エンディング
エルヴァント峰を下る。
まだ高揚の残るナッシュは、足取りも軽く、はしゃぐように声を上げていた。
ジークはその姿を横目にちらりと追って、小さく笑みをこぼす。
だが、すぐに視線は少し離れて歩くイゼリアに向けられた。
「……良かったな」
竜槍を握る手を震わせ、うつむきがちに歩くイゼリア。
「……これでよかった。そう、これで……いいはずなのに」
かすれる声は、自分に言い聞かせるようで。
涙をこらえるその横顔は、誰よりも強く、誰よりも脆かった。
ジークが足を止め、声をかけようとした、その時だった。
最初は誰も気づかなかった。
イゼリアだけが、はっと顔を上げる。
雲を割るように、一条の影が近づいてくる。
「キィアアア……!」
山頂に残る光の粒が風に舞い、静寂を破るようにかすかな音が空を裂いた。
翼を広げ、澄んだ瞳で舞い戻ったのは、飛竜だった。
瘴気に蝕まれたはずの体は清らかに透きとおり、雄々しい姿のままだった。
イゼリアは槍を取り落とし、震える手を伸ばす。
「……アウリア!」
その声は“戦姫”ではなく、ただ一人の少女のものだった。
飛竜が舞い降り、彼女の前で元気に翼を広げる。
イゼリアは泣き笑いでその首にすがりつき、ジークは隣でそっと目元をぬぐう。
ナッシュも、アレンも、フィオナも、互いに顔を見合わせ、安堵の笑みを浮かべる。
やがて視界いっぱいに広がったのは、信じられないほど澄みきった朝焼けの空。
竜が去っても、世界は明日へ続いていく。




