り始めたランプの列。

その中を、ミレイは必死に走る。スカートの裾を裂き、靴を脱ぎ捨て、それでも前を向いて。


「どうして……どうしてわたくしを追うんですか!?」

「お前の存在が“邪魔”なんだ」ルイが言う。「貴族の中には、癒しの術を“民を強くしすぎる”と恐れる連中がいる」


「そんな……」

ミレイの瞳に涙が光る。

「助けたいだけなのに……それが罪だというのですか?」

「いいや、罪じゃない。だが、真実を知る者にとっては、都合が悪いだけだ」


その時、背後から矢が放たれた。

ヒュッ――

ルイは即座にミレイを抱き寄せ、ポーションの蓋を開けた。

「〈防壁のバリア・ドロップ〉!」

透明な膜が二人を包み、矢が空気の中で弾かれる。


「このまま東門へ走れ! 森まで行けば追えない!」

「でも、ルイ様は――!」

「行け! 師としての命令だ!」


ミレイは涙をこぼしながら走り出した。

ルイは振り返り、追ってくる暗殺者たちに向き直る。

「……師匠、こういう時に使うって言ってたよな」

腰の袋から一本の青いポーションを取り出す。

「“加速薬”――身体能力を一時的に高める禁断の薬。僕自身を、武器にする」


青い液体が喉を焼くように流れ込み、体が熱を帯びた。

次の瞬間、ルイの姿が風のように消えた。


「なっ……どこに――ぐっ!?」

ルイの拳が、音より早く敵の頬を打ち抜く。

もう一人が剣を振り下ろすが、その刃が触れるよりも先に、ルイの掌が閃光のように動いた。

「〈光震の波〉――!」

光の衝撃波が闇を裂き、追手たちを一瞬で吹き飛ばす。


呼吸が荒い。視界が揺れる。

身体に流れ込む薬の副作用――筋肉が軋み、心臓が焼けるように痛む。


それでも、ルイは微笑んだ。

「守るための薬なら、いくらでも飲むさ」


◇◇◇


夜明け前、東門の外で。

ミレイは倒れたままのルイを見つけ、震える手で抱きしめた。

「ルイ様……っ!」

「大丈夫……少し使いすぎただけだ」

彼は微笑み、空を見上げた。

薄明かりの中で、師匠の幻のような姿が一瞬見えた気がした。


「師匠……僕は、守れましたよ」


風が静かに吹き抜ける。

ミレイの涙が頬を伝い、ルイの胸元で光の粒となって消えていった。

その光は、新たな旅立ちの合図のように、夜明けの空を照らしていた。

逃げる理由があるのか、それとも試されているのか。

師と弟子、立場を越えた想いが交錯する「追走編」は、次話で大きな転換を迎えます。

――彼女が追われる“真の理由”が明かされる時、物語は愛と責任の狭間へ…

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