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竜が見た夢  作者: 無名の記録者
第11章 果てなき祈り
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第4話 繋がる想い

 瘴気の渦に押し潰されそうになりながらも、アレンは剣を握りしめ、力を集中させた。


 迷いはなかった。

 胸を締め付ける痛みと絶望の中で、斬る覚悟は既に固まっている。


 苦しみも痛みもなく――最後の一撃が、竜に安らぎをもたらしますように。


 背後から、フィオナの祈りが波のように押し寄せる。

 その刹那、アレンを中心に光の波紋が広がり、瘴気を弾き返した。

 まるで共鳴――剣に宿る光は、アレンとフィオナを結びつけ、力の残滓を呼び覚ます。


 光が奔る刹那、胸の奥で声が蘇る。



『想いは、力だ』


『何だそれ、新しい冗談か?』


 ダリオスがジークの頭を叩く。


『人は、心の底から誰かを想うとき、己でも信じられぬ力を引き出せる――それを昔、親友が教えてくれた』



 瘴気に覆われた竜の巨体に光が届く。

 瞬間、竜の動きがわずかに止まったかのように見えた。


 その静寂の中で、アレンとフィオナは悟る。

 今しかない。


 体から溢れる光に瘴気が弾かれる。

 もはや恐怖も緊張も感じる余裕はなかった。


 アレンは駆けた。

 足音が土を深く踏み締め、周囲の空気を震わせる。

 竜の巨体を前に、心臓を貫く位置に剣を構える。

 前傾する体。

 刃先に全神経を集中させる。

 フィオナの祈りが背中を支えてくれる。


 全身の力を刃に込め、その胸の中心を貫く。

 剣先に宿るすべての想いが光となり、瘴気を弾き飛ばす。

 衝撃が腕から肩、全身に波紋のように広がった。


 白銀の光が世界を覆い、竜と周囲を包み込む。


 光に満たされた空気が、静かに震える。

 瘴気の渦は音もなく掻き消え、空間そのものが清められるかのように輝く。

 ――ただ、光が闇を清める瞬間。


 ごめん、救えなくて。

 世界をずっと護ってくれていたのに。


 ごめん、人の業を背負わせてしまって。

 君がそんなことをする必要はなかったのに。


 もう泣かないと決めていた。

 しかし、頬を伝う涙を、止めることはできなかった。


 衝撃で竜の首がわずかに傾く。

 アレンは目線を上げ、竜の目を見上げた。


 自分の身長とほぼ同じ高さに迫る瞳。

 その深淵な蒼に、一瞬だけ理性と苦痛、そして「ありがとう」の色が宿る。

 どこまでも続く空のような色、鏡の中で何度も見た色に似ていた。


 光の奔流に包まれ、瘴気が後退する。

 竜の鼓動が、ゆっくりと消えゆくのを感じる。


 まだ力は抜けない。それでも、胸の奥に静かな安堵が芽生えていた。


 アレンは深く息を吸い、握りしめた剣から手を放す。

 背後のフィオナも、静かに膝をつき、祈りを収めた。


 光と静寂だけが、戦場に残った。

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