幕間 ノエル
ノエルはいつも泣いていた。
幼い頃から“光の資質がある”と持ち上げられてきたが、力は小さく、何度も挫折を経験した。
それでも教会内ではノエルの力は大きく、専属の護衛がつけられた。
それがラウレンだった。
小さなノエルは今日も涙をこぼしていた。
人々に聖女と慕われ、彼女も応えようと努力を続けていた。
でも力が足りなかった。
ラウレンはそっと自分のマントを広げ、ノエルを包み込むように守ってくれた。
*
月日は流れ、ノエルは少しずつ自分の力を理解していった。
そんな折、グランゼリアでのフィオナの活躍を聞いた。
凄まじい浄化の力で、あの大きな街を救ったらしい。
「私は、フィオナさんが羨ましい」
ノエルは呟いた。
「行きたいところに行けて、救いたい人を救える。私も、そうありたいのに」
聖女らしくあれと、貞淑であれと求められる。
ラウレンは何かを言いかけて、口を閉ざす。
わかっていた。
彼は聖導教会の騎士。
聖導士の味方だが、ノエルの味方ではない。
*
助けを求める人がいる。
「どうして赴いてはいけないのですか!」
ノエルは導師会に噛みついた。
司祭相手では話にならなかった。
「ノエル。お前の浄化の力は、我らのために使ってもらわねばならぬ」
最高意思決定機関。
そう言えば聞こえはいいが、その実、保身しか考えていない。
ノエルは悔しかった。
私は何のために祈ってきた?
口ばかりで動こうとしない上層部のためか?否。
私腹を肥やす司祭のためか?否。
金で全てを解決できると思っている富豪のためか?否。
ノエルは、ラウレンに宣言する。
「ラウレン。私は、聖導教会を掌握します」
「……は?」
間の抜けた表情は、とても面白かった。
ノエルは口角を持ち上げる。
「聞いてしまったでしょ?これであなたも共犯ですよ」
ノエルは知っていた。
ラウレンもまた、ノエルと同じなのだと。
動きたくても動けない。
聖騎士団長の立場がそれを許さない。
だったら、すべて壊してしまえばいい。
そんな枷、すべて取っ払ってしまえばいい。
ぽかんとしていたラウレンは、だがノエルの笑みを受けて楽しそうに笑った。
「いいだろう、乗った」
*
「竜など御伽噺だ」
世界は混乱に満ちていた。
今動かなければいけないのに、古参の司祭も保身に走る。
ダリオスたちのおかげで決戦に向けた演説は上手くいった。
今動くしかない。
「私は、何を利用してでも、私の理想を手に入れる」
泣き虫だった少女。
それでも誰かを救いたいという思いだけは揺るがず、抗うために、自らの足で立ち上がった。
ノエルの斜め後ろで、ラウレンが目を細めた。
泣き虫だったノエルは、ついに前を向き、自らの足で抗うことを選びました。
彼女が立ち上がれたのは、ラウレンをはじめ、支えてくれる存在が確かにあったからです。
~覚えておくと少し便利な聖導教会の権力図~
最高位
大導師:教会の象徴であり頂点。実務は導師会に委ね、威光を示す存在。
中枢
導師会:教義の解釈や方針を決める最高意思決定機関。政治的権威を持つ。
現場指導層
司祭:各聖堂や拠点の責任者。信者の導きや儀式、聖導士・聖騎士の指揮を担う。
実働部隊
聖導士:瘴気の浄化や医療を行う光術の使い手。女性は聖女、男性は聖人とも。
聖騎士:聖導士を護衛し瘴気や魔獣と戦う戦闘部隊。武勇と献身の象徴。




