王国令嬢、弟子志願現る
王都に、思わぬ訪問者が現れた――
それは、王国の高貴な家柄に生まれながらも、安穏な生活を捨てて、ルイの弟子を志願する少女だった。
彼女の名はミレイ・アルヴァン。
令嬢としての誇りと、誰かを救いたいという純粋な意志を胸に、師匠の教えを継ぐべく城の薬草庫へ駆け込む。
その一歩は、王国の陰謀と戦場の嵐の中で、新たな物語の始まりを告げる――。
王都の朝は、いつもより華やかに、そして少しざわついていた。
ルイは城の薬草庫で、今日のポーションの調合を始めていた。
手元には師匠マリアンヌの教えと、師の涙から生まれた「約束のポーション」の小瓶。
胸にその一滴を抱え、今日も光を作り出すために慎重に手を動かす。
「……ふぅ、これで今日分の調合は完了かな」
ルイが瓶を棚に戻すと、外から駆ける足音が聞こえた。
振り返ると、城門の方向から小さな影が風のように駆けてくる。
「す、すみません! 薬師の方ですか!?」
その声と共に現れたのは、十代半ばくらいの少女。
栗色の髪を跳ねさせ、瞳は希望と決意で光っている。
「わたくし……ミレイ・アルヴァンです! 王国の貴族の家に生まれましたが、それでも……あなたの弟子になりたいのです!」
ルイは一瞬言葉を失った。
弟子志願――しかも王国の令嬢。
彼女の家柄を考えれば、周囲は驚き、反対するはずだ。
だが、ミレイの瞳には迷いはなく、純粋な決意だけが宿っていた。
「……君、本気で言っているのか?」
「はい! 城での安穏な生活だけでは、わたくしは人を助ける力を持てません。
だから、ルイ様のもとで学び、王国や人々のために力を尽くしたいのです!」
ルイは深く息をつき、微笑んだ。
弟子を取るということは、命を預けることでもある。
戦場でも、陰謀の渦中でも、守り抜かねばならない。
だが、この強い意志を前にして、拒む理由は見つからなかった。
「わかった。じゃあ、まずは名前を教えてくれ」
「ミレイ・アルヴァンです。よろしくお願いします!」
「よし、ミレイ。君にはまず、ポーションの基礎から教える」
◇◇◇
その日から、ルイとミレイの生活は一変する。
朝は薬草の採取、昼は調合実習、夜は魔法陣を使った応用訓練。
ミレイは器用で覚えが早く、何度瓶を割っても決して挫けない。
「ルイ様、このポーション、少し濃すぎますでしょうか?」
「うん、でも悪くない。改良すれば回復力は倍になる」
二人の会話は自然で、師弟の絆が少しずつ積み重なっていく。
城内では、王族や家族たちが驚きと心配の眼差しで見守っていた。
「令嬢が戦場や薬草庫に!? 危険すぎる!」
「しかし、本人が望むなら……ルイ薬師殿が責任を持つのだろう」
ミレイはそれを聞きながらも、微笑みを絶やさなかった。
「わたくし、ルイ様のもとで学ぶことが、何よりも大切なのです」
◇◇◇
ある夜、城の庭で二人は星を見上げていた。
「……リィナさんも、師匠マリアンヌさんも、きっと見守ってくれているのだろうな」
ミレイがそっと手を握る。
「わたくしも、ルイ様を信じます。弟子として、師匠の光を学ぶ者として」
瓶の光が静かに揺れ、二人の間に小さな希望が生まれた。
その光は、王国の陰謀や戦場の影をも押し返すように、暖かく輝いている。
だが王都には、まだ多くの危険が潜んでいる。
陰謀の残党、魔物の残党、そして予想もつかぬ敵――
ルイとミレイ、そして仲間たちの冒険は、ここからさらに過酷なものになる。
それでも、弟子と師の絆、仲間たちとの信頼。
小さな光を胸に、ルイは再び歩き出す――
癒しと希望の物語を、次なる戦場へつなぐために…
今回の章では、ルイと新たな弟子ミレイとの出会いが描かれた。
王国の令嬢でありながら、命を救う力を求めて弟子入りを志願するミレイ。
彼女の存在は、物語に新しい希望と責任をもたらす。
師弟の絆、仲間との信頼、そして成長の物語――
小さな光は、これからも戦いと陰謀の中で揺らぎながらも、確かに輝き続ける。
この章は、次なる試練への序章であり、ルイが師匠の教えを受け継ぎ、弟子と共に歩む未来への布石でもある。




