幕間 ヴァルセリオ
ヴァルセリオは、生まれたときから光に縛られていた。
聖導教会の中枢の家系に生まれ、幼くしてその才を測られたとき――結果は“闇”。
竜の堕とし子。
その烙印が彼の人生の始まりだった。
闇魔法は束縛し、惑わせ、隠す力。
瘴気を想起させるその性質は、人々に忌み嫌われ、神に背を向けるものとされた。
ヴァルセリオは言った。
「闇はただの魔法の属性にすぎない。瘴気とも、竜とも、何の関わりもないんです」
だが誰も聞こうとはしなかった。
どれほど学問に励み、どれほど歴史を紐解き、どれほど功績を積み上げても、向けられる視線は変わらない。
人は彼を恐れ、教会の同僚は笑い、友は離れていった。
正しさは、あまりに脆く、あまりに容易く歪められる。
そんな折に、彼は“救済の環”の名を知る。
名ばかりの新興教団――そう嘲笑されていた。
だが彼の目には違った。
彼らは瘴気を操作する――神すら冒涜する所業だ。
しかし、理論上、不可能ではない。
何より、彼らは“竜”を崇めていた。
ヴァルセリオは救済の環の一員になった。
各地の遺跡を調べ、碑文を読み解くうちに、ヴァルセリオは気づく。
竜は、かつて人類を救ったのではないか。
恐れられ、封じられ、災厄と呼ばれながら――それでも人を守ろうとしたのではないか。
救いを与えたのに、救った者たちにすら疎まれ、悪の根源とされる。
竜の姿に、自らの影を見た。
共鳴は憧憬に変わり、憧憬は信仰へと堕ちていく。
やがてヴァルセリオは思い込む。
竜ならば理解してくれる。
誰も聞こうとしなかった私の正しさを、あの存在だけは認めてくれる。
救済の環の中で、ヴァルセリオの知識は認められた。
内部での地位が上がり、マグナ・オルビスを知り、解析することで己の理論が間違いではなかったと理解する。
しかし、その過程で――気づかぬうちに己の身も瘴気に毒されつつあった。
彼はそれに、まったく気づかない。
正しさを追い求めた少年は、やがて歪んだ答えに辿り着く。
「全ては人類の救済のために」
その呟きに、かつての純粋な信念は欠片も残っていなかった。
ヴァルセリオは、深く祈る。
「竜の御名に――栄光あれ」
理性はまだ残っていた。
だが己の理論を絶対と信じ、前提を疑わぬまま――そこにいたのは、もはや真理を求める学徒ではなく、竜にすがる狂信者であった。
正しさを求めたヴァルセリオは、その置かれた環境のせいで、悲しい人でした。
誰にも理解されず、信じたものにすがることしかできず――その心は理性と狂気の狭間で揺れ続けたのです。




