Sランクのパーティーと同行する
封印の森で“もう一人の薬師”を見送り、ルイは王都へ戻る旅路についた。
その途中、彼を待っていたのは――王国最強と謳われるSランク冒険者パーティー「暁の翼」。
彼らは魔王軍の残党討伐のため、辺境へ向かう途中だった。
そして、彼らのリーダー・レオンが言った。
「お前のポーション、噂になってる。
……一度、俺たちと同行してみないか?」
癒しの薬師と、戦場を駆ける英雄たち。
まったく違う価値観が交わるとき、ルイは“仲間と生きる”という意味を知っていく。
冒険と友情が芽吹く、新たな旅立ちの章――
早朝の霧が晴れる頃、ルイは街道を歩いていた。
封印の森を出て三日。手元のポーション瓶はすでにいくつも空いていた。
旅人や傷ついた兵に分け与え、癒すたびに、リィナの言葉が胸に蘇る。
――救うことは、涙のように静かに滲むもの。
そんな時だった。
背後から、馬の蹄の音が近づいてくる。振り返ると、金の紋章を掲げた旗をなびかせる一団が見えた。
「道の真ん中だ、避けてくれ!」
威勢のいい声が響く。ルイが慌てて道端へ寄ると、馬上の男が手綱を引いた。
「……おい、そこの君。まさかルイ・ハートウェルじゃないか?」
声の主は、銀の鎧を着た青年だった。栗色の髪に穏やかな目。
背中には巨大な剣を背負っている。
「僕の名前を……?」
「王都で有名だぞ。“精霊の涙”を再現した薬師だってな。俺はレオン。Sランク冒険者パーティー《暁の翼》のリーダーだ」
そう言って笑う彼の背後には、個性的な仲間たちが並んでいた。
赤髪の女魔導士エミリア、無口な弓手の少年カイル、そして獣人の戦士グラン。
それぞれが放つ気配だけで、彼らが只者でないことが伝わる。
「今、俺たちは辺境のグレイン渓谷に向かってる。魔王軍の残党が巣を作ったらしくてな。
治療班が足りねぇ。……あんたのポーションがあれば、助かる命が増える」
ルイは一瞬迷った。
戦いの現場など、これまで避けてきた。血と叫びの中でポーションを使うなど、考えたこともない。
けれど、リィナの言葉が心の奥で囁く。
――癒す力は、必要とされる場所へ届くもの。
「……分かりました。僕でよければ、同行させてください」
「よし、話が早い!」
レオンは笑い、馬を降りて手を差し出した。
◇◇◇
それからの旅は、想像以上に賑やかだった。
焚き火を囲みながらの食事、魔導士の失敗で起きる小さな爆発、
そしてカイルが弓を磨きながらぽつりと呟く。
「戦いが終わったら、俺は旅をやめたい。
……でも、誰かを助けるあんたの薬、ちょっと羨ましいよ」
ルイは微笑んだ。
「僕もね、誰かを助けるたびに怖くなる。
本当に救えてるのか、自信がなくなるから」
「それでもやめないんだな」
「……ええ。だって、諦めたら、本当に何も残らないから」
その言葉に、焚き火の炎がぱちりと音を立てた。
その夜、彼らの間には確かな絆のようなものが芽生え始めていた。
◇◇◇
そして翌朝。
彼らはグレイン渓谷の入り口に到着した。
地面には魔物の爪跡、焦げた岩肌。
どこか遠くでうめき声が響いている。
レオンが剣を抜き、低く呟く。
「これより先は地獄だ。だが――お前のポーションがあれば、俺たちは何度でも立ち上がれる」
ルイは頷き、腰のポーチから瓶を取り出す。
澄んだ青色が朝日にきらめいた。
「じゃあ、始めましょう。
僕が癒す。みんなは、生きて戻ってきて」
その瞬間、戦いの火蓋が切られた。
光と炎と風が渦巻き、ルイの足元で“癒しの魔法陣”が淡く輝く。
仲間を支えるその姿は、もはや一人の薬師ではなかった。
――彼は、Sランクの仲間たちと肩を並べる、“戦場の癒し手”になっていた。
ここから物語は、新しいステージに入ります。
孤独だったルイが、初めて“仲間”という存在と向き合う章です。
戦う者たちと共に過ごす時間は、彼にとって未知の世界。
ポーションが癒すのは傷だけではなく、心と絆。
そしてルイ自身もまた、仲間たちの中で癒されていきます。
次回は、戦場の真ん中で生まれる“信頼と奇跡”の物語を描きます――




