第2話 世界の再生と現実
瘴気は祓われたが、大地には深い傷跡が残っている。
崩壊した都市、荒れた大地、家族を失った人々。
それでも人々は再び立ち上がり、互いに手を取り合う。
聖堂教会を中心とし、ノエルが前に立ち、ラウレンが支えながら再建を進めている。
泣くのではなく、毅然とした態度で再建に取り組む姿。
祈りではなく、行動で人々を導く姿に“後方の光”が宿る。
「ひどいのよ。アレンさんたちを英雄として讃えさせてほしいってお願いしたのに、固辞するの」
ノエルが頬を膨らませながら言うと、ラウレンが寂しげに笑う。
「誰もが彼らを英雄と称賛する。だが彼ら自身がそれを望んでいない」
空は今日も青い。
「きっと、色々あったんだろう」
ノエルはラウレンと並んで空を見上げる。
*
アレンとフィオナは、エルヴァント峰を訪れていた。
かつて命を賭して戦った場所。
今は静寂に包まれ、ただ風だけが過去を撫でていく。
吹き抜ける風はひんやりと冷たく――竜の巨体は、なおその形を保っていた。
鱗の隙間には白い霜が残り、触れればまだ冷たさを感じるほどだった。
研究のため。
学者たちに泣きつかれ、まとわりつかれたアレンは、渋々持ってきたガラス瓶の中に竜の皮膚片を入れた。
「大変だったね」
フィオナが思い出し笑いをして、アレンは深くため息をつく。
得体の知れない生き物に協力するのは癪だが、未来のためだ。
渋い顔を浮かべつつ、竜の皮膚片入りのガラス瓶をそっと袋にしまった。
風魔法で頂きの窪地に大きな穴を掘る。
そこにすっぽりと竜の亡骸を収め、また土を被せる。
それは竜の墓だった。
アレンとフィオナは静かに手を合わせる。
その隣にはもう一つの小さな土の山。
壊れた封印石を墓標にした、リュミナの墓だった。
封印石には、エリオスの街で拾った首飾りがかけられている。
「あなたは悪じゃなかった。ただ……誰よりも世界を守ってくれていたんだ」
フィオナの言葉に、アレンも頷く。
「瘴気は消えていない。人の心から生まれる限り、また立ち向かわなければならない」
竜に誓う。
「今度は俺たちが前に立つ」
二人は“前線の光”として歩み続ける。
こうして、世界には確かに二つの光が残された。
エルヴァント峰山頂の空気は、以前とは比べ物にならないくらい澄み渡っていた。
ひび割れた岩の隙間から、小さな草が陽を受けて伸びている。
それは、確かにこの世界が再生を始めている証だった。
「俺は、英雄なんかじゃない」
胸に抱えてきた痛みを、言葉にした。
「……うん」
フィオナがそっと返す。
風はどこまでも爽やかで、少しずつ、胸の奥の重みを洗い流していくようだった。
アレンはフィオナを見つめた。
「それでも…俺と共に居てくれるか?」
フィオナは泣き笑いの表情で頷く。
「……うん!」
アレンはふっと笑みを浮かべた。
フィオナの笑顔を、とても綺麗だと思った。




